第5話:もうひとつの記録
西暦2011年、アルビオンパンツアーの試作版とも言えるゲームが稼働し始めていた。
ARゲームも複数存在するが、体感ゲームでリリースされたのは初だという。
その当時はパーツカスタマイズ型のロボットバトルであり、そのパーツは運営が認めていた物だけが使用可能だった。
しかし、何者かがデータを意図的に流出させた結果、実際にゲームで使用出来る違法パーツが流通する結果を生み出す事になる。
違法パーツの流通によって、初心者狩りが横行、更に強化された違法パーツが裏ショップで売買、超有名アイドルの宣伝に利用する為の実況プレイ、さまざまな問題が浮上してきた。
それらの問題は運営が仕事をしていないから起きたのではなく、一部のユーザーが莫大な利益を得るために行っていたという物で、いわゆる『タダ乗り』に近い物があった。
ネット上に存在するアフィリエイトによる収入を得ようとするまとめサイト、そう言った便乗勢力はいつの時代も存在する。
これを重く見た運営は更なるデータを投入し、タダ乗りのユーザーを魔女狩りしていくという手段に出る事になった。
これがアルビオン事件における異星人の正体ではないか、と言われ始めたのはごく最近。しかし、あまりにも整合性が取れないとして、今は却下されている。
それに加えて、この異星人に関わっていた人物は元超有名アイドルファンであり、今は実際にアイドルを続けているという噂もあった。
そうした裏の顔が表面化すれば――間違いなくネット上では大炎上は避けられない。
その為、異星人の記述に関してはネット上でもデータが出回らないという状況となり、やがては忘れ去られていく存在となった。
それから数年が経過し、2012年にアルビオン事件で言及されている異星人が出現、以前の物とはデザインが違う為に犯人は別と言われているが、真相は不明のままだ。
更に言えば、アルビオン事件後も大規模ではないが異星人絡みの事件は続いており、それに対抗する手段としてアルビオンパンツアーが生み出されたとも言われている。
諸説ある為にどちらが真実なのかは不明だが――解析班も動き出しているので、いずれは真相も明らかになるだろう。
異星人に対抗できる武装はARウェポンである事も、アルビオン事件後の解析で判明し、それらを参考にした武器も生み出された。
ブレイブスナイパーと龍鳳沙耶の激闘、アカシックレコードのフルアクセスと疑われるホワイトブレイカーの機動力、それに対するのは圧倒的な力とも言えるアナザーオブアルビオン――。
「アルビオン事件、それは超有名アイドルが仕掛けたトラップにすぎない!」
ブレイブスナイパーの一言を聞いた龍鳳は我に返る。
そして、その発言を全力で否定するかのように実体剣を展開した。その刃からはビームが発光している。
「あの事件には超有名アイドルは関与していないはず! 何を証拠に――」
龍鳳の反論も一理ある。実際、ブレイブスナイパーもアルビオン事件が超有名アイドルの陰謀とする証拠は掴んでいない。
「ネット上でも圧倒的な意見に証拠など必要があるか?」
この一言は龍鳳を混乱させる。まるで、ゴリ押しと言うか……大手芸能事務所が行っている古い慣習を思わせるような物に近い。
ブレイブスナイパーが国家反逆罪で自分を倒そうと考えている一方で、このような矛盾するような発言。
彼女の目的には疑問が残る事になるのだが……。
「あなたの本当の目的は何?」
その質問に答えることなく、ブレイブスナイパーは姿を消した。
正確には、質問をする前にスモークグレネードを発射し、姿を消していたのが正しい。
翌日、この一連の騒動に関しては運営からの公式発表はない。
現時点では混乱を招くと判断しているのだろうか。しかし、ネット上では一連の騒動に関する情報開示を求める声が出ているのも事実だ。
一方で、芸能事務所側もブレイブスナイパーを雇って他の勢力を力で従わせようという説が広まっている件について、鎮火させるので精いっぱいと言う状況になっている。
この剣が広まっている原因として、運営側が情報開示を遅らせているという憶測もあるのだが、それ以上に別のスキャンダル等から目をそらさせる為とも言及されているらしい。
【ブレイブスナイパーを雇ったのは政治家と言う説がある】
【彼女の実力はかなりの物だ。それを踏まえると、政治家が雇いたくなるのも無理はない】
【まさか、あいつは用心棒だったのか?】
【用心棒とは違うだろう。あくまでも金で雇われる傭兵と言うべきか】
【どちらにしても、芸能事務所の方はクロと言うべきだな。あの文章で全ての幕引きを図っているとしか思えない】
ネット上のつぶやきを見ると、あの文章では説得力がないという見解が大半のようだ。
これを見たハンター側も超有名アイドルの芸能事務所に対して対策を検討しているらしい。
「こうした動きも見せている芸能事務所側に対し、我々も徹底抗戦をしていくべきと考えます」
ハンター側は、このような発言を行った――と言われているが、ネット上に該当ソースは存在しなかったという。
もしかすると、この発言はコンテンツ炎上勢の工作なのではないのか? その不安が拡散しかたどうかを見極められるまとめは、この段階では存在しない。
都内某所の会議室、そこではハンターの出席可能なメンバーがそろって会議を行っている。
しかし、この場にはカリスマを持っているランカーの姿は全くない。
「しかし、我々が武力で超有名アイドル勢を抑えたとしても……アカシックレコードに記された事例と同じになってしまう」
「アカシックレコードの事例は、今の我々にとっても学ぶべき物が多い」
「我々ハンターは過去に超有名アイドル勢力と戦ってきた者たちと同じ末路をたどるべきではない、と考えている」
「こちらが武力行使をしたとしても、向こうが我々よりも技術が劣っている武器で対抗するとは限らない。アカシックレコードと言うアドバンテージがいつまで有効なのか……」
会議の方は平行線と言う状態である。
一方で、武力行使賛同派は『今の政府は超有名アイドルに操られているだけ』とも断言。
その上で、一部の暴徒化した勢力に対して武力行使をするべきという考えを持っていた。
武力と言っても、彼らの持つ対抗手段は大量破壊兵器の類ではない。
あくまでも、人を傷つける事に関してはARゲームにとっても致命的と考えているようだ。
「超有名アイドルファンが行っている事、それはコンテンツ業界にとっては大打撃と言っても過言ではない。アカシックレコードでも事例のあるBL勢、CDランキングの水増し、転売屋の横行……彼らが愚の骨頂と言う事例はいくらでもあります」
「それを正す為にも武力行使をするべきと? それでは、アナザーオブアルビオンと同じではないのか。今の考え方は、無差別に超有名アイドルを魔女狩りしている彼と同じ行動原理を持つ事になる」
ある会議参加者が武力行使賛同派の意見に待ったをかける。
それは、アナザーオブアルビオンの行動原理が武力行使賛同派と同じであると言及した事だ。
「アナザーオブアルビオン、それは元々アカシックレコードを完全解読する前に作りだされた物。あなた方も、その真実を隠そうと考えているのでは? アルビオン事件、それは元々――」
武力行使派も反対派に対して反論をする。
アナザーオブアルビオンは元々アカシックレコードを解析して開発された――と言われているが、真相は不明。
しかし、アカシックレコードの解析が不完全だった事で一連の事件が起きたらしい。
「結局、平行線か」
「そのようですね」
会議の方も終わりを迎え、終了を告げようとした、その矢先だった。彼女が乱入してきたのは……。
「ハンターとしては、武力行使の強行は認めない。それをすれば悲劇の連鎖を繰り返すだけだとアカシックレコードから学ばなかったのか」
乱入してきた人物、それは意外な事にナイトロードだった。
彼女はハンターの本部に用事があってきたのだが、会議の存在を知って顔を出したという事らしい。
「ナイトロード。あなたには関係ないでしょう。これは我々の問題。部外者には帰って――」
「部外者だと? ハンターのメンバーである以上、部外者と言う事はないはずだが」
「しかし、会議に参加していない貴方が口を出せるような問題ではない。後から割り込んできて、自分の意見だけ言って帰るような事は許されませんよ」
「それも一理あるな」
武力行使派はナイトロードを退場させようとしたが、ある一言がナイトロードにきっかけを作ってしまった。
「ハンターとしては、今まで通りにアカシックレコードの解析を進め、コンテンツ業界が本当にあるべき姿を取り戻す為に戦う!」
ナイトロードの発言を聞き、武力行使派は思わず拍手をする。
しかし、それを見た彼女は別の何かを閃き、話を続ける。
「一方で全てのコンテンツとの共存を図る為、対話路線も続行する」
この話を聞き、武力行使派は『話が違う』と反論するが、ナイトロードは聞く耳を持たない。
「我々が排除するのは、悪質なタニマチ行為を続ける投資家ファン、超有名アイドル以外は価値がないと切り捨てる炎上狙いのマスコミ連中だ。そうした勢力に対し、アカシックレコードの力を見せつける事で全ての戦いを終わらせる!」
武力行使派は再び『芸能事務所を廃業に追い込む方が優先課題だ』や『投資家ファンを排除する事は難しい』と言う意見が飛び交う。
『だからこそ、超有名アイドルその物を根絶すべき』
武力行使派の発言が飛ぶのだが、ナイトロードはそうした発言はスルーする姿勢を崩さない。
「では聞くが、ハンターはいつから野党政治家に金をもらって動く組織になった?」
ナイトロードの一言を聞いた武力行使派は、急に反論を止める。
これに対して何も答えられないのか、それとも――。
「今の与党ではコンテンツ業界は超有名アイドルの私物となっても、自分達に利益があれば問題ないと判断する。しかし、野党はそれを許さないだろう! だから、我々は野党の力を借りてアカシックレコードを――」
武力行使派の一人が発言すると、周囲が動揺をし始める。
ただし、ナイトロードはその発言に関して眉ひとつ動かさない。
そして、何かを言い終わる前に腰からハンドガンを取り出し、銃を突きつけた。
「アカシックレコードの使用前提条件を忘れたとは言わせないぞ! 政治利用、軍事利用がご法度である事……」
冷静だったナイトロードも、さすがに我慢の限界で引き金を引こうとしていた。
それ程に彼の発言はナイトロードにとっては地雷を踏んだ事に変わりない。
「武力行使派を全て警察へ引き渡す。これで与党の議員を辞職に追い込む事も容易だろう」
落ち着いたナイトロードが指示をすると、会議室に別の場所で待機していた警官隊が姿を見せ、次々と武力行使派の人物を連行していく。
これは後に判明した事だが、武力行使派の中には闇サイトのバイトで潜り込んでいた者、別アイドルのグッズを買う為乃資金を作る為に武力行使派として情報を送っていた人物もいたらしい。
「これで勝ったと思うなよ。コンテンツ業界が抱えている闇は、アカシックレコードに記されている事だけがすべてではない。今もリアルタイムで問題点は書きこまれている――」
連行されていく武力行使派の最後の一言、それが何を示しているかはナイトロードには理解していた。
「超有名アイドルが歪めたコンテンツ業界、それを正しい方向へ導くのがアカシックレコードを触れた者の使命だから」
しかし、連行されていく人物にナイトロードの返答が聞こえていたのかは定かではない。
これによって武力行使派のスパイ潜入疑惑が表面化、更にハンター及びガーディアンの周囲は混迷していく事になる。
7月21日、龍鳳は再び秋葉原へ足を運んでいた。目的は超有名アイドルとも他の勢力と戦う事ではない。
「あれは……龍鳳?」
その龍鳳の姿を発見したのは、ARゲームを扱っているゲーセンへ向かう所だったジャンヌ・ダルクだった。
しかし、追跡しようとしたら途中で姿を消したと言うべきだろうか。
「それよりも、まずは超有名アイドルサイドの動きを探るべきか」
ジャンヌが懸念していたのは超有名アイドルの動きである。
実は、ジャンヌはアルビオン事件の異星人に関してネット上にも出ていない情報を掴んでいるのだ。
そのジャンヌを警戒していたのは、ハンターだけではない。ブレイブスナイパーもジャンヌに関して警戒をしている人物だ。
「どちらにしても、超有名アイドルと政治家が裏で全てを操っている証拠を掴まないと」
ファストフード店でハンバーガーを食べながら情報を収集しているのだが、真相を掴むまでには至っていない。
「このサイトは、まさか――」
ネットサーフィンをしていたブレイブスナイパーが見つけたサイト、それはアカシックレコードというサイト名のウィキである。
同日午後1時、北千住エリアで複数のランカーを撃破するアルビオンパンツアーが存在するネット情報があり、それを元にブレイブスナイパーが向かう。
「お前達のプレイが不正である事は既に分かっている」
自分が使用するアルビオンパンツアーとは違った格闘タイプ、それに乗っているランカーは不正データや違法パーツを使用しているアルビオンパンツアーと戦っていた。
「こちらが不正で、アナザーオブアルビオンは合法だと言うのか?」
相手ランカーの言う事も一理あるが、あちらは運営公認というお墨付きがある。
一方で、相手が使用している物は運営を通していない物であり、違法パーツなどと言われても文句は言えない。
「お前達も知っているだろう。アルビオンパンツアーの違法パーツが原因で起きた事故の数々を。それによって風評被害を受けていた……アルビオン事件当時の事!」
この人物の言う事も間違ってはいない。
異星人の襲撃前、アルビオンパンツアーでは謎の事故も増えていた。
その原因が違法パーツの仕様だという事に気付いたのは、事故が発生して1週間がたたない頃である。
「しかし、事故さえ起こさなければ問題はないだろう?」
「その事故が起こってからでは遅い! 下手をすれば命さえも落とす危険性がある」
「命だと? 何処かのMMORPG小説にあるデスゲームか?」
「だから甘いと言っている。日本ではデスゲームの開発は禁止された。それも分からずにアルビオンパンツアーを語ろうとするのか!」
そして、大型ナックルで吹き飛ばされたアルビオンパンツアーは機能を停止、あっさりと決着がついた。
後に原因を調査した運営によると、違法パーツの欠陥でアルビオンパンツアーの機能が大幅低下していたという。
大幅な能力上昇はあったようだが、一時的な物だったらしい。
《勝者:時雨藍伊》
中継モニターの勝利者表示を見て、ブレイブスナイパーは驚いた。
あの時雨藍伊がアルビオンパンツアーに参戦していたのだ。
そして、違法パーツを使っていた人物に関しても運営の方で特定され、海外アイドルのメンバーである事も判明した。
それで日本の法律を知らなかった、と言えるのかもしれないが――。
「時雨の狙いは超有名アイドルファンではなく、アイドルその物か」
アルビオンパンツアーではアイドルが参加できないというルールが存在する。
その理由として、莫大な保険金の支払いと言ったクレームに対応する為とネット上では言われている。
バトルが時雨の勝利で終了し、違法パーツを使っていたプレイヤーは運営によって拘束された。
後の警察の調査によると、彼は違法パーツ以外にも違法なARガジェットに手を出していた事が判明。
この世界では根絶されたと思われていた違法ガジェットの存在に再び恐怖するのだろうか。
「歴史は繰り返されるのか。アルビオンパンツアーを取り巻く環境は、日本を再び暗黒時代へ導いてしまうのだろうか?」
そう言った事を考えながら、ブレイブスナイパーは北千住を後にした。
一方で、龍鳳の方は秋葉原のゲーセンを巡っていた。どうやら、音楽ゲームの行脚を行う為らしい。
「一体、コンテンツ業界はどうなってしまうのだろうか。アルビオンパンツアーがなければ、あの事件が起こらなければ―」
龍鳳はアルビオンパンツアーがなければ、超有名アイドルの暴走もなかったのでは―と考え始めていた。
しかし、仮にアルビオン事件がなかったとしても、別の世界線で起こった超有名アイドルを巡る事件がなかった事になる訳ではない。
アカシックレコードに記されている事件に関しても同様だ。全てをリセットする事は物理的に不可能であり、それこそ魔法の様な力でもない限りは無理だろう。
あるいは、デウス・エクス・マキナに代表されるようなご都合主義でひっくり返すという手もある。
そうした手段を使えば、誰もがアルビオン事件を含めた一連の事件に関してマッチポンプと疑うだろう。
「仮にアルビオンパンツアーがなかったとしても、他の世界線で同じような事件が起こり、別の人々が悲しみの連鎖に巻き込まれる。ならば、自分達が超有名アイドルを何とかしなければいけない」
何かを決意した龍鳳は、ゲーセンの自動ドア前に立ち、ゲーセン内へと入って行った。
草加市のゲーセン、そこで他のプレイヤーのプレイ観戦をしていたのは武蔵あずさだった。
どうやら、今回もランカーの動向調査らしい。動向調査と言うよりは、新作の稼働状況を確かめると言った方が早いのだろうか?
「アルビオンランカーの動きも活発になっている。そして、アカシックレコードにもリアルタイムで書き込みが始まっている」
タブレット端末の更新データを見つめながら、あずさはつぶやく。
そして、あるデータのダウンロードが終了すると、圧縮されたデータを解凍して内容を確認する。
「コンテンツ業界の変化は、未だに起ころうとしない。昔の利益を得てきたやり方にこだわり過ぎて、新しい手法に挑戦しようとしない」
データの確認をしながら――彼女は考えた。
このままでは超有名アイドルの都合がいい世界へと書きかえられてしまう。その対抗手段はないのか、と。
「このデータならば、超有名アイドルに対抗できる可能性が――」
あずさが手に入れたデータ、そのファイル名には《アガートラーム》と書かれていた。
一方、ある芸能事務所。パソコンの前に向かってデータの整理を行っていたのはサタン・ブレイドだった。
整理しているデータは新作アルバムの歌詞などではなく、アルビオン事件で姿を見せた異星人のデータである。
「これでパズルのピースは揃った。後は、向こうがどのような手に出るか――」
データの整理中、机に置いていたスマートフォンが鳴りだす。電話の相手は冬元と表示されている。
「そっちも遂に動き出すのか?」
『ああ。こちらも本格的に動き出す事になった』
「これで超有名アイドル国家が実現する。そうなれば、超有名アイドルによる地球支配も容易になるだろうな」
『そうか。それは良かった』
「他の世界では実現しなかった1社の芸能事務所アイドルによる支配――これこそ、日本がバブル崩壊の悲劇を繰り返させない為の切り札だ」
『フフフ――それを聞いて、我々が放置すると思うか?』
「何がおかしい? 超有名アイドルが地球を支配するのが夢小説やフジョシ勢のSSと同レベルの筋書きとでも言いたいのか?」
『そう言う訳ではない。超有名アイドルが行おうとしていた事が、そんな小学生レベルの様な物だったとは。まるで、某イラストサイトで小説デイリーにランクインする『僕が考えた理想のカップリングによる夢小説』みたいで――』
「その声、貴様は冬元ではないな。何者だ!?」
途中で会話が矛盾している事に対し、サタンは電話の主が冬元ではないと見破った。
しかし、仮に偽物だったとして通話表示が冬元になるのはおかしな話である。冬元の電話番号を登録している以上、その電話番号で通話しない限りは――。
『私の名前を聞きたいのか。名前を名乗るよりも、こう言った方が君にとっては都合がいいかもしれない』
「都合だと? 一体、貴様は何者だ?」
『名前など、私にとってはないのと同然。私が《異星人》だからだ』
「異星人だと? まさか、アルビオン事件の異星人だと言うのか?」
そして、これをきっかけとして異星人の反撃が始まろうとしていた。