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マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―  作者: マシン・ブレイカー制作委員会
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三十六話 交渉

 黒島逸彦。

 ヤツに復讐を果たすために自分はこうして、ここまで戦ってきた。これからも、そうやって戦っていくつもりだ。

 ただ復讐のために生き、復讐のために命を削り、復讐のために死ぬ。

 それが自分の使命であり、生きる意味である。

 そう信じて疑わずに、今まで数々の機械兵を屠ってきた。……否、機械兵だけではない。人間にさえ、手に掛けたこともあった。

 その全ては復讐のため。早苗のため。美咲のため。『マシンナーズ・パンデミック』で殺された人のため。


 しかし、本当にそうだろうか?


 疑問がよぎる。

 早苗は……美咲は、復讐してもらうことを望んだか?

 この問いをもう居ない彼女たちに伝えられるならば、恐らく、というかほぼ間違いなく、『復讐なんて要らない』。そう答えるだろう。

 だが、それではあまりにも儚すぎる。人生を強制的に、恣意的に、他の者に終わらせられるなんて虚しすぎる。

 そう思うのだ。

 確かに自分が死んで、親しかった者が自分の仇討ちをしたとしたら、彼は良い思いはしない。自分のために、その者が手を汚すなどあってはならないと思う。

 しかし、今自分は戦っている。

 『復讐』という二人が望まないであろう行動をとっている。

 だが、そうせずには要られない。

 『復讐』という桎梏しっこくに囚われて、ただ黒島を仕留めるために、機械兵を破壊してきた。……気に入らないから。

 謂わば、エゴイスティックな行為なのかもしれない。自分が満足するための行動に過ぎないのだろう。

 だが、もうそれでもいい。

 自分のためでもいい。

 理由などトリビアルなことだ。

 それに対して、目的は明瞭だ。

 『黒島を殺す』。

 決めたのだ。

 今更、躊躇などない。

 ただ、前に進むだけだ。

 そのためには、どんな手段さえも厭わない。




 国崎は、赤羽の勧誘によって、自分の目的を再確認していた。

「どう。決意は固まった?」

 赤羽はフィグネリアに銃口を向けたまま、国崎に問うた。

「俺が頷けば、フィグネリアは俺の元に返ってくるんだよな?」

「無論。天才の遺作にて、傑作だからね。宝の持ち腐れにはすまい」

 赤羽の反応を見て、国崎は首肯した。

 赤羽の口角が上がる。

「分かった。協力しよう」

 その返答を聞いて、握手のために手を差し出す赤羽。

「そう言ってくれると信じて……」

「ただし」

 赤羽の言葉に割り込むように、国崎は付け加えた。

 赤羽の顔が笑顔から、面を食らったような顔に変わる。

「全面的に、ではない。お前が俺に何かを依頼してもいいが、俺はその依頼を断ることもある。俺が依頼を受ける場合も、拒んでいい」

 赤羽は、少しの間、唇を噛んでいたが、

「分かった。少し理想とは違うが、それでも構わない」

「そうか。じゃあ、フィグネリアを返してもらおうか」

 国崎は、差し出された手を握ろうと、彼も手を差し出す、が、赤羽は手を引っ込めた。

「そうはいかない」

 彼女は首を横に振る。

 今度は国崎が眉根を顰める。

 何のつもりだ、と彼が口にしようとした時、

「こちらは君の提案に妥協した。だから、こちらの提案を呑んでもらう必要がある」

「小賢しいな。今ここで暴れて、この組織の存在を公に晒してもいいんだぞ」

 国崎は、鉄の棒を構えた。

 しかし、それに対して、赤羽は眉一つ動かさない。

「それはできないはずだ。こちらはフィグネリアを人質にとっている」

「そうか? フィグネリアの負傷を顧みずに俺が攻撃してくる可能性もあるぞ」

「フィグネリアを人質にして、君がここまで、のこのことついてきたのだから、人質としての価値はもう太鼓判を押したようなものだ」

「そう思わせるための策だとすれば?」

 国崎が笑ってみせると、赤羽は無表情のまま、銃の引き金を引いた。

 ――銃声。

 フィグネリアの足元から、爆ぜる音が聞こえる。

「幼稚だな、君は。今、不利な状況にあるのは君だ。あまりこちらを刺激しないのが得策だと、何故わからない」

 赤羽は淡々と言葉を発していく。

 『次は本当に撃つ』。国崎はそう直感した。

「できれば、私も天才の至宝に傷はつけたくない」

 国崎はチッと舌打ちを鳴らして、鉄の棒をしまい込んだ。

 そして、苦虫を噛み潰したような顔で問う。

「要求はなんだ?」

「君の能力の詳細を教えろ」

「何の話だ?」

 国崎は首を傾げた。

「しらばっくれたって無駄だ。君は数々の戦いで銃弾の軌道を曲げてきたけれど、そんなもの不可能だ」

「俺のアギトが磁力を操るものだというのを知らないのか? 磁力を操るのだとしたら、鉄を含む銃弾の軌道を帰られるのは納得できるだろう」

「例えそうだとしても、計り知れないほどの磁力を発生させなければ、銃弾の軌道を変えることなんて不可能。しかし、もし別の力が働いていたとすると納得できる」

「俺の能力が軌道を曲げるほどの力を持っていたならば、可能ではないのか?」

「そうかもしれないわね。けれど、警備機械兵が磁力の他に電力を感知している。これはどういうこと?」

「強力な電磁波を浴びせられた故の誤作動、で説明がつくだろう」

「まだ言うかしら。生産工場を壊滅させた際も、主電源の装置には外傷が見られなかった。高月の電子ロックの扉もそう。どちらも電気系統が破壊されていた。あなたは磁力使いじゃない」

 赤羽は国崎を指差して、そう断言した。

 しばらく、沈黙を貫いた国崎だったが、

「……しかたないか」

 小さく呟いて、彼は言った。

「俺は、引力と斥力を扱う『集散自在ベクターマスター』だ。能力は俺から十メートル以内で、見えている場所に限り、斥力、または引力そのもの、またはそれらを携えた力を発生させることだ」

 国崎はそう言って、フィグネリアに歩み寄って、手を取った。

「高月の邸に侵入した時に電力も観測されたのは、引力と斥力を携えた電磁力を俺が使ったからだろう」

 彼はフィグネリアの肩に手を回し、出口に向かって歩き始めた。

「これでいいだろ」

「ええ。充分よ」

「じゃあ、俺はここを後にさせてもらう。拠点が変わったら連絡しろ」

 最後に国崎は赤羽を睨みつけて、

「……情報提供、頼むぜ」

 悪態を呑み込んで、そこを去った。


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