四十四話 地下に潜む陰謀とヤミ
動き出したのは、井伊が新垣に話していた、例の地下道のうちの一つ。
政治家の家の地下であった。
「まさか、こっちが動き出すとはな……」
A-Sこと、アスナは思わず、呟く。
ライトがなくともそのゴーグルで、周囲を見渡せることができるのだが、万が一に備えて、地下道に張り巡らされたライトの電源を復旧させた。
少し時間がかかったが、これでゴーグルが壊れても何とかなる。そう、アスナは思っていた。
『A-S、そっちはどうだ?』
通信機から新垣の声が聞こえた。
「ああ、何者かが中に潜んでいる形跡を見つけた。恐らくこれは……」
周囲を警戒しながら、駆けてゆくアスナの前にあったのは。
機械と機械が仲間割れしている姿だった。
けたたましい音を響かせながら、その2機は戦闘を続けていた。
機体に記されているロゴは、ヨシオカ・インダストリーズのもの。
つまり、このマシン達は黒島の息のかかったマシンともいえる。
「しかし、なんで仲間割れなんて?」
いや、それよりも、こいつらを始末する方が先だ。
この近くには、一般市民の住む家々が並んでいるのだから。
「新垣、ヨシオカのマシンを2機確認。これから殲滅に向かう」
『本当にいたのか?』
驚く新垣の言葉をそのままに、アスナは《身体強化》を発動させ、2機のうちの1機に狙いを絞る。
「お前に恨みはないが」
閃光。
光を帯びた剣でマシンのコアを一撃で粉砕。
「消えてもらう!!」
そのまま蹴り上げて、距離を取る。
攻撃する目標がなくなったためか、マシンの狙いがアスナへと切り替わった。
ふわりとアスナの長い髪が揺れた。
「今度はお前だな」
『ガガ、ギギギギ……』
壊れたような音を出しながら、マシンが突進してきた。
《身体強化》の力を右手に集中させて。
「お前も消えろ! 機械に用はない!!」
ガリガリと音を立てながら、相手の装甲を引っぺがす。むき出しになったコアへと、アスナは剣を突き立てた。
「これで……終わりだっ!!」
アスナが離れた途端、機械は爆発し、炎上した。
すぐさま消化機能が作動し、周囲のスプリンクラーが火を消していく。
だが、機械の音はまだ止まる気配がない。
「これは……まだいるのか?」
どうやら、遠くの方にいるようだ。
「新垣、スタンバイしててくれ」
『はいはい。準備しておきますよ、お姫様』
そのお道化たような新垣の声にアスナは、いつもより低い声で。
「姫は余計だ」
そう怒ったのであった。
数時間後、大量の機械を引き連れて、アスナは出口を飛び出してきた。
恐らく、百は超えているだろう。
「おやまあ、そんなに飲み込んでたのか、この秘密の通路は」
代わりに立ちはだかるのは、新垣。
その体の周りには、湯気のようなものが立ち上がっていた。
「けれど、ここに出てきたのが運のツキだ」
にっと笑みを浮かべ、ぱちんと狙いを済ませたかのような、指を鳴らす音が響いた。
とたんに、目の前にいた機械達が、次々と動きを止めて壊れていく。
「はい、一丁上がりっと」
「流石だな……」
その横で地面に座り込んでいるアスナが声をかける。
「僕もお前のような力があれば……」
「ん? なんか言ったか?」
「いや、何も……ところで」
そういって、息を整えたアスナが立ち上がり、体に付いたほこりを落とす。
「こいつら、盛大に仲間割れしてたけど、どうなってると思う?」
「中で言ってたアレか……黒島が仕掛けるにしては、お粗末な話だが……」
新垣の言葉に、アスナは頷く。
「ああ。それに我々を罠にかけるというのなら、もっと別の方法もあったはずだ。しかし……」
「それがないってことか。まあ、奴さんもある意味、必死なんでないのか?」
「そうだといいんだが……」
何かが違うと、アスナの勘が告げているような気がした。
――早苗、お前が生きていれば、何か分かったのかもしれないな……。
そう心の中で呟いて。
こうして、魔導課は更なる戦果を得て、一路、本庁へと帰還するのであった。
一方、その頃。
「これは……どういう事ですか!?」
赤羽が珍しく、黒島に詰め寄っていた。
予期せぬ展開。そう、この事件は赤羽が仕掛けたものではなかった。
それは、黒島とて同じ。
「おやおや、なんであの子達、動いてしまったんだろうね?」
ノートパソコンのディスプレイに映る様子を見ながら、黒島は首を傾げた。
「そうではないでしょう!? あなたじゃないというのなら、誰が……」
怒る赤羽に黒島は、笑みを浮かべる。その瞳は、遠くにいる誰かを見据えるかのように冷え切っていたが。
「いるじゃないか、一人……早苗だよ。これは面白くなってきたな……クックックッ」
その剣幕に赤羽も思わず息を潜めるのであった。




