三十七話 【-突入-】
地下研究施設
能見とジョナサン、そして新垣は、タレコミのあった地下の研究施設の入口前で話していた。
車のボンネットに携帯ホログラムを置き、地下研究施設のデータマップを表示させる。
「ここが研究施設ね。で、これが今、私たちがいる所よ」
「なるほど、にしては大きいですね」
「元はどこかの会社が関わっているらしいな」
能見はホログラムを軽く指でなぞり、作戦を指示していく。
「私と新垣は東エリアから入るわ」
「了解」
「俺と今、こちらに向かって来ている槙原と一緒に西から入る」
新垣は、能見の言うタレコミについての詳細を軽く言った。
「タレコミでは、この施設の真ん中にいるとか?」
ジョナサンはタバコを取り出して火をつける。
「ああ、そうらしいな」
能見は続ける。
「もし、確定な情報ではないが、黒島はいるはずだ。もし見つけたら単独で行動することはないな」
ちょうど話していると、遅れて魔導課専用の車両がやってきた。
「槙原だな」
車は停止し、運転席から槙原が降りてくる。
「すまない。遅れた」
ジョナサンは、自分の手をしっかりと合わせて、骨を鳴らす。
「よし、バンドメンバーは揃った事だし、セッションを始めようか」
能見はさりげなく、返した。
「そのセリフ、ダサい」
地下研究施設 西エリア
ジョナサンは、別車で移動していた槙原と合流し、共に、トゥーマンセルでタレコミのあった地下基地を探索している。
暗闇が、建物をより2人の心理的に心地悪い演出を与えてくれるので、不安がよぎっていた。
タバコを吸いながら、ゆっくり地下基地を歩いていく。
「この地下基地は、何の為の施設なんだ?」
「元はなんかの研究施設だったらしいが、爆破事故によって、閉鎖されたものらしい」
「なるほど。にしてもおびただしい量だな。この機械兵達」
「元は自衛隊に配給するものだったらしい」
倒れている機械兵のロゴを見ると、古ぼけているせいか、荒れてしまい、見れたものじゃないが、イニシャルだけが見てとれるぐらいだった。
《I・S》
ジョナサンはどこかで見たような気がしながらも、気にせず進んでいく。
槙原も彼の後ろをついていく。お互いが死角が出ないようなポジション取りで進んでいった。
するといきなりつかないはずの照明が、一気に照らされ、ジョナサンと槙原は照明の付く天井に、ライフルの銃口を向けた。
「無駄ですよ」
声のする方に銃口と視線を向ける。
「お前は!?」
視線の先にいる人影の正体。
その正体は吉岡だった。
「お待ちしていましたよ。ミスターレイン。そしてミスター槙原……」
吉岡の姿をライフルスコープ越しに、見つめる魔導課の二人は、皮肉を交えて返していく。
「この前はどうも」
「いい勉強になったろ。ロボットは使えないって」
吉岡は、軽く笑い、返していく。
「本当に勉強させていただきましたよ。さて、何故、あなたがたがここに居るのかを教えてもらいたいものですね」
ジョナサンは両手を挙げて、首を横に振っている。
「簡単。オメェの所にタレコミがあったからな」
槙原は、ジョナサンにつなげて返す。
「ここに黒島を隠しているというタレコミがあった。どうやらこの研究室は、お前の会社のものだったか……」
「ええ、そうですよ。隠していますよ」
あっさりと黒島がいる事を告げた。
ジョナサンは少々、吉岡の態度に疑問を感じながらも話を続けていく。
「随分あっさりだな。本人でも嫌われたか?」
ジョナサンに指摘されているが、首を横に振って、否定する。
「うーん。ちょっと違いますね」
吉岡は、ズボンのポケットに仕込ませていたリモコンを、押した。
ジョナサンの周りで、止まった機械兵達が起動し始める。
「なんだ!?」
魔導課の二人は、銃口を機械兵達に向ける。
「この機械兵でお相手しましょう。私も以前の件が終わっていませんし、あなたがた魔導課には消えてもらわなければなりませんからね。将軍の理想の為に!!」
ジョナサンは、ライフルを背中につけて、腰のホルスターに止めているソーコムを両手に持つ。
「槙原、サポート頼むぞ」
「ああ、任せろ」
機械兵はゆっくりと歩き始め、攻撃用の装備を準備する。
「彼らは中々の作品の故に、予算の悪化によりやむなく中止なってしまった。作品ですが、そんじょそこらの野良ロボットより強いことは保証しますよ。さぁ、生き残ることはできますかね?」
― 地下研究施設 東エリア ―
能見と新垣は、東エリアから入り、研究施設を歩き回っていく。
「なんだ? ここは?」
「研究施設みたいね。にしては派手にやってるわね。これ」
研究施設はもう何年も使われている状態ではないらしく、荒れている状態、床にはガラスの破片や、風化してしまった壁の瓦礫片、研究道具の破片が散らばっている。
機械の残骸などもありもはや研究施設ではなくなっていた。
「早く終わらせて外の空気を吸いたいですよ」
「まったくそうね」
2人は、施設内を探索していく。襲撃に合わないようゆっくりとポジションを崩さないように歩いていく。
「にしても、そのタレコミ、本当なんですかねぇ?」
「さぁね? でも今は、藁を掴む思いで頼るしかないでしょ。信じましょう」
2人は中央エリアに向けて、足を進めた。
― 地下研究施設 西エリア ―
ジョナサンは、槙原と共に機械兵に囲まれている。
「なぁ、平和的解決方法はなかったのか? 話し合えないかな?」
吉岡は首を振って否定した。
「残念ながらそれは無理ですね。ここを見られてしまったからには死んでもらうしかありませんから。最後に言いたい事とかありますか?」
ジョナサンは笑いながら、吉岡に中指を立てて、見せる。
「お前にはこれがお似合いだ」
「なるほど」
手に握ったリモコンに備わってある青いボタンを強く押した。
機械兵がジョナサン達に襲いかかる。
「伏せろ! 槙原!」
「!?」
ジョナサンは、自分の愛銃を使って、機械兵が立つところの丁度、真上に向けて、弾丸を放つ。
弾丸は天井に直撃し、大きな瓦礫が機械兵の真上に転落し、機会を押しつぶしていく。
槙原はジョナサンの援護ができるようポジションを移していき、援護射撃しながら走り抜ける。
「ちっ!」
吉岡は舌打ちしながら2人の戦いを傍観した。
槙原は広い施設内を走りながら、後ろから迫り来る機械兵を、魔導課専用の特殊ライフルで応戦していく。
「クソっ! ちょこまかと追いかけてきやがって!」
狙撃手は、潰しそこねた機械兵を自分の能力によってどんどん潰していく。
ジョナサンの左から機械兵が飛びかかって襲うが、彼の早打ちが早かった。
機械兵は空中で軽いショートを起こして、その場に倒れる。次は右に2体。
片方の一体を仕留めることができた。
「うおっ!?」
が、もう一体は仕留め損ね、そのまま機械兵によるダイビングタックルを受けた。
体を床に叩きつけながら機械兵がジョナサンの体の上に馬乗りとなり、止めを刺そうと攻撃を仕掛けるが、愛銃によってなんとか防御できている状態。
ジョナサンは、なんとかして反撃のタイミングを考えて、機械兵の攻撃を防いでいく。
彼の叫びが施設の中で大きく響いた。
「この野郎! だ・か・ら、俺はロボットが嫌いなんだ!!」
機械兵が拳を振り上げて、ジョナサンの顔をめがけて殴ろうとした瞬間、数発の弾丸が綺麗に馬乗りの機械兵を吹き飛ばした。
弾丸の風を感じた方向を見ると、槙原が走りながら、引き金を引いたのが分かった。
槙原は寝ている状態のジョナサンに走って近づき、手を差し伸べる。
「ほらよ。大丈夫か?」
「ばかやろう! 死ぬかと思ったろ!」
ジョナサンは差し伸べられた手を受け、その力で立ち上がり、次々と襲いかかる機械兵に立ち向かう。
槙原は、弾をリロードし、次々と機械兵を破壊していく。
「ここは俺がやる! ジョナサン。吉岡を追うんだ!」
ジョナサンは、首で頷き、吉岡の後を追う。
「すまんな。任せたぞ!」
「ああ、早く行け!」
ジョナサンは急いで吉岡の跡を追った。
彼が辺りを見回しながら、エリアを走っていく。
すると、近くの通路で自動のドアが開く音を聞こえた。ジョナサンは足を止めて、音が聞こえた方向へと走る。
走った先は、大きな実験ルームらしく、戦闘用の為に作られたような練習場も設けられている。
「ここまで来るなんて思ってもみませんでしたよ」
吉岡の声がどこかで聞こえた。
ジョナサンは、背負っているライフルを取り、構えながら練習場へとゆっくり入っていく。
吉岡の声は、未だにどこかでこだまするように聞こえた。
「おや、だんまりですか? もう少しで私を捕まえることだって可能でしょうに?」
「残念だが、お前さんを捕まえるというのは少々難しくなった」
「そうですか」
練習場を抜けると広い格納庫につながっており、その真ん中で吉岡は立っている。
「ウェイカー……アギト……僕にはない能力。そしてあなたにはある能力だ」
「ああ、そうだな」
「私はその能力が喉から手が出るほど欲しい。だから、今までの研究データで私はあなたの能力に目をつけた」
吉岡はおもむろに、一つの発炎筒みたいなものを取り出した。
「そいつは?」
「ええ、これが私をアギトに導いてくれるものです。見ててください」
いきなり自分の腕に発炎筒の様な筒を刺した。
ジョナサンは危機を感じ、吉岡に向けて発砲する。
数発放たれた弾丸は、吉岡の肩と足と腕に当たり、悲鳴を上げて倒れた。
「あっけない最後だったな……」
タバコを取り出し、口にくわえながら、マイクロフォンで、新垣や槙原に一斉連絡する。
「吉岡を捕まえようとしたが、異常を発見し、やむなく射殺した」
『そうか。了解!』
『了解したわ。私達も新垣と一緒に向かうわ』
『ああ、気をつけ……!?』
一瞬、気を抜いた瞬間だった。
ジョナサンの体はそのまま、吹き飛ばされ、近くの壁に叩きつけられる。
連絡機の異常を耳越しで感じとった。
『どうしたの!?』
『ジョナサン! どうした返事を!?』
壁に叩きつけられたジョナサンは衝撃のはずみで連絡機を落とし、気を失いかけている。
「くそっ」
吹き飛ばした方向を見ると、吉岡の遺体はなく、その代わりとして得体の知れない生き物が立っている。
「……くっ、くそっ、なんだ?」
生き物から発する声は何処か聞いた声だった。
「ジョナサン・レイン」
「お前……」
吉岡の顔はもはや原型をとどめていない怪物の顔となってしまっているが、言語は保てている模様。
ジョナサンはゆっくりと体勢を整えて、銃口を怪物に向ける。
『スコブルいい気分……ダ……お前を仕留めなけレバ』
「寝言は寝て言ってくれるか?」
怪物は勢いよく押し寄せ、ジョナサンに襲いかかってきた。