序章 世界
かつて一つだった大陸に、神族と言われる種族が住んでいた。
彼らには、それぞれが司る“象徴の力”というものがあり、その力の種類、強さによって姿形がことなる上、寿命というものが基本的に存在しなかった。
彼らは、司る象徴による価値観の違いというものは確かにあった。
しかし、彼らはお互いを尊重し合うことで、長年に渡って平和な時を過ごしてきた。
しかし、アレス(戦いの象徴)という一人の神族が誕生したことにより、それまで争いを起こさずに過ごしてきた神族たちの状況が変化する。
戦いを象徴するアレスにとって、今の世界に住む神族の平和な暮らしが許すことはできなかった。
――戦いたい……
――戦いたい…………
――戦いたい!……………
――誰でもいいんだ……
――理由はいらないなんだ…………
――ただ、戦いたいだけなんだ!! ………………
時が経つにつれ、自分の思いを我慢することが出来なくなっていったアレス。
そして、やがて自分の思いを周りに叫び始めた。
その声に反応するように、次々とアレスに賛同するものが集まった。
やがて、アレスやタナトス(死の象徴)は自分たちと同じ考えを持つ者たちを“過激派”と名乗り、それまで平和に暮らしていた者・暮らしていきたいと願う者たちを“穏便派”と呼び、蔑んだ。
“穏健派”は何度も諦めることなく“過激派”に考えを改めるよう説得した。
だが、“過激派”はその声に耳を傾けることをせず、時間をかけて少しずつ力を蓄え続けた。
やがて、両者の譲れない思いが、お互いの関係に亀裂を生み、戦争に発展する。
それにより一つだった大陸は五つにバラバラとなり、多くの神族が死んでいった。
そして、クラトス(力の象徴)・メーティス(知恵の象徴)・パナケイア(生命の象徴)の三人により、アレス・タナトスは倒された。
しかし、強すぎる力を持った二人を殺すことはできなかった。
三人は誰も存在を知れないような場所に、二人を封印した。
これによって、二つの価値観の違いによって始まった長かった、本当に長かった戦争に幕が閉ざされた。
アレス・タナトスを封印した三人は神族の中で、英雄となった。
しかし、これで問題が解決したとは言えなかった。
戦争で多くの神族の命が失われた際、神族の持つ膨大な魂がすべて“輪廻の輪”に加わることはできなかった。
一度に“輪廻の輪”に加わることができる魂の大きさ、量の許容量をはるかに超えてしまったのである。
“輪廻の輪”に加わることができなかった魂は、世界に膨大なエネルギーとして変換され、魂は消滅していった。
そして、その膨大なエネルギーによって神族とは違う、新たな生命体が大陸全土に次々と生まれ始めた。
神族たちは、その生命体を管理するために、天空にバラバラになった大陸を一つ浮かばせ、そこに移り住んだ。
――そして、生命体はやがて進化し、神族といは違う新たな種族が次々と誕生していった。
その中でも、“穏健派”の魂によって生まれた種族の総称を“人族”。
“過激派”の神族の魂によって生まれた種族の総称を“蛮族”と定めた。
二つの種族は、四つの大陸――アーティカ大陸・アジリア大陸・バロリア大陸・ユーラリカ大陸に最初は点在して生まれてきた。
彼らは、始めは問題なくお互いに共存しながら生活していた。
しかし、時が経つにつれお互いの価値観の違いに徐々に亀裂が走り始めた。
そして、二つの種族はやがて歴史を繰り返すように、戦争が起きた。
次第にお互いが、お互いに領土を広げるため、または守るためにお互いを殺し合うのが当たり前になっていった。
もはや日常的に戦争は繰り返し続けていると言っていい。
中でも大きな戦争は三つ起こったことは人族・蛮族ともに歴史として残るほどの被害があり、その中でいくつもの文明が栄え、滅びていった。
――そして現在
これは、三つ目の戦争から数百年後の世界のお話である。