第1話:影の存在
###
同日午後1時、足立区内のショッピングモールに併設されたゲームセンターにいたのは、周囲からしたら不審者とも言われそうな女性である。
その服装は魔法少女を思わせ、更にはバイザーで素顔を隠しているのだ。有明の某イベント等でも、このような外見の人物を目撃する事は少ないだろう。
素顔を隠している状態の為、イベント会場でも呼びとめられる可能性があるのは言うまでもない。
アナザーオブアルビオン、遂に動き出したわね。それに加えて、あの勢力も動き出した。
彼女の表情を周囲の人物が確認しようにも、装着しているバイザーによって顔が隠されていて確認できない。
通常であればフルフェイスと同じように扱われ、ショッピングモールにも立ち入れないのが普通だ。それが入られたという事は、何か細工がされているのだろうか?
侵入できたという事で、ネット上で写真を撮ってつぶやきを拡散しようとした人物は、撮影を諦めて別の場所へ向かう。
このような人物は、ネット上で情報拡散させる事で一部コンテンツ勢力を炎上させ、推しコンテンツの人気を上げようと言う勢力だと言うのが即座に分かる。
しかし、こうした人物が通報されない事、その理由には一般市民がコンテンツ炎上騒動に関して無関心を決めているのが理由なのかもしれない。
他にも複数のアルビオンランカーが新たに誕生している。しかし、この事実を変える事は彼らに出来ない。それに、超有名アイドル勢は烏合の衆である事も――。
彼女は笑みを浮かべるが、それは周囲の人物には分からない。その一方で周囲の人物が彼女の姿を見て何かをしているように見える。
もしかすると、警察へ連絡している可能性も否定できないだろう。
「すみませんが、少しご協力を頂けませんか……」
5分もしない内に複数の警官が彼女へ向かってくる。どうやら、別の通行人が警察へ連絡したらしい。
警察に怪しまれるのも無理はないけど、ここで正体を見せる訳にはいかない。どうすれば――。
彼女が悩んでいると、もう一人の人物が警官の北方向とは別の場所からやってきた。こちらも別のゲームで使用するインナースーツを装着し、更には何かが入っているようなスーツケースも怪しさを爆発させている。
彼女は駅から出て何かを探しているようにも見えるのだが、ギャラリーの一人は無言で何かに脅えているようでもあった。
「警官の方々がアニメのコスプレイヤーを魔女狩りとは――超有名アイドルの大手芸能事務所から賄賂でも受け取ったのか?」
スーツケースの女性は警官達を魔女狩りと考えているらしい。警官の方はスーツケースの女性も同じような連中の仲間と判断し、拳銃を構えて威嚇射撃の体制をとる。
威嚇射撃の体制を取った段階で、野次馬が写真を取ろうと考えるのだが――シャッターチャンス的な意味でも狙いが定まらない。
「そこまでやると考えるのなら、仕方がない―」
スーツケースが開いたと思ったら、そこから出てきたのは3つに折りたたまれたスナイパーライフル。
彼女が展開した1メートルに近いライフルを構えると、それを見た警官の一人が震えだした。
「馬鹿な……あいつが、何故にここにきている?」
警官の一人は、別の警官達を呼び出して何かの相談を始める。
その声が外部に聞こえる事はないが、あの彼女に関して相談をしているのは確実だった。
「あいつはブレイブスナイパーだ。複数のFPSゲームで優勝の経験を持っているのに加えて、狙撃の腕も確か」
「それが本当ならば、ここで騒ぎを起こせば大事件に発展するだろう」
「仕方がない。ここは彼女をやり過ごすという意味でも、放置するしかない」
「我々としても、あの事務所からのお金が――」
「それをこの場で拡散させたら、警察の信用が失墜するのは避けられない。今は我慢するべきだろう」
相談が終わった後、彼らはブレイブスナイパーに近づく。銃刀法違反で現行犯逮捕すると思ったら、予想外の事を口にした。
「先程は失礼しました。今回の件は、あなたの顔に免じて不問にいたします」
ブレイブスナイパーの方も予想外の反応と言う表情をしている。そして、警官の方はその場から去った。
そして、別の通報があったアイドルグッズを転売していた行商を逮捕するのだが――。
警察官が去ってしばらくして、魔法少女は警察官が去った方角を向く。どうやら、彼らが戻ってくる事はないようだ。
「あなたが、あのブレイブスナイパーだったとは思わなかった。そして……」
魔法少女がブレイブスナイパーに対して、一礼する。
それに加えてお礼を言おうと考えていたが、ブレイブスナイパーの方は拒否しているようだ。
「例を言われるような事はしていない。ただ、同じARゲームのプレイヤーとして警察が魔女狩りまがいの事を行っている現状が許せなくなった。それだけだ」
ブレイブスナイパーは、先ほどのスナイパーライフルを収納しながら受け答えをする。
「自分が言える事は、警察の魔女狩りが5年前から断続的に続いていた事。それは異星人が襲撃してきた時と一致する」
それを聞いた魔法少女は何か引っかかるものがあると思った。そして、ブレイブスナイパーへ質問をぶつける。
「アルビオン事件も芸能事務所が意図的に起こした物だというの?」
しかし、ブレイブスナイパーの表情は変化しない。それに加えて、彼女がその事に関して口を開く事もなかった。
「都合の悪い事はダンマリと言う事? あるいは話せない事情でも――?」
気がついてみると、その場からブレイブスナイパーの姿が消えている。どうやら、話の途中で何処かへ去ったらしい。
「どちらにしても超有名アイドル勢がクロという可能性は、今の段階では否定できない事か」
魔法少女も別のエリアへと姿を消す。一体、彼女は何を考えていたのか。現時点で分かる者はいない。
アルビオン事件、その時に姿を見せた異星人の正体を知っている物は非常に少ない。ネット上では純粋に異星人と考える勢力もあるのだが、その一方で工作説を考える者もいた。
「アルビオン事件の真相を知っている人物は少ない事に加え、その情報を外部へ流出させようという姿勢も見せない。これが何を意味しているのか―」
魔法少女はショッピングモールから少し離れたうどん店で遅い昼食をとる。
彼女のテーブルにはかき揚げうどんとコーヒーが置かれているのに加え、バイザーを外していた。
さすがに食事をする際は外さなければ食べられないようだ。バイザーの種類によっては、バイザー部分が変形するようなタイプもあるかもしれないが。
「まずはアルビオン事件を知っている人物をリストアップする方が先か――」
うどんを食べながら魔法少女は考えるが、この光景を他のお客は直視しようとしない。
指をさす子供の姿もなく、周囲のお客も黙々と食事をしているようだ。
仕事の休憩中というサラリーマンが多いのかもしれないが、逆に騒ぐのも逆効果と考えている可能性が高い。
「閃いた。このギミックは、あのアルビオンへ実装しよう」
うどんを食べ終わった後、何かを思いついたらしくタブレット端末に何かを入力し始める。
その入力方法はキーボードなのだが、ARで表示された省スペース型。その為かキーボードを叩く音が周囲に聞こえる事はない。
入力音の抑えたタイプのキーボード自体は存在するが、キーボード自体が拡張現実の原理で再現された物は非常に少ないだろう。
「これで、送信……完了っと」
魔法少女がデータの送信を終えると、彼女は食べ終わった食器を食器置き場へと持って行く。どうやら、セルフ式の店舗らしい。
「後は、このデータをどうするか」
彼女が悩んでいたのは、別の勢力に奪われそうになっていたデータである。
このデータが奪われれば、アルビオンパンツアーが超有名アイドルに完全掌握されてしまうだけに、管理を厳重にしないといけない。
「これを解読できる人間がいれば、それは神にも等しい。それがアカシックレコードと言う物」
結局、データに関しては自分が所持し続ける事になった。自分が持っていれば暫定的な安全は保証される。
それ以外の人間が持っていても、解読が出来なければ文字の羅列にしか見えないだろう。
「まずは、完成したアルビオンパンツアーの新データが反映されてからか。動きだすとすれば、それからでもいい」
そして、彼女は店外へと出る。外へ出る辺りにはバイザーを装着しており、素顔を確認できなくなっている。
【アカシックレコードの存在について―武蔵あずさ】
タブレット端末で別所に送られた添付データには、そう書かれていた。
魔法少女がうどんを食べていたのと同じ頃、ブレイブスナイパーはゲームセンターに姿を見せていた。
このゲーセンは一般的な店舗とは違い、サバイバルゲームでも行うかのような広いスペースが確保されている。
広いスペースを使うのはスポーツ系の競技位と思われるのだが、ARゲームの場合はジャンルによってトラック競技並のスペースを必要とするのだ。
「さて、次に相手するのは誰だ?」
ブレイブスナイパーの右腕には例のライフルが握られている。
そして、周囲には倒れている人物。どうやら、彼らはゲームに敗北したプレイヤーのようだ。
「桁が違いすぎる。これがFPSチャンピオンの力か」
「信じられない――」
「リアルチートじゃないのか……」
周囲の観客も驚くほど、彼女の実力はケタ違いと言う枠では収まらない。
それこそ、表現のしようがない能力を発揮したのである。
ネット上ではリアルチートとも言われているが、そのランクで収まれば――と言う話。
ブレイブスナイパーの能力を表現するには、単純に1個の単語だけでは不可能というのが現実だった。
「ブレイブスナイパーに勝てるようなプレイヤーはいないだろう」
「上位ランカーならば何とかなるが、ホームグラウンドは違う場所だろう?」
「関西圏プレイヤーならばワンチャンスあるかもしれないが、ARゲームでも通信対戦方式ではないから無理か」
「ネットワーク対戦を実装しているゲームもあるが、回線速度を考えるとFPS等では厳しい物があるだろう。対戦格闘でもラグが出る位だからな」
もはや、彼女に勝てる人物はいないのか。そんな中で姿を見せたのは、周囲も驚くような人物だったのだ。
『この俺と戦わないか?』
ARゲーム用のメット型モニターを被っており、その素顔を知る事は出来ない。
一方でインナージャケットに青いクリスタルを削ったかのようなアーマーを見て、ブレイブスナイパーは何かを感じ取る。
「そのアーマー、素人ではないのは分かる。一体、何者だ?」
ブレイブスナイパーが彼に突きつけたのはライトセーバーなのだが、それに動じるような彼ではない。
『何者? このゲーセンだとあのゲームは置かれていないから、知名度が低くても――』
彼は全てを語り終えるよりも早く、何処かのボタンを押してメット型モニターを収納する。
そして、そこから明らかになった素顔を見てブレイブスナイパーは驚いた。
「なるほど。噂に聞く夕立とはお前の事か」
ブレイブスナイパーが口にした夕立、それは彼の本名ではなく別のTPSゲームで名乗っているコードネームである。
「もしかしてと思ったが、お前が噂のブレイブスナイパー。ホワイトブレイカーのアルビオンランカー……」
アルビオンランカーと言う単語を聞いたブレイブスナイパーの表情が変わる。
ここでは言うべきではなかったのか、それとも周囲に気を使って言わなかったのか。
「ホワイトブレイカーを知っているという事は、あなたもアルビオンランカーね」
「俺の場合はランカーという位置にいる訳ではないが」
「音楽ゲームや格闘ゲームにおけるランカーと言葉の意味は若干違う。アルビオンパンツアーでは上位勢をランカーと呼ぶ訳ではなく、プレイヤーをアルビオンランカーと呼ぶ」
「そこまで詳しくゲームをプレイしている訳ではない。まだ1勝も出来ていない状況だからな」
2人の会話は続く。そして、数分後にはブレイブスナイパーが突きつけたライトセイバーを下ろす。
下手に相手を煽る必要性もない、そう判断したのかもしれない。周囲のギャラリーに気を使ったとも言えるが。
「さあ、バトルを始めようか」
夕立は何もないような場所から小型のハンドガトリングを呼び出し、両腕に装着する。
ガトリングの出現演出は、ARゲームでも多用されているソレであり、ベースガジェットを持っている状態からCGで構成されたような――と思わせる物だ。
15分が経過しただろうか。周囲もこの展開には驚いていた。
ブレイブスナイパーと夕立のバトルは互角だった。正確にはお互いに3勝3敗の五分である。
ブレイブスナイパーが2連勝したと思ったら、夕立が2連勝、その後は1勝ずつで譲らない。
バトルに関しては処理落ち等は感じられないのだが、2人とも細かい挙動を気にしているようでもあったと言う。
「互角の勝負とは思わなかった」
「総合成績だとブレイブスナイパーの方が勝率9割に近いというのに……」
「そう言えば夕立と言うプレイヤーは、過去に賞金制シューティングゲームでは有名プレイヤーだったという話がある。その当時は7割の勝率があったらしい」
「その時の経験を生かしてFPSを始めた、と。それじゃあ、あの勝率は何だ? プロ野球の打者か?」
ある1人のギャラリーが、センターモニターに表示された夕立の勝率を指差す。
数字的にはブレイブスナイパーよりも場数を踏んでいる事は分かるのだが……最初はギャラリー全員が数字のバグを疑う物だった。
「世の中には勝率1割でもジャイアントキリングで有名になったプレイヤーもいる。勝率3割強位で騒いでいては、アルビオンランカーは務まらない」
「これはアルビオンパンツアーではない。あくまでも、普通のサバゲFPSだ。あの桁違いのロボットバトルと同じにされては困る」
ギャラリーも白熱としてきた頃、別のフィールドでは違うプレイヤーによるバトルが始まっていた。
そちらの方は上級プレイヤーが初心者と思われるプレイヤーのバトルに乱入した形であり、いわゆる初心者狩りの典型的なパターンである。
ブレイブスナイパーと夕立のバトルが行われているフィールドから5メートル離れた場所、そこでは困惑している男性プレイヤーの姿があった。
どうやら、彼は乱入してきたプレイヤーに対して文句があるらしい。
「初心者狩りに関してはマナー違反のはず。それでもFPSプレイヤーですか?」
「それは関係ない! このゲームでは初心者狩りは特に禁止されていない。向こうのフィールドが使用中だから、こっちにきたまでだ」
上級者の男性プレイヤーが親指で指示している方向、そこではブレイブスナイパーと夕立のバトルが続いていたのだ。
「そうですか……ならば、仕方がありませんね」
彼は少しため息を漏らした後、ハンドガンを構える。
彼の方はやる気ではなかったのだが、事情が事情の為か仕方なく構えたという風に感じられる。
銃の構え方を見ると、彼が若干のアマチュアなのでは――と言う個所を相手は見逃さなかった。
「こっちを馬鹿にしているのか?」
相手の方は逆上、即座にサブマシンガンを乱射する。
しかし、彼の方は弾道を見切っている訳ではない。次の瞬間には映像が消えたのだ。
「何だと!? ダミー映像だったというのか?」
相手が周囲を見回しても、彼の姿は全くない。逃げたという訳ではなく、センターモニターの方でも対戦相手が存在している事は確認出来る。
対戦相手が消えるという現象は、ARゲームでは滅多にない。仮にあったとしたら、それはネットワーク対戦のラグで画像が消えたように見える現象だ。
「透明人間か?」
「ステルス迷彩の可能性も否定できない」
周囲が動揺している中、相手より5メートル位の距離を離れた場所に彼の存在が確認できた。
しかも、彼は数本の若干大きめのビームダガーを構えている。
「典型的なワンパターンだ。攻略本やウィキであっさりと攻略できる程、アルビオンランカーは甘くない!」
次の瞬間、彼は持っていた全てのビームダガーを相手に向かって投げつける。
相手の方はショットガンに持ち替えて即座にナイフを迎撃し始めた。しかし、ショットガンの弾丸を装填するのに数秒のラグが発生する。
「このナイフ、何かが――」
気付いた時には手遅れだったのかもしれない。
3本ほどは迎撃と言うよりは弾き落とせたのだが、残ったナイフから放たれたビームによってショットガンが弾き飛ばされた地点で勝負は決まっていた。
《ウィナー:時雨》
センターモニターに表示されたのは、時雨の文字。つまり、乱入された方のプレイヤーである。
しかも、彼は相手よりもプレイ回数が非常に少ない。向こうが4桁に対し、時雨は2ケタにも及ばない。
そんな相手に負けたとあっては、逆に返り討ちにあったと言っても過言ではないだろう。
「言ったはずだよ。アルビオンランカーは甘くない……と」
そう言い残し、時雨はCPU戦に移行する。
相手の方は悔しがりながらフィールドを後にした。
【アルビオンランカーが、どうして別のFPSに?】
【あれが、アルビオンランカーの実力か】
【上級者プレイヤーと言っても、彼は全国大会予選落ち程度。超上級者が相手ならば、勝てるかもしれない】
【アルビオンランカーはアルビオンパンツアーのみで実力を発揮する……と言うのは都市伝説か?】
【あるいは、アルビオンパンツアーの操作方法に秘密があるのかもしれない】
ネット上でも今回の動画はハイスピードでアップされ、その感想は瞬く間に広がって行く。
###
同日午後2時、草加市内のゲームセンター。そこに足を踏み入れていたのはジャンヌ・ダルクである。
何故、彼女がこのゲームセンターに向かったのかには、理由があった。
「ここに、あの機体があると言うのか」
あの機体とはアナザーオブアルビオン、彼女が先ほど目撃したアルビオンパンツアーである。
「アラート? こんな時に――」
ゲームセンターに入り、音楽ゲームの筺体がある辺りでスマートフォンのアラート機能が動作する。音が鳴るような物ではなく、アイコンでお知らせをするタイプだ。
《新たな動画がアップされました》
お知らせの内容は動画がアップされた事である。
アルビオンパンツアーは運営が公式に配信をしているのだが、さまざまな業界が連携を取った結果、一部の例外を除いたゲームの動画が自由に閲覧及び実況ができるというシステムが確立されていた。
今までは格闘ゲームを含めた対戦要素の高い作品、攻略本では伝わりにくい箇所の解説として使う分だけが解放されていたのだが……。
「動画? このタイミングでアラートが反応したのは、どういう事だろう」
ジャンヌのアラートは、アルビオンパンツアーを含めたキーワードに関係する動画のみ反応する特殊な物。
それが反応したという事は、キーワードに関係した動画と言う事で間違いない。
そして、休憩できるテーブル発見し、そこで動画をチェックする事にした。
「これは、まさか?」
ジャンヌが視聴した動画、それは時雨が上級者プレイヤーを返り討ちにした物で、現在のタイムラインで話題になっていた動画だった。
動画を視聴して5分が経過した辺りでジャンヌはフードコートで淹れたてのコーヒーを注文、それを飲みながら他の動画やタイムラインを確認している。
仮にアルビオンランカーが他に存在していたとしたら一大事だと考えたのだろう。
しかし、わずか数日と言う期間で上級ランカーが増えるとも到底思えない。
「アルビオンランカーは確認できただけで100人はいないはず。それが、ここまで増えているなんて」
ジャンヌが言及している100人弱という数字は2012年当時の話であり、今はアルビオンランカーとして運営に登録済みのプレイヤーだけで100万人は存在すると言われていた。
ただし、これはあくまでもプレイヤー全体の話を指している。上級プレイヤーや本当の意味でのランカーの場合は話が変わってくるだろう。
「1000ランカーポイントを獲得しているプレイヤーが増えている証拠なのか、それとも――」
少し焦りつつもジャンヌはアルビオンランカーの運営ホームページを確認しようとしたのだが、そこには驚愕の数字が目に入る。
「10000ランカーポイント到達……だと?」
ジャンヌは8000ランカーポイントに到達しており、自分が頂点だと思い込んでいた。
しかし、現実は違っていた。10000という領域に到達したプレイヤーが存在しているという事実は、彼女にとってはショックだった。
稼ごうと思えば数時間で2000ポイントは造作もないが、ポイント数的な部分もあって運営の集計ミスの路線も疑った。
仮に外部ツールを使用したスコア水増しの場合、10万や100万規模の水増しをするのが普通だろう。
ツールを使用しているプレイヤーの大半は、ランキング1位になって目立つ事。それを踏まえると、10000ポイントはツールで稼ぐようなスコアとしては小さい物だった。
「これが、5年前と決定的に違う出来事だと言うのか」
しばらくして、ジャンヌはアルビオンパンツアーの筺体が置かれているエリアへと向かう。