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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第一章 撤退支援戦闘(ウィズドロワル・サポート・バトル)
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◇01 戦塵の中の目覚め (アウェイク)

 --「王国軍は撤退を始めたわ」

 --「小会議では共和国に鉄槌を下したという事で、目的は果たされたと考えているようね」


 -「まあ、貴族ってのは対面を気にするからな」

 -「共和国に攻め込んで叩き出された。が正しいところだろ」


 ---「実質は負け戦で、今度は復讐を覚悟しなければならない」

 ---「今回の戦もそうだが、何ともバカバカしい限りだな」


 ----「後衛戦闘はあの子が指揮を執る。」

 ----「このノイシェーハウ家が後衛の担当と決まった」


 --「これを機に私の家の力を削ぐつもりなのね」

 --「それをあの子が背負わなければならないなんて」


 -「お前の家は大丈夫だろう。でもな。あの子が生きて帰ってくるか」

 -「負け戦の殿しんがり


 ----「この下らない戦に私たちの息子を生贄に捧げる気はない」

 ----「戦場のむくろにする為に育てて来たわけではない」


 ----「あの子なら大丈夫だ」

 ----「私たちの息子だから。信じてまとう」


 -「母親って辛いものね」

 -「祈る事しかできない」


 ----「4人の母の祈りを背負うのだ。大丈夫」




   ※



 雨に打たれているのか?

 なら、家に帰って傘を取ってこないと。

 いや、大学だったかな? 研究室だったかな?

 それなら頭と顔に雨粒を感じる筈だけど、どうして全身に感じるんだ?


 道路に倒れているのか?

 事故?

 それとも酔っぱらって寝てしまった?

 いずれにしなくても早く起きないと。


 いつまでも寝ていてはいられない。

 何だか頭が痛いし、ここはベッドではないだろうから。



   ※



 無音の世界。


 太陽の光を遮る土煙が酷く、視界で天地を判別する事が出来ない。

 僅かに背中にかかる体重が、大地の感触を伝える。


 口も鼻も土埃に満たされ、喉が渇く。


 「…長殿」


 「……殿。大丈夫…す…!中…長殿!」


 絶えず高音満たされる頭の中に、誰かを呼びかける声が聞こえる。


 誰を呼んでいるんだ。

 僅かに動く右腕を上げると、その手を力強く捕まれ引き起こされた。


 「大丈夫ですか!? 中隊長殿!」


 朧げな視界の中に、老年に近い男の顔が入ってくる。


 「自分で立てますか?」


 軋む体を動かして、俺は立ち上がろうとする。

 関節が自由に動かない。

 見ると俺は銀色に燻ぶる金属の鎧を身に着けていた。


 自分の体重ほどもあるのではないかと思われるほど重い鎧を引きづって立ち上がる。


 老年の男の大きな手で体の至る所を叩かれる。

 少しづつ聴覚が戻ってくる。


 「無事みたいですね。よかったです。直撃を受けて死んだかと思いました」


 激しく痛む頭に手をやり、声の主を見る。


 輝きを失った金属製の黒い鎧に身を包んだ老年の男が見える。

 そしてその後ろには、同じように土と埃にまみれた無数の男たちが、僅かな面積の盾の中に縮こまり身を隠していた。

 

 ここはどこだ?

 なんで俺はここにいる?


 体に纏わりつく土埃を払いながら、未だに痛む頭で考える。

 俺が鎧を着ている?

 腰を見ると剣を帯びていた。


 俺と老年騎士の足元をみると、地面が掘り起こされ、2人の騎士が打ち倒されていた。

 それは鎧から騎士とわかるものの、胴当ては歪に凹み、あるべきはずの四肢が全て揃ってはいなかった。


 圧倒的な暴力で叩かれた痕。

 歪んだ鉄の鎧が、柔らかい中身を守るどころか、凶器の棺桶に変わった事は想像に難くない。


 「4Dか? それともVRなのか?」


 俺は言葉に出してみる。


 「ふぉーでぃー? ヴィーアール?」

 「中隊長殿? 大丈夫ですか?」


 先の老年騎士が心配そうに顔を覗き込んでいる。


 知らないのか? 4DとVRを。

 そう思ったところで俺は固まった。


 4D? VR? 俺も知らない言葉だった。

 何故咄嗟にその言葉が出たのか。

 しかし今はそれは重要ではなかった。

 記憶がない?


 ここにいる過程や理由が思いつかない。

 視界に入る全てと俺の空白の記憶が合致していなかった。

 これはいったいどういう事だ?


 「ここの責任者は?」


 手渡された鉄の兜を受け取る。

 ようやく乾いた口から言葉を搾り出す事が出来た。


 俺の言葉を聞いて、老年騎士が絶句する。

 そして驚愕の後、言い含めるようにとても厳しい顔を見せた。


 「何を言ってるのですかご主人様マイロード。この中隊の指揮を執られているのは貴方ですよ」


 なんだって!?

この俺が責任者?


 「仕方ありませんな。兜がこんなです」


 手にした自分の兜を見ると、歪んでとても被れそうになかった。


 「よく生きていましたね」


 今度は俺が驚愕し、改めて周りを見た。

 小高い丘。

 足元には、1列にどこまでも掘られた塹壕に潜む兵たち。


 そして俺と老年騎士と共に地上に立って身を晒し、横1列に並ぶ兵。

 更に後ろには何列にも横に並ぶ兵。


 鎧を付けるもの、皮の服を着ているもの。皆一様に薄汚れた顔をして、不安な目を俺に向けていた。

 この男たちの責任者が俺?


 更に丘から遠くを見渡してみる。

 目の前の低地に広がる青と白の旗。


 整然と並び、その列はどこまでも続くように見えた。

 後ろを見ると断崖絶壁が並び、僅かに崖が切れた谷と、その正面の丘に自分たちが陣取っていた。


 ……これは、まるで戦争しているみたいじゃないか……。

 とてもではないが信じられなかった。


 喉奥まで乾燥していくのがわかる。生唾を飲み込もうにも、土の感覚しかなかった。

 戻り始めた嗅覚が、血と硝煙の匂いを感じ取り始めた。


   ※


 【国境・共和国側平原】


 「連隊長にちゅうもーく!!」

 整然と並ぶ白と青、そして金に彩られた軍服を身にまとい、整然と並ぶ無数の兵の前を騎乗したごつい士官が馬を左右に跳ねさせ叫ぶ。


 そして縦列になった中隊の前に立つ士官、更にその士官の前に立つ大隊長。

 向かい合うように騎乗する幕僚と並んで立つ一人の若い士官が、前に進み出た。


 「目の前にいるのは敗軍の兵だ!」

 「そしてここから先は敵軍、王国の領地になる!」

 「わが祖国を蹂躙した貴族共は、我々人民の力を思い知り、自分たちの家に逃げ帰った!」

 「しかし我々人民は、貴族がどこに逃げ込もうと、安心出来ないことを思い知らせる事が出来る!」


 演説をする連隊長は、戦場に立つ偉丈夫といったいで立ちではなく、戦場の塵芥をまとわない若い貴族に見えるのは皮肉だった。


 しかしその声音は使命がこもり、連隊の隅々にまで行きわたった。


 「貴族あっての人民ではなく、人民あっての貴族だからだ!」

 「そしてそれを知らしめる事が出来るのは! 我々共和国の人民だけである!」

 「人民こそが国家の主人であることを、今ここから知らしめるのだ!」


 連隊から一斉に鬨の声があがる。

 止まぬ歓声の中、更にトーンを上げ絶叫する。


 「貴族共に対する祝砲は放った」

 「次は共和国人民の付託を、わが連隊が担う番だ!」

 「第3大隊! 前進! 無知蒙昧な貴族を蹂躙せよ!」


 音を飲み込む土でさえ、1000近い軍靴は音を上げて波を起こした。

 青地に金で牡鹿の横顔が描かれている無数の旗が丘へ向かって前進する。


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 次回 公平な誇り


 2016年05月03日7:00公開予定


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