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マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―  作者: マシン・ブレイカー制作委員会
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十八話 悪意のカゲ

 ぱらぱらと、何かが落ちてくる。

 暗がりだから、何が落ちているのかは、推測でしかない。

 恐らく、天井の破片がいくつか落ちただけだと思うのだが……。


「どうやら、派手に暴れてくれてるようだ」

 黒島の言葉にA-Sエースは眉を顰めた。

「加減を知らんやつらばかりだからな」

 くすくすと笑う黒島に、A-Sは苛立ちを覚えながらも、そう言い放つ。

「では、ここであなたを傷つけたら、彼らはどんな顔をするかな?」

 それを聞いて、A-Sの顔が凍りつく。ミラーシェードで隠された顔が、歪んだ。

「いやそれよりも、彼らの前で君を傷つける方が楽しいか?」

 A-Sの顎をその手で上げさせて、黒島は、なおも笑い続ける。

 その間にも、部屋は振動で揺れている。

「やってみろっ! 舌を噛んで死んでやるっ!!」

「そんな気ないくせに」

 ぱっと、興味がなくなったといわんばかりに、黒島がA-Sから離れた。

「おや、面白いものが見れそうだ。君も見るがいい」

 くるりとパソコンを回転させて、黒島はA-Sに見せるけるかのように、画面を向けた。




 今は何階だっただろうか?

 いや、そうじゃない。

 このビルには、かなりの量のロボットが巣くっていた。

 それをフィグネリアとの連携で突破していた。

 国崎は、早くA-Sの元へと逸る気持ちをバネに、弾丸のごとく突き進む。

「お前ら……邪魔だっ!!」

 さっきと同じようにアギトを発動させ、電磁波で身動きできないところを駆け抜ける。

 その後ろでフィグネリアが遠距離攻撃できそうな敵を、自身の持つショットガンで吹き飛ばす。

『亮平様、前をっ!!』

 巨大なアームが、国崎の髪を掠める。もう少しズレていたら、大怪我だけでは済まなかっただろう。彼らの前に立ちはだかるのは、アームも胴体も巨大なギガントシリーズのロボット。本来ならば、その体を駆使して、巨大な工業用部品を運んだり組み立てたりする優秀なロボットであった。しかし、今は彼らの……国崎達の敵として君臨している。

「お前も……さっきの奴らと同じにしてやるっ!!」

 怖じけることもなく、国崎は手を突き出し、電磁波を放つ。

 そのときだった。

「お、国崎はっけーーんっ!!」

「これで道中楽に……って、えっ?」

 裏口からやってきた新垣達がやってきたのだ。

 国崎が発したのは、先ほど施した敵と同じく電磁波で敵を身動きさせないもの。

 先ほどの小さいものであれば、その場にうずくまるだけだけだっただろう。

 しかし……国崎が相手したのは、腕の大きいギガント。立つのにもバランスが重要なロボットゆえに、それが失われれば、どうなるかは明白だ。

「ロボットが、崩れるっ!?」

 思わず能見が頭を庇う様にしゃがみ込んだ。

「やらせるかっ!!」

 新垣の体の周りの空気が揺らめいた瞬間。


 ジュワアアアアアッ!!


 蒸発。押し寄せてくるはずのロボットの、いや鋼鉄の塊が一瞬で、蒸発して消え去ったのだ。

「あ、あつっ……」

 思わず、能見が呟き、そして、目の前に広がってる状況にぽかんと口を開けた。ちなみに、その状況の引き金となった国崎も同様に。

「ふう、ギリギリってトコか」

 いつの間にか注目の的になってる新垣はというと。

「お、皆、無事か?」

 無事そうな三人を見て、笑顔を見せていた。

「ぶ、無事か、じゃないですっ!!」

 能見が思わず叫ぶ。

「あなた、何をしたのか、わかってるの?」

 びしっと指差した先は、国崎。

「何って、敵を倒した。ただそれだけだ」

「そうじゃないでしょう? 新垣さんがいたから、私達は助かったけれど、そうでなければ、私達は間違いなく死んでいたわ。ううん、死んでいなくても大怪我間違いなしだった。それがどういうことか、わかってるんですか?」

「そ、それは……」

 思わず口ごもる国崎。

『先ほどのことは、偶然が生み出した不幸な事象です。決して、亮平様のせいでは……』

「そうかもしれないですけど、これが何度も続くようなら、怖くて一緒に行動することもできませんよ。ロボットはこれだけではないんですし」

 そう、能見の言う通りだ。

 事件が起きた後、大多数のロボットが壊れた。

 現在も魔導課のような者達や、傭兵と呼ばれる者達が狩りを行っているが、それでも全体の十数パーセントほど。

 その多くが共倒れや技量が足りずに逆に殺されているという状況だ。

 それに傍に居るフィグネリアも壊れたロボット同様、暴走するかもしれない危険性を孕んでいるのは否めない。

「私達は、この事件の真相を解明し、暴走したロボット達を止めなくてはならないんです。そのためには、あなたのように周りのことを何も考えずに突進する攻撃をされると、非常に困るんです。ロボットは私達人間よりも強力なモノが多いんですから」

 がっつり能見に説教されてしまい、国崎は、さっきまでの勢いがなくなっていく。

「もうそれくらいでいいだろ? コイツだって、好きでやってる訳じゃないんだからさ」

 ぽんぽんと国崎の肩を叩いて、新垣は笑みを浮かべる。

「それに、俺達はこんなところでまごついてる暇はない。A-Sとかいうヤツを助けないとな」

「そ、そうだった……」

 気を取り直して、三人は先へと進んでいく。

 先ほどのように突進することはないが、けれど、やはり前のめりの攻撃は、なかなか抑えることはできない。

 いや、正確にはそうではない。

 国崎は、その戦い方しか知らないのだ。

 そのため、国崎の攻撃を基本に、フィグネリア、新垣、能見がフォローする形で進んでいく。



 数時間後、やっと彼らは目的の場所にたどり着く事ができた。

「こ、ここは……」

 暗がりの部屋。恐らく窓が何かで塞がれているのだろう。

「ようこそ、皆さん。待っていたよ」

 そこに現れたのは。

「黒島っ!!」

 突っ込んで行こうとする国崎を止めたのは、新垣だった。

「待て、俺達の目的を忘れるな」

「うっ……」

 その二人の様子を楽しげに眺めているのは、黒島。

「君達が欲しいものは、ほら、ここにある」

「A-Sっ!」

「僕のことはどうでもいい! 早く黒島を……」

 椅子に縛り付けられているA-Sを黒島が蹴り上げた。それがまともにA-Sの鳩尾に入る。

「うぐっ」

 ごほごほと咳き込むA-Sに国崎は怒りを覚える。

「おや、そんなことを言っていいのか? A-S、君は今、僕の手の中にあることを忘れるな」

 怨むかのように見上げるA-Sに黒島は微笑む。

「まあ、お陰で今日は良い収穫を得ることができたよ」

 傍にあったノートパソコンを畳むと、黒島は、それを大事そうにジュラルミンケースに仕舞いこむ。

「だから、A-Sは君達に帰そう。僕にはもう必要ないからね」

「……」

 何か言いたげなA-Sを無視して、黒島はそのまま。


 ぱちんと指を鳴らした。

 それと同時に開かれるブラインド。


「うわ、眩しっ!!」

「くっ、これを狙ってましたかっ」

「くそ、黒島はどこだっ!?」

『右斜め35度の方向です』

 フィグネリアの声に従い、首をめぐらせると。

「もう遅いっ!」

 黒島は勢いよく窓を開き、その身をビルの外へと投げ出す。

「さようなら、諸君。この次はもっと楽しい遊戯を……」

 その黒島の言葉は、何者かの銃弾によって、途切れた。


「なん、だと……!?」


 普通じゃない銃弾は、黒島の体を掠めたかに見えた。

 だが、そうではなかった。

「ぐあっ!!」

 その右腕。

 あったはずの右腕が銃弾を貫いた。

 それと同時に、炸裂。

 その結果、導き出された答えは。

「右腕が、吹き飛ばされた……?」

 目の前に起きた状況に、国崎は理解が追いつかなかった。

 国崎が知らない相手。

『どうやら、相手の右腕を奪えたようだな』

 新垣達がつけていた通信機から、声が響く。

 そう、もう一人の味方。

「ジョナサンか」

『もっと上手くやりたかったんだがな』

 そういうジョナサンに新垣は。

「いや、これでも十分」

 笑みを零した。


「流石は魔導課……しかし」

 黒島が落ち行く先は、川の激流が轟く崖下。

「この次は、そうはいかない」

 その言葉は、彼らに届いただろうか?

 黒島は苦笑しながら、ゆっくりと川の流れに飲み込まれていった。

 ざばーんという、激しい落下音と共に。



「A-Sっ!! 大丈夫か?」

 国崎がすぐさま駆け寄り、A-Sにつけられた縄を解く。

「あ、ああ……何とか」

 それ以上のことは、口から紡ぐことはできなかった。なぜなら。

「……!!」

「よかった、君が無事で」

 強く抱きしめられたからだ。

「な、こ、こんなところで抱きしめるやつがいるかっ!!」

 ばきっ!!

「うごっ」

 フィグネリアが止めようと動いていたが、遅かった。

 フィジカルブーストの利いた腕が国崎の鳩尾をジャストミート。

 その結果、国崎は悶絶することになる。

「あ、すまん……」

「い、いや、俺も……その……うぐっ」

 そんな二人の様子に新垣達は、顔を見合わせ、苦笑を浮かべるのであった。



「そうか、黒島はそのまま行方不明、か……」

 通信機から聞こえる部下の言葉に、井伊は思わず口元を歪める。

「だが、A-Sを無事に救出できた上に、黒島ヤツに一矢報いたのだから、それはそれでいいか。分かった。そのまま戻ってきてくれ。詳しいことはそのときに」

 ボタンを押して、彼らとの通信を終了させる。

「どうやら、片がついたようだな?」

 井伊は声の主、いや久我原は、茶をすすりながら、そう確かめた。

「ああ」

 にこりと笑うが、その瞳は、かけらも笑っていなかった。

「こっちが咆哮を上げる前に、黒島に仕掛けられるとは、な」

 ライターに火を点すと、ポケットから取り出したタバコに近づける。

「だが、今度はこっちから仕掛ける番だ。それに我々には、まだ秘密兵器がある」

 その井伊の言葉に、今度は久我原が苦笑を浮かべる。

「まだ答えを言ったわけではないぞ」

「けれど、久我原。君の力はまだ、黒島には知れていない、そうだろう?」

 その井伊の言葉に、短く。

「そうかもな」

 そう告げたのだった。


 彼らの戦いはまだ、始まったばかりなのだから……。

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