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マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―  作者: マシン・ブレイカー制作委員会
3/54

三話 ある狙撃手の覚醒

『右400m』

「了解」

 ジョナサンは狙撃ライフルの引き鉄を引く。スコープ越しに標的に当たったのを確認した。

「標的に命中」とイヤホン越しに、報告した後で女性のオペレーターから指示を受ける。

『こちらでも標的消滅を確認。エリア1からエリア2に移動せよ』

 ジョナサンは長い間、剃ることができなかった無精髭を手で触り、気にしながら連絡を返答する。

「了解」

 そう返答した後、ライフルを持って、今いるエリアから別のエリアへと移動を開始した。

 

 

 

《標的は大量にいる。それを一発ずつ仕留めていくのが俺の仕事だ》

 



 彼にとって《標的》とはアンドロイドを意味する。

 

 

 

【何故? アンドロイドを標的と呼ぶかって? 簡単な答えだよ。アンドロイドは的だ。俺はそれを射るだけ。そういう事さ】




 移動中、自分に問い、自分で答えた。そうして移動している内に第2のエリアについた。しかし、そのエリアで異変が起きていた。

 オペレーターに言う。

「変更だ。ポジションを変える」

 ジョナサンが見た光景。それは、狙撃手としてのステルス狙撃がほとんど不可能であり、自分自身が得意としている戦法ができない所だった。

『何を言っているの? 予定はそのままよ。ポジションを変える事は許されないわ。そのままで待機して!』

「ふざけるな。犬死させるつもりか? 変更だ。ポジションを変える」

『待って、私の話を聞いて!』

「無理だ。この場所での狙撃はまず不可能だ。ポジションをかえ……」

『中尉! きゃっ』

 オペレーターは、一発の大砲の音が大きさに驚き、とっさにイヤホンを外した。その後、再びイヤホンを耳につけたが、イヤホンから聞こえる音は雑音だけ。

『中尉! どうしたの!? 応答して!!』

 オペレーターは再び連絡を取ろうとするが無意味だった。彼女は呆然とし、椅子に座ったまま絶望した。

 しかし、ジョナサンは生きている。ビルの壁が、自身のいる周辺を守った。

「糞!! あのポンコツめ。俺の連絡手段を破壊しやがった」

 そう言っている間に身長200センチを越える二足歩行型アンドロイドが、一人の狙撃手を標的として捉える。

「おいおい、今度は、俺が標的かよ!」

 

 ジョナサンは走る。皮肉な事に今度は自身が標的として追われる身となってしまった。

 

 アンドロイドは、ジョナサンに狙いをつけ、追いかける。

 ジョナサンは肩にかけたライフルを端に投げ捨て、ズボンのバレットケースからSOCOM(MK23 MOD0=ソーコムピストルの事)を取り出して、標的の顔に向けて何発も撃つが、当たってもびくともしない。

 戦闘スーツのレーダーが、反応する。

「囲まれてやがる。くそ!」

 ジョナサンは走り続け、廃墟と化した高層ビルに入り、アンドロイドによる猛攻をなんとか防いだ。

 彼自身が隠れている廃墟にアンドロイドが入ったのを確認した。アンドロイドに自分の姿がバレない様に身を潜めながら移動する。その間にソーコムピストルの弾が何発あるかを確認するが、3、4発しかなかった。

 アンドロイドの目が赤く光っている。どうやら赤外線レーダーで標的=ジョナサンを探しているらしい。

「俺の命もここまでか」

 ジョナサンは再び、走り出した。走り出したと同時にアンドロイドも反応し、ジョナサンに向かって装備しているミニガンを放ってくる。被弾しない様に、ビルの中にある廃材や使われていたデスクを防弾壁代わりにして、アンドロイドに立ち向かった。

 アンドロイドに向けて一発、銃弾を放った。銃弾はアンドロイドの顔面に命中する。

 アンドロイドは、レーダーを使用する事が出来なくなり、縦横無尽にミニガンを連射する。ミニガンの弾丸が空中を無数に泳いでいく。

 ジョナサンの目にはスローモーションの様に弾丸が飛んでくるのが分かった。それをよけて、ソーコムに装填した炸裂弾をアンドロイドにめがけて発射した。

 炸裂弾は、アンドロイドの心臓部分である胴体に当たり、赤い閃光がビル内を照らした。

 アンドロイドの爆発と共に爆風と火炎がジョナサンに迫る。

「あああああ、まずい!!」

 ジョナサンは、急いで、迫りくる爆風と業火の波から逃げる。瓦礫や廃材などの障害物を中年らしからぬ身体能力で走り抜ける。廃墟から外の道路へと飛び出し、瓦礫でできた壁に隠れて、廃墟ビルから出てくる爆風と業火の波を隠れてしのいだ。

 大きな爆音と共に爆風と業火の波が、隠れた瓦礫の壁を押し寄せてきた。ジョナサンは壁に寄りかかって波が収まるまで我慢した。

 数十秒経った後、波は収まった。

「やった」

 ジョナサンは、壁に寄りかかったまま、安堵し、溜め息をし、一人だけで呟いた。

「通信機が壊れたし、相棒は捨てちまったし、ソーコムは一発だけしか残ってないか……神よ。俺を見捨てちまったのですかい?」

 ジョナサンのいるエリアはさっき破壊したアンドロイドを含めて、残り一体いる事が戦闘服のレーダーで分かった。もう一体の奴にばれないよう、今いる場所から移動し、脱出しようとする。

 だが、奴に対峙するのは、すぐだった。走ろうとした瞬間、体が宙に浮かんだ感覚になり、後ろの壁に向かって吹き飛ばされ激突した。

 衝撃により、額から、血が出てきた。吹っ飛ばされた理由を探ると、その答えは意外だった。

 左肩を見ると、弾丸が貫通してあり、銃創から真っ黒くなっている。

 銃創から生暖かい赤い液体が流れだしている。

 ジョナサンは、左肩の激痛に耐え切れず、立ち上がる事はできなかった。そのまま奥から見える黒い人型の姿を凝視する。

 人型は右に禍々しい大きなスナイパーライフルみたいな銃を装備している。

「スナイパーライフルか。ふざけた装備してやがる。俺なんかソーコム一丁の上に、極めつけに通常弾が一発だけ……」




 まさに絶体絶命とはこの事か!




 彼は賭けに出た。右手には、通常弾が一発だけ入ったソーコム。左はレーダーという状況であった。

「イチかバチか、賭けだ!」

 ジョナサンは、左肩の激痛に耐えながら、持ち場を移動して、遠くから見える。アンドロイドにソーコムの銃口を構える。

 アンドロイドも右腕の高性能スナイパーライフルをジョナサンの額にレーザーサイトを当てている。

「お別れだ! 間抜け!」

 ソーコムの引き金を引いた瞬間、いきなり大きな球体型の赤黒い光がジョナサン全体を包み込んだ。

 アンドロイドは、いきなりジョナサンに起きた異常現象に対処しきれず、レーダーには、《Emergency》の文字が表示される。

 光は、ジョナサンを包み込んだ後で、辺り周辺に衝撃波を起こした。

 アンドロイドは衝撃波と共に数十メートルのところまで吹き飛ばされた。光は一瞬にして消えて、ジョナサンを別の空間へと連れ込んだ。

 謎の空間に入り込んだ彼は、不思議な感覚に飲まれていた。とても気持ちが良く癒されている気分になるが、それとは別に何か不思議で、恐怖を感じていた。

 空間は真っ白く先ほどの廃墟が嘘のようだった。

「一体、何だ? 此処は何処なんだ?」

 すると突如、ジョナサンは、体を締め付けられた。

「あああああああああああ」

 金縛りと共に痛みがジョナサンの体を襲う。体にある腕の血管や首筋までの血管が次第に浮き出てきた。

「な、なんだ? この感覚は? 一体、何なんだ!?」

 白い空間の中で、赤黒い光がまっすぐジョナサンに向かってくる。

「やめろ! 来るな! 来るな! くるなあああああぁぁぁぁぁぁ!」

 赤黒い光は、ゆっくりとジョナサンに近づいていき、一度、目の前に止まった。

 金縛りと激痛がジョナサンを苦しめる。赤黒い光はそのまま心臓部分に入り込んだ。激痛が更に増し、ジョナサンは、気を失ったと同時に金縛りが溶け、その場で倒れた。

 それから数分後にジョナサンは目を開けた。すぐさま自分の体に異常がないかを調べる。

 左肩を狙撃されているが、不思議な事に血が流れていない上に激痛を感じなかった。

 その上、引き金を引いたはずのソーコムには一発だけ通常の弾丸が、弾倉の中に入っていた。

「一体、何だったんだ? それより何があってこんな光景に?」

 さっきの緊迫していた廃墟は跡形なく消えていた。ジョナサンの肩を狙撃したアンドロイドは数十メートル先で倒れている。

 しかし、アンドロイドも再起動し、、再び立ち上がった。

「くそ! あのアンドロイドまだ生きてやがったか!」

 ジョナサンは、ソーコムをアンドロイドに構えた。

「吹き飛べ!」

 引き金を引いた瞬間。銃口から普通の弾丸とは違う赤い球体が、アンドロイドに向かって突っ込む。

 発射した瞬間、勢いが強くジョナサンの体は後ろへ押される勢いの威力があった。

 赤い球体がアンドロイドの心臓部分を貫きかけて、真ん中で止まり、回路をやられて暴走を起こす。

 ジョナサンは、アンドロイドに向けて、サムズダウンをした。

「くたばれ!」

 その瞬間、アンドロイドの心臓部分に着弾していた赤い球体が大きく光を放ち、爆風と火炎の波を起こす。

 アンドロイドは、跡形なく波に飲み込まれた。波は、アンドロイドの近くを覆った。

「ふぅ」

 彼は地べたに座り込んだ。自身に起きた出来事について考える。

「今のはなんだったのだろうか? 貫通弾はあんな威力ではないし、通常弾があんな進化を遂げるなんて、俺は一体なんだ?」

 考えているうちにだんだんと視界がぼやけてきた。ジョナサンは口の中から何かしらの違和感を催し、近くの地面に吐いた。

 

 

 口から吐き出たのは赤い液体だった。

 

 

 ジョナサンは左手で口元を触って、確かめた。ある程度触った後で左手を見ると、自分の血で赤く染まっていた。

 さっきの戦闘で、肩を撃たれたのを思い出す。既に戦闘スーツの左肩の部分、はボロボロであり、狙撃されたところから再びドクドクと血が流れているのが分かった。

「うっ……」

 ジョナサンは戦闘スーツのポケットの中に入れていた。ラッキーストライクを一本、取り出して、口にくわえようとしたが、さっきの戦闘で、体力を消耗したのか。口にくわえる事ができずその場で落としてしまった。


【くそ……視界がぼやけてきた……】

 

 意識が遠のき始め、彼は地べたに座ったまま目を閉じた……





  ――――――――――――――――――――――


 それから数十分後。


 ジョナサンは、味方の兵に、負傷したまま倒れているのを発見され、ヘリで戦艦 ジョディ・グリーソンに搬送される。

「中尉の容態は?」

 数名の医師と看護師がジョナサンの体が乗っている担架を手術室に運んでいく。

 容態はとても危険で、このままでは出血多量によるショック死は免れないという状況だった。医師の一人が撃たれた肩を止血していた包帯を外す。

「とても危険な状態です!」

「急げ! 輸血の準備を!」

 数名の医師達はジョナサンを助ける為に必死に手術を施した。

 手術は18時間を越した。無事、手術は成功したが、意識は依然として戻っていなかった。




 ―― 戦闘から4日後 ――


「はぁっ……はぁっはぁっ……」

 ジョナサンは目を覚ました。

「ベッド? それにここは……」と上半身だけ起こして周りを見る。部屋の壁は白く、自身が寝ているベッドの目の前に医師と看護師が立っていた。

「気が付きましたね。中尉」

 ジョナサンは医師に訊いた。

「おい、ここは? あ、いててて。いてて……」

「おっとっと、無理はだめですよ。ご安心を。ここは、太平洋上の移動病院です。戦艦 ジョディ・グリーソンの中です」

 ジョナサンは医師の一言で、自分のいる場所が、何代大統領かは忘れたが、確かに大統領の名前の戦艦だと理解した。



【なるほど。戦艦の中にある病院なわけか】



 ジョナサンは正面の棚にある鏡で自分の顔を確かめる。今までに蓄えてきた濃厚な髭は健在の様であり、たくましい銀髪と白髪が混じった頭は、包帯で部分的に見えない状態だった。

 医師は続けて話し始める。

「あなたが搬送された時、容体はとても危険な状態でした。一歩間違えたらあなたはこの世にはいなかったでしょうね」

「さらっと言うなよ」とジョナサンは言った。

「すいません。あなたは出血多量で危険な状態だったんです。あなたが治療を受けている間に4日経過したんですよ」

「4日!?」と自分が4日も寝ていた事に驚いた。

 医師はそんなジョナサンを置いて、ある事を告げた。

「中尉。実を言うと、あなたは、一般の人間とは違う状況に置かれています」

 医師が放った言葉に、ジョナサンは状況を把握する事ができなかった。

「違う状況?」

「ええ、違う状況です。よく聞いてください」

「あなたは《アギト》を身につけたのです」

「《アギト》?」とジョナサンは確認する。

「要は、特殊能力みたいなものです。あなたは4日前に2体のアンドロイドに追われました。しかし、一人でアンドロイドを倒した」

 自分のため込んだ記憶をさかのぼらせるが、ジョナサンには覚えがなかった。

「ちょっと待ってくれ。そうだったのか?」

 医師はジョナサンの発言を聞いて、少し溜め息をして、看護師に小さい声で何かを伝えた。

 看護師は何かを伝えられた後で、看護師はジョナサンの病室を出て行く。

「こういう事を話すのは、必要な人間だけでいい」とつぶやいてジョナサンの病室に一人、黒いスーツを着た長身の短髪の男が入ってくる。

「もういいぞ。ドクター。後は任せてくれ」

 スーツの男は、医師を病室から出て行かせる。

「これで、話せるな。中尉。タバコはいるか? あんたの好きな銘柄だと思うが……」

 スーツの男は、ズボンのポケットから煙草のラッキーストライクを出し、煙草の一本を手渡した。

 男から渡された煙草を口にくわえると、男は、ライターをポケットからだして、火を出した。

「ありがとう」

 ジョナサンは男のライターの火を借りた。約4日ぶりの一服を満喫しながら、ジョナサンは訊いた。

「煙草をいただいた事については感謝するが、その前に訊かせてくれ。誰だ?」

 男は、首を横にポキポキと音をさせてジョナサンを見る。

「ジョナサン・R・レイン。米軍中尉の狙撃手で、日本語専攻か~悪くない。日本の米軍基地で3年滞在か。で、丁度4日、寝ている間に定年で退役扱いか。ついているのだか、ついていないんだか……」

 ジョナサンは、煙草の灰を灰皿に落しつつスーツの男から視線をそらす。

「何なんだ? おまえは?」

「ああ、自己紹介がまだだったな。私は、アームストロング。マイケル・アームストロング。NSA(国家安全保障局の事)から来た。マイクと呼んでくれ」

 マイクは、右手を差し伸べて握手しようとするが、いきなりの行動にジョナサンは手を動かす事ができなかった。

「はっはっは。そりゃ、できないよな」とマイクは苦笑いをこぼしながら手を戻し、部屋の壁周りを見ながらジョナサンに言う。

「ああ、安心してくれ。君の事は、常に監視していたよ。なんせ、最初、この国で起きた虐殺事件の関係者にして遺族だからね」

「あの事件は忘れたい」とジョナサンは訴える。

 マイクも訴えに同感だった。

「俺だって忘れたいさ。でも忘れる事はできなかった。まぁ、その話はどうでもいい。中尉。あんたの身に何が起きたか教えてやる」

 するとマイクは、スーツの右胸内ポケットから小型映像プレイヤーを取り出して、ジョナサンに手渡した。

 ジョナサンは、プレイヤーを取って、映像を再生する。

 プレイヤーから流れている映像は、ジョナサンが4日前の行動が映し出されていた。

 マイクはプレイヤーの映像について説明する。

「その映像は、中尉。あんたが、4日前の戦闘場面だ」

 ジョナサンは黙って、映像を見た。10数分間の映像の中で、アンドロイドとの死闘が伺える。

 マイクは、その間に、病室のテレビを付け、アニメを見ている。それは、日本製のロボットアクションのアニメだった。

 ジョナサンは、全ての映像を見終わった後で、映像プレイヤーをマイクに返した。

 その映像を見て、ジョナサンは思い出した。


【そうだ! 思い出した。俺はあの戦闘で、赤い何かが俺を守ったんだ。もしかして、今も自分の体の中にあるのか。あの力が】


 マイクは、映像プレイヤーを胸ポケットにしまい、ジョナサンに言った。

「今の映像であんたの身に何が起きたか教えてやる」

 ジョナサンはマイクが言うことについて耳をかたむけた。

「教えてくれ」

 マイクは、病室の白い壁を見ながら言った。

「あんたは覚醒したんだ。あんたはアギトを習得した」

「……言っている事の意味がわからないんだが? マイク?」

 マイクはジョナサンの反応にがっかりし、ため息を吐いた。

「ふぅ……頼むからもう少しは理解をしてくれないかね。俺の部下といい、一般人といい、自分がNSAの局員だからって今の状況をなんでも聞きたがろうとしている。全くうんざりだよ。あんたに教えてやる。アギトとはいわば人間を覚醒させる。一種の進化みたいなものさ」

「進化?」

「ああ、まぁ、捉え方は自由だ。つまり、あんたは人間から覚醒し、アギトを習得し、ウェイカー(能力者)となった。おめでとう」

「あ、ありがとう」とジョナサンはぎこちなく礼を言う。

 マイクは礼を軽く微笑みで返して話を続けた。

「続けよう。あんたはそこらへんにいる一般人ではない。あんたはウェイカー(能力者)だ」

「能力?」

 マイクは、ジョナサンに言う。

「俺は、あんたのアギトを習得した瞬間を見て驚いたね。しかもなんだ? あの頑丈なアンドロイドをソーコム一発で、倒したんだからな。恐らくソーコムの弾丸を一気に貫通させてそこに炸裂弾かグレネードか爆弾なのか……とにかく弾丸の威力を高めるみたいだなあんたの能力は……」

 ジョナサンはマイクの説明に頭に激痛が走る思いだった。ジョナサンはマイクに訊いた。

「能力か……俺はウェイカーと化したのか……」

 ジョナサンは自分の両手を見て、確認した。両手は火傷の痕と少しの青あざになっていた。

 マイクは左手につけているアナログの腕時計を見て、時間を確認した。

「そろそろ時間だな」

「時間?」

「ああ、これから行かなくてはならなくてな。あんたも来てくれ。医師から聞いたが、もう動けるらしいぞ」とマイクは言い、病室を出て行く。

 ジョナサンは、マイクに言われるがまま、隣に置いてある松葉杖を取り、ベッドを出た。松葉杖で左足を引きずりながら、マイクの後ろ姿を追っていく。マイクは、艦内を迷うことなく移動し、エレベーターに乗り込む。

 ジョナサンもあとを追ってエレベーターに乗り込んだ。それを確認し、マイクはエレベーターのボタンを押してドアを閉める。

 ジョナサンはマイクに訊ねる。

「今からどこに向かうんだ?」

 マイクは、エレベーターのボタンを押して、ジョナサンの質問に一言で答えた。

「あんたの力を試す学校さ」

 マイクの答えに対して、ジョナサンは即座に理解できなかった



―― 米軍戦艦 ジョディ・グリーソン  地下3階 ――



 エレベーターはゆっくりと止まり、女性のアナウンスでエレベーターが特定の場所についた事を告げた。

 エレベーターのドアが開き、二人はエレベーターを降りた。ジョナサンが見た光景は、戦艦にはないとされているはずの広い訓練場であるのがわかった。

「到着したな。ああ、そうそう。言い忘れていたが、松葉杖はもういらないぞ」

 ジョナサンは杖を使わず歩いてみた。どうやら治っているようだった。

「本当だ。だったら病室の時から言ってくれ」とジョナサンはブツブツと言いながら、松葉杖を壁に立てた。

 マイクは、ジョナサンに説明する。

「懐かしいだろう? あんたが在籍していた訓練学校と同じモデルの訓練場だ。主に射撃場だがな」

 ジョナサンは黙ったままマイクを見ていた。

「さっきみてもらった映像のとおりあんたは拳銃を持った時に、アギトが発生したのがわかる。おっと、これをつけろ」

 マイクは、一つの黒手袋をジョナサンに手渡した。

「この手袋は?」

「一つ言うと、アギトの能力をある程度、抑える手袋だ。映像を見て分かると思うが、あんたのアギトは習得したばかりだから能力を一気に使い果たす可能性がある。アギトをうまく整えるためにはこの手袋は必要不可欠になる」

 ジョナサンは言われるがままに、手袋をつけた。ジョナサンが手袋をつけたのを確認して、マイクは一丁のソーコムを手渡した。

「これは俺の拳銃だ。これを今から出てくる訓練用アンドロイドに撃て」

 ジョナサンは、射撃台に立ち、アンドロイドが出てくるのを待った。

 訓練場のアナウンスがカウントダウンを始める。


『1』


『2』


『3』


『GO!』


 アナウンスが『GO!』と言った瞬間、奥の扉が開き、一体の訓練用アンドロイドが入ってきた。

 マイクは、ジョナサンに言う。

「今だ。 撃て」

 マイクの声と共に、ジョナサンはソーコムを訓練用アンドロイドに構えた。

 その瞬間、ジョナサンの体が何かを感じ、あの戦闘で起きたように惹きつけられた。腕の色が赤く鉄のように変わっていくのがわかる。

「うおおおおおおお、また、来たか!!」

 マイクは後ろに下がり、ジョナサンに起きた《アギト》の様子を見ていた。

「これがアギトか!」

 ジョナサンが持っていたソーコムの外装が変わっていき、赤黒い何かがソーコムを侵食していく。

 マイクは、鉄に映るジョナサンの顔を見てみると、目が赤く光っていた。

「これは……」

 ジョナサンは、アンドロイドの心臓部分をめがけて引き金を引いた。その瞬間、侵食されたソーコムの銃口から、赤い球体が、アンドロイドにめがけて発射される。以前の戦闘の時の赤い球体とは小さいが速さは尋常じゃなかった。

 赤い球体は、ジョナサンが狙った通り、心臓部分の装甲を貫きアンドロイドの体内で、赤い球体は止まる。

 赤い球体は光を発しながら爆風と火炎の波を作り上げて、アンドロイド包み込んだ。

 マイクは、ジョナサンが覚醒した状態の射撃をずっと見ていた。

「防護壁用意!」

 マイクは、トランシーバーで部下に連絡して、アンドロイドが発する爆風や火炎の波を防ぐ防護壁シャッターを下ろさせた。

「こいつはすごい」

 ジョナサンはソーコムをおろし、アンドロイドを閉じ込めるシャッターを見ていた。

 マイクは、トランシーバーをポケットに入れて、ジョナサンに拍手をおくった。

「素晴らしい! もうアギトを使いこなせている。人間によっては使いこなせる事ができずに終わった奴を何人も知っているからなおさら感動だ。間近で見れて」

「そりゃ、良かった」

 気付いた時には、ジョナサンの持っていたソーコムは浸食された状態から、元に戻り、普通の拳銃として戻っていた。

 マイクは、ジョナサンの目を確かめる。綺麗な薄青い目に戻っていた。


【これが、アギトか……】


 ジョナサンは言った。

「で、これで何か分かったのか?」

 ジョナサンの声にマイクは、ふと我に返る。

「あ、ああ。あんたの能力はおそらく自分が使っている拳銃を浸食させて、通常の弾丸から貫通とC4爆弾の様に爆破威力を持たせた……つまり、スルーブラストだな」

「スルーブラスト……」

 思わずジョナサンは自分の両手を見た。そんなジョナサンにマイクはふと声を掛ける。

「お~っと、そうだった。大事な事を言い忘れていた。あんた日本の警視庁魔導課を知っているか?」

 ジョナサンは突然の事に状況が掴めない。

「いきなり唐突だな。お前、もう少しタイミングとかないのか?」

「まぁ、聞いてくれ。日本の警視庁でアギトを習得したウェイカーだけが所属する魔導課というのを発足されたばかりでね。それを仕切っている人間がアキヒト・イイという警視総監らし……」

「アキヒトが!?」

「ああ、ちょっと待て。写真がある」とマイクは、プレイヤーを取り出して写真を見せる。

「これだ」

 ジョナサンは写真の顔を見て、思い出す。

「やっぱり、あいつだったか」

「知り合いか?」

 ジョナサンはプレイヤーを返す。

「ああ、12年前に米の警察と軍に、日本の自衛隊と警察機関で合同訓練を行った時に知り合った。その訓練の一環でクレー射撃大会があったんだ。準決勝でコイツとあたったんだが、相当手こずった相手だよ」

「そうだったのか……」

「真面目な奴でその後、飲みに行ったんだ。かなり強いんだよ。また、人の金でバカスカと飲みやがってな」

 マイクは、話にうんざりして溜め息をする。

「……あ」

「いいか? 続けても?」

「ああ、すまない」とジョナサンは軽く謝った。

 改めてマイクは口を開いた。

「これからあんたには、調べてほしい事がある。それで日本に向かってほしいんだ」

 ジョナサンは黙って聞いた。マイクは続ける。

「日本で、事件が起きたんだが、どうも、その事件、俺達の国で起きた事件と似ているらしいんだ」

「あの事件は、もう4年も経っているぞ。今更、なんで?」

「イイは3年前の丁度、今日に警視総監に着任したんだ。その後で警視庁魔導課というアギトを持ったウェイカーだけが所属している部隊を作り上げているんだ。そこで中尉。あんたに次の就職先を見つけて来た」

「?」

「実はな、俺達の国で起きた事件の実行犯が日本で潜伏している可能性が高くてな。要は実行犯を本国に引っ張ってきてもらいたい。生死は問わずで」

「生きたままじゃなくていいのか?」とジョナサンは訊いたが、マイクは、首を軽く縦に降って肯定した。

「ああ、あんたの好きなようにしてくれたらいい。ただ犯人を連れ戻してくれたら、あとはこっちでやる。ああ、そうそう。あんたに渡すものがあるんだ」

 そう言ってマイクは部下に、一つの携帯を持ってこさせた。

「老後の楽しみは、また今度な訳だ。気に入ったよ」

 ジョナサンは溜め息をついた。

 それを尻目に、部下から渡された携帯をジョナサンに手渡して説明する。

「これは、今の日本に入る為の入国許可証と就労ビザみたいなものさ」

 ジョナサンは話を聞きながら携帯の画面を開いた。そこには自分の写真と職業経歴表示が映し出される。



《ジョナサン・R・レイン NSA局員》



 アナログ人間のジョナサンは、表示を見て、マイクに反応をかえした。

「おい。これ……」

 マイクは、言った。

「ああ、格好いいだろ? 肩書きってのは必要だしな。安心しろ。連絡はしてある。イイも了承済みだ。で、あんたには、今から日本に向かってくれ」

「日本へ?」

「ああ、日本だ。大丈夫だ。今、この戦艦は、横浜の米軍横須賀基地に向かっている。あんたは横須賀に着いた後で、警視庁に向かってくれ。装備や衣服などの必要最低限の準備はこちら側で手配させてもらっているから心配は無用だよ」

 自分を置いて、話が進みまくっている事に気付いたが、遅かった。マイクは言った。

「で、あんた、日本語は?」

 ジョナサンは言った。

「ああ、なんとか。日常生活で使える程度だよ」

「まぁ、大丈夫だろう。じゃあ、あちらでの働きを大いに期待しているよ。時間があればまた会うだろうな。ああ、そうだこれは退役祝いだ。受け取ってくれ」

 マイクは、ポケットからラッキーストライク1箱を取り出してジョナサンに渡して言った。

「俺はラッキーよりマルボロ派でね。じゃあまた」

 マイクは、ジョナサンに一言、言った後で踵を返し、エレベーターに向かう。

「今度、飲みに行けたらいいな」とジョナサンはエレベーターに向かう男に向けて言った。

 マイクは、それを皮肉でかえし、エレベーターに乗った。

「いや、それは難しいな。少なからず行けて100年後でどうかな?」

 ジョナサンも皮肉でかえした。

「じゃあ、100年後だな。料金はお前持ちだぞ」

 マイクは愛想笑いをして、エレベーターのドアを閉めた。

 ジョナサンは再び自分の両手を見て呟いた。

「ウェイカーか……悪くないな」


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