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第一章 旅立ち

 新しい朝が来た。



 空には雲一つない快晴の下、私――シャーロット=ランダ―は、今日が旅立ちの朝には、ふさわしい日であると感じていた。



 ――ついに来たって感じね、待ちわびたわ!



 まるで、世界が自分の冒険への出発を祝福してくれているような気がして、人知れず胸が高鳴っていくのを抑えることすら無粋と言わんばかりに、興奮した気持ちが自分の満面の笑顔に滲みでてきているのがわかった。


 ――五歳の頃から夢見ていたことが今日、現実になる


 いや、今日から現実にしていくと言った方が正しいかもしれない。


 なぜなら、今日私は冒険者になるための一歩を歩き始めるのだから。


 この七年間、冒険者になるため両親にずっと鍛えてもらってきたのだ。


 私が母から聞いた、里の外のお話。


 それを聞いてからというもの、心のそこからあふれ出てくる欲求が止まらなくなった。


 それは、歳を重ねるごとにより強く感じるようになっていくのがわかった。


 ――自分の力が、里の外でどれだけのものなのか


 ――里の外には、どんな出会いが待っているのか




 ――そして




 ――この世界は一体どんなところなのか……




 ――確かめたい、触れてみたい、見てみたい!



 そんな思いから、ついにここまで来たのだと思うと、非常に感慨深いとなぁ~と、私は感じていた。


「――シャルル」


 よく知っている声で呼ばれ振り返ると、そこには父が心配そうに立っていた。

     

 隣には優しい微笑みを浮かべる母と、元気いっぱいといった感じに笑顔な妹、後ろには幼いころからの友達や里の住人がそれぞれ思い思いの表情をしながら、旅立つ自分の見送りのために里の門の前に集まってくれたのだ。



 私に声をかけてきた父は、フィーという種族である。


 この里で生まれ、そしてこの村で育ってきたと言う父は、この山に囲まれた里以外に人が集まる場所に行ったことはないと言っていた。


 つまり、外がどういった場所なのか、まったく知らないのだという。


 私が知る父というのは、重度の親馬鹿ってことと、この里の中で一番強いってこと。


 冒険者になるために旅に出るって言ったときは随分と反対された。

     

 でも、母の説得に折れて冒険者になっても大丈夫なように、私を鍛えてくれたのだから、いい父親だと私は思っていた。


 そんな父が、旅立つ前に逆に私の方が心配になってしまいそうである表情を浮かべていたので、私は驚いた。



「どうしたの、お父さん?そんな顔して」

「そりゃあ、心配をしているからに決まっているじゃないか……」


 当たり前だという風に、父は溜息を吐いた。


「……成人したとはいえ、シャルル。お前はまだ十二歳で、しかも女の子だ。そんな子を一人で旅立たせるなんて、心配で心配で仕方ないよ……」


 父が、私のことを大切に思ってくれていることが伝わってきてい嬉しい反面、そのことについては散々話し合った内容に、相変わらず過保護だな~っと、私は苦笑した。


「お父さん、心配し過ぎだって~!私、これから冒険者になるんだから、自分のことは自分で出来るよ!それに、私を鍛えてくれたのはお父さんとお母さんじゃん!!私がどれくらいの実力なのかは二人が一番把握してるでしょ?」


 だから大丈夫だと、私は胸を張って父に言った。

   

 それを聞いてもまだ表情を変えずにいた父に、母が助け舟を出してくれた。


「――そうよ~、あなた。シャルルは立派に成長したわ。それに、なんたって私たちの娘ですもん。大丈夫よ~」


 母は父とは違い、エルフという種族だ。もともと母はこの里の出身ではない。


 というか、そもそもこの里自体が、周りを山という山で囲まれた良く言えば自然溢れる場所。


 悪く言えば,外で暮らしている者からしたら、誰もここに里があるなんて思えない、そんな秘境みたいなところである。


 里のほぼ全員が父と同じフィーであることからどれだけよそ者が珍しいのかわかる。


 そんな、この里ではよそ者である母が、どうしてこの里で生活しているのか。


 それは、母が冒険者だった頃の話。


 ある時、受けていた依頼の途中で強力な魔物に遭遇し、所属していたパーティーが全滅。


 必死に逃げていたところ、森の中で父に出会い助けてもらったとのこと。


 それがきっかけで母は父に惚れ、今に至るというわけだ。


 そんな母に、父はとても甘い。


 いまだに、新婚の時と変わらないくらいアツアツだと里のみんなが口を揃えていうレベルである。


 娘である私や妹がそばにいても、お構いなしにといちゃつき始めるのである。


 それなのに、私を成人になるまで育ててくれたのだからすごいと思う。


 そんなおっとりとした母の説得により、父も仕方ないなぁ~といった感じで溜息を吐いて、微笑みを浮かべてくれた。


 母はそれを見て満足そうに頷きながら、私に向き直った。


「――あなたが冒険者になりたいと言った時から七年。できるだけのことは教えたわ~。あとは、シャルル。あなたが、どのように生きていきたいかだけよ~。自分の気持ちを大切にしなさい。そうすれば、あなたは大丈夫だから……」

「――うん、わかった!」


 母に背中を優しく押された私は、母の言葉を胸に刻みながら、笑顔で力強く頷いた。


 そのあとは、里のみんな一人一人が涙を流しながら私を抱きしめ始めたので、全員に抱きしめ返した。


 直接ぶつかってくるみんなの気持ちが暖かいものばかりで、とても嬉しかった。


 別れの挨拶も一通り済んだ私は、地面に置いていた、これから一人で生活するために必要な道具を詰め込んだカバンを担ぎ上げ、母から貰ったお金(母が村に住む前に持っていたもの)がポケットにあることを確かめ、自分の相棒である小剣(母のおさがり)を腰に差し、里の門から外にある森を抜けて、都市へと出るために、里に背を向けてゆっくりと歩きだした。


「――元気でね、シャルル!」

「――絶対また帰って来いよなー!」

「――体に気を付けるんだよ~!」


 里のみんなが、それぞれ別れの挨拶を大声で叫びながら、手を振ってくれていた。


 私は首だけ振り返り、歩みを止めることなく手を振り返した。


「――お姉ーちゃーん!いってらっしゃーーーーい!!」


 元気いっぱいに笑顔を振りまきながら、一際大きく手を振る妹と、優しく微笑みを浮かべる両親を見つける。


 それが、少しずつ離れていくことに寂しさを感じながら、それ以上の冒険への期待と高揚感で身を包まれていた私は、振っていた手をさらに激しく振り、私は叫んだ。



「いってきまーーーーす!!」



 ――みんな、私、絶対に一人前の冒険者に絶対なるよ!


 そう改めて決意しながら、里のみんなが見えなくなるまで、定期的に振り返り、手を振り続けたのだった。




 ☆




「――行ってしまったか……」


 私――アルバート=ランダ―は、自分の娘が旅立っていくのを見届け、今日何回目かわからない溜息を吐いた。


「――もう、またそんな顔して~。だめよ~、あなた。私たちの娘なんだから、信じてあげなきゃ~」


 隣にいた私の妻――ジュリアン=ランダ―はおっとりとした口調と優しさの象徴といった微笑みを浮かべながら、楽しそうに文句を言ってきた。


 エルフである彼女はその種族特徴として、一言でいえば大変美人であり、そして性格は口調と同じく大変おっとりとしている。


「そうはいってもなぁ、ジュリ……」


 私は、娘の顔を思い出しながら、苦笑した。


 シャルルは、親の贔屓目抜きにして、元気で優しく、とてもいい子であると言えるのだが、如何せんバ……素直すぎる上に、母に似ていて、のん気なところがある。


 タチの悪い輩からしたら、絶好の獲物だろうということを思うと、娘がそういった連中に騙されないか心配なのだ。


「もう~、あなたったら~。あの子はそこまで警戒心は低くないわ~。それに一応とはいえ、成人したのよ~。もう大人なんだから、大丈夫よ~」

「そうかな~……」

「そうよ~」


 妻が私を安心させるように、静かに肩へと寄り添ってくる。


 妻の温かい体温と、金髪のさらさらとした腰まで届きそうな髪の感触。


 優しく私の短い緑の髪を何度も手櫛で梳く。


 そして彼女から微かに漂う甘い匂いに私の心は、次第に穏やかになっていくのを感じた。


「――それに、シャルルはあなたの娘なのよ~。妖精魔法の実力はあなたも認めていたじゃな~い」



 ……確かに、その通りなのだ。



 シャルルは、戦闘に関しては天賦の才を持っている。


 特に妖精魔法は、もう私と互角に渡り合えるレベルまで成長していた。


 それに、一度戦闘を始めるとなかなか容赦がない。


 冷酷とまではいかないが、命を奪うことに忌避感はあまり抱いていない。


 必要があれば、同じ人族同士でもためらう事無く戦えるだろう。


 加えて私たちフィーは、“大都市”に大勢いる人間と見分けがつかない姿をしている。


 しかし、私の種族は言うならば、魂の部分で人間と妖精を足して二で割ったようなものである。


 姿形が似ていても、お互いに理解し合えなければ意味はない。


 かつて、偏見や劣等感による差別を強く持つようになった人間と意見が対立し、今ではフィーのみで構成された隠れ里でひっそりと暮らすようになった私の種族は、もうほとんど過去の歴史でしか知られていない。


 そんなフィーとしての種族として、一番の特徴(というか能力)があるのだが……


 ともかく私は、その能力を使いこなせるように、妖精魔法をシャルルに教えていたのだが、彼女がもつ才能はいろんな意味ですごかった。


 言うなれば、彼女の妖精魔法の才能はとても極端なものだった。


 もしくは、特化型であるとも言える。


 妻が言いたいのは、「娘の妖精魔法の才能があれば、大概のことは大丈夫~」ということなのだろう。


「……でもあの子の才能は、私たちフィーの種族特性を全力で使ってのもの。だから、あの子には一応切り札として使うようにと教えたのだ。それを基準に考えるのは……」


 どこまでも心配性な私に、苦笑いしながら妻は優しく背中を撫でた。


「ほんとに大丈夫よ~。それに、切り札をいつ使うのかを決めるのはあの子の自由よ~。私たちは、あの子の旅立ちを見送った……」


 ――あとできることは、あの子のことを信じてあげることだけよ~


 そう言って微笑んだ妻の顔は、とても母親としての魅力溢れるものだった。


 ――でも、冒険者としてやっていくなら、信頼できる者以外に自分の能力を晒しては駄目って教えたの、ジュリだったじゃないか……


 そんなことを思いながら、内心で少し呆れて妻の顔を見ていた私の服の袖を引っ張ってきたのは、もう一人の娘――アルシア=ランダ―だった。


「どうしたんだ?シア」


 私はジュリと同じ耳だけでなく、髪や顔の作りまでそっくりであるシアの目線まで屈みながら問いかけると、自分の姉が旅立っていった方向を指さした。


「私も、大きくなったら冒険者になりたーーーーい!!」


 元気いっぱいに叫んだもう一人の娘の年齢はちょうど、シャルルが冒険者になりたいと言った歳と同じだった。



 ……一瞬だが、シアにシャルルの面影を見たのは気のせいではないだろう。



 あらあら~、といった感じで微笑む妻の横で、私はもう数えることも馬鹿らしい程の溜息を、深く吐いた。

つい投稿してしまった。後悔はしていない。

 はい、はじめまして。一雪です。

 この度、私の小説を読んでくださってありがとうございます。

 小説を書いたのは初めてなので、至らぬこともありますがご容赦ください。

 あと、いきなりですが不定期更新です。

 すみません、リアルが忙しくて。

 一応少しは書き溜めているので、なるべく4~5日後更新はしたいとは思っています。(出来ていなかったら、察してください)

 長々と書きましたが、みなさんもし良かったら、これからもお付き合いください。

 よろしくお願いします。


※このお話は4/7のものを改稿し、改めて投稿したものになっています。

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