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マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―  作者: マシン・ブレイカー制作委員会
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三十一話 西での密会

 旧所沢エリア。かつては埼玉県でも五本の指に入る都市の一つだったが機械兵に破壊され尽くされた今、その面影はほとんど残されてなかった。

 そんな旧所沢エリアの外れにある、今はもう使われてない駅のホームで新垣は小さく息を吐いて、頭の中の算盤をものすごい勢いで弾き直していた。

 国崎確保のために自分達がハウリングフェンリルというコードで呼ばれていた作戦に駆り出され、工場に行けなくなることまでは予想がついていた。

 しかしその代役がSATではなく久我原だったことは完全な誤算だった。

 現在の状況では国崎達が確実にギガロポリス東京から脱出しているのは間違いない。だからこそ外で活動を続けている久我原に接触を頼もうと思っていた新垣にとって2人が入れ違いになってしまっていた。

(まぁ、最悪国崎の力を借りなくてもやろうと思えば出来るんだけど……)

 しかし新垣が問題視しているのはそこではなく、工場に詰めていた機械兵の内容だった。

 久我原が例の工場で出くわしたのはアントとスコーピオンのみ。赤羽の言っていた巨大な機械兵の姿は無かったのである。

 赤羽が工場内に隠しておいたデータも完全な状態で確保されている。だが新垣はそれがあまりにもあっさり行ってしまっていることに疑いの念を抱いていた。

 もし赤羽が黒島に信頼されていて全く疑われてないのなら問題は無い。しかし赤羽が黒島の元に着いたのはわずか1ヶ月ほど前のこと。そんな短期間ではそこまでの信頼を得るのは非常に難しい。黒島が赤羽のことを完全に放任しているとは考えられない。

 すると浮かび上がってくるのは赤羽が重要だと思っている情報は黒島にとってどうでもいい情報であった、という可能性である。

 知られても全然良い情報を守るためにわざわざ主力級をつぎ込む必要性は相手の戦力を削るという意味では価値があるがパフォーマンスの面ではマイナスになってしまう。

 元同僚から堅実な性格だと評された黒島がそんなことをする可能性はあまり考えられない。そうなると考えつくのは新垣の中では最悪のパターンになってしまうのだ。

(こうなったら、赤羽が黒島のことを完全に騙しきれている方にかけるしかないかな……)

 A-Sが人型機械兵に襲われ重傷を負っている今、ここで黒島に動かれたらかなり大変なことになる。A-Sの代打として久我原がこのまま同行してくれればずいぶん楽になるが、そんな保証はどこにもない。というか皆無に等しい。

 久我原はギガロポリスに住む人々……というより権力を持つ者を嫌っている。

 そうなった事情を本人から聞いている新垣としては久我原が友人である井伊のためとはいえ、そういう人々に関わってくれる気が全く感じられなかった。実際に本人から聞いてみなければ分からないが。

「やぁ、新垣君。待たせてしまったね」

 声に反応して新垣が顔を上げて左の方を見る。すると視線の先には柱にもたれかかっている、白衣を身にまとった20代前半と見られる青年が立っていた。

 新垣は青年の姿を見て一瞬目を見開いた後、困ったように笑った。

「今日はやけにお肌がつやつやですね」

「ちょっとね。下水道を歩いてたら20体ぐらい出てきたんでね」

 青年が柱から離れて新垣の元に歩み寄る。新垣はポケットの中からUSBメモリを取り出すと青年に投げ渡した。

「ありがとね。狙われてる者としてはそう表立った動きが出来ない物でね」

「いいですよ。それよりこっちも頼みたいことがあってここまで呼び出したんで」

「わかってるよ。亮平君をどこか安全な所に潜伏させて欲しいんだろう?」

 そう言われた新垣は息を吐いた後、頭を掻いて頷いた。

「そうなんです。今あいつに消えてもらっちゃあ色々と面倒くさいことになりそうなんで。特にフィグネリアが」

「フィグネリアが?」

「ええ。あれが多分黒島を叩く最大の鍵になりそうなんで」

 そう答えた新垣に青年は大きく首を傾げながら言った。

「……君が何を思っているのかはわからないけど、フィグネリアはただのメイドロボだよ? 黒島を物理的に倒すという意味でもフィグネリアより亮平君に任せた方が」

「いや、データの方ですよデータの方。国崎があれだけ必死に守っているってことは、何か重要な物が隠されているんじゃないですか?」

 新垣が自分の頭を何度も突っつきながら言うと青年は呆気に取られた後、突然大きな声で笑い始めた。

「……何が可笑しいんですか」

「い、いや、ゴメン……。君がそんな風に思っていたとは考えてなくて……」

 目尻に浮かんだ涙を拭いながら青年はUSBメモリをポケットにしまった。

「残念だけどフィグネリアの中にそんなデータは入ってないよ。洗脳電波に対する改造を受けている、っていう点で言うなら普通のメイドロボではないけど」

「……じゃあ必死に守ってるのは単なるシスコンですか」

「そうなるね」

 そう青年が答えると新垣は呆れたように天を見上げ、そして目を顰めた。

「どうしたの?」

「いや、なんか今光ったような……」

 街灯はあるが電気は通ってない今、日の落ちかけている今はちょうど見にくくなっている頃である。

 新垣が不審に思ってポケットから懐中電灯を取り出し、光を点けた瞬間、向かいのホームの屋根が崩れ落ちた。

 そしてガラガラと音をたてて落ちる屋根によって起きた土煙の中から白銀色の巨大なカマキリが姿を現した。

「ありゃありゃ、マンブロードか。なんでこんな片田舎に……」

「んー、僕を追ってきたのかな?」

「充分にあり得ますねー、救難信号を受け取ったとか」

 新垣が懐中電灯を消し、ポケットにしまい直していると青年が一歩前に踏み出した。

「じゃあ僕が片付けちゃうよ」

「良いんですか?」

「僕が呼び込んじゃったみたいだからね。それにアンタレス鋼の装甲みたいだし」

 マンブロードと呼ばれたカマキリが両腕の鎌を振り上げる。すると鎌の上部が浮かび上がり、その間からガトリング砲が姿を現した。

 暗闇の中で弾が撃ち出されると共にガトリング砲から光が出る。青年と新垣がその場から飛び退くと、先ほどまで2人がいた背後の木々が砂煙を上げながら次々に倒れていった。

 新垣が腕を振る。するとマンブロードの右側にあったコンクリートが赤く発光しながら溶けていった。

 しかしマンブロードの様子に変化は無い。新垣はそれを見て小さく舌打ちをした。

 それでも違和感を感じたのかマンブロードがゆっくりと新垣の方に頭を向けた。

 それからワンテンポ遅れてガトリング砲の先を動かそうとした途端、ピキッパキッと変な音がした。

 回転していたガトリング砲が止まり、煌々と光っていた赤い目がゆっくりと光を失っていく。

 そして一気に瓦解した。

「陽動ご苦労様ー」

 マンブロードがいた所から青年の声が響いた。新垣はそれを聞いて自分のいたホームから飛び降りた。

 向かいのホームへと歩く新垣にむかって青年はホームから見下ろしながら言った。

「どうする? この先の野球場ででもキャッチボールでもする?」

「いや、明日も早いんで遠慮しておきます」

 そうして2人はほとんど同時に笑い出した。



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