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アルビオンパンツアー  作者: 桜崎あかり
エピソード2

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10/12

第9話:真の敵


 7月22日午後4時15分、2体のアルビオンが秋葉原駅近辺で戦闘をしていた頃、電車は止まることなく通常運行をしていた。


 その理由として、アルビオンのビームなどが駅に損害を及ぼす影響がない為としている。


「アルビオンパンツアーか。海外で人気があるかどうかは不明だが、大変な事になっているらしい」


「あれを見れば普通に分かる。何故、このような状態になったのだろうな」


「超有名アイドルのゴリ押しによる反動が、このタイミングで来たとしか……」


「与党の支持率も10%以下に下がっていると聞く。超有名アイドルへの優遇税制等といった裏工作的な法案が明らかになったのも大きい」


 電車待ちをしていた中でアルビオンパンツアーを見た一般人は、あまり興味がないような表情をしている。


 これが超有名アイドルに依存しない経済の鍵となるのであれば、話は変わってくる可能性が高い。


 その一方で、秋葉原駅近くで行われるはずだったCD発売記念イベント等は中止の連続となっている。


 これには超有名アイドルに対する風当たりの悪化もあるのだが、それ以上にアルビオンパンツアー側を刺激させたくないという店側の配慮もあった。


【何故中止にした!】


【危険性はないのだから、中止にするのはおかしい】


【アルビオンパンツアーの運営から圧力があったのか?】


 店のサイトには掲示板があるのだが、大半が「イベントの中止撤回」や「アルビオンパンツアー運営からの圧力があったのか」と言うコメントで埋まっている。


【今回のイベント中止は安全を考慮しての物である】


 公式には中止の理由を安全面の確保が難しいと告知しているのだが、それでも中止の理由を運営の圧力としたい勢力がいるようだ。


 他のイベントでも同じように安全面で中止にしているのだが、こちらも安全面が本当の理由ではないと言う説をゴリ押しする勢力がいる。


 過去に起きた事件や災害の影響で上映を延期にした映画は数多く存在し、その度に炎上商法と言われたケースもあるにはあるのだが……今回の件とは別と考えるユーザーが多い事が分かる対応だ。


【安全面以外に中止の理由があるとすれば、アレか――】


【少し前に超有名アイドルグループのCDを割ったという動画の事か】


【アレの影響でイメージダウンが避けられないという事で中止を決めたらしい。アルビオンパンツアーは二の次だな】


【そうなると、運営の圧力は嘘、実際は強行して事故が起きたら超有名アイドルのブランドイメージに傷が付くから―と言う事か】


【自分達のブランドイメージを守る為にアルビオンパンツアーの名前を騙るとは】


【やっぱり、超有名アイドルは儲け優先の投資ビジネスだったという事か】


【こうなってくると、アニメやゲームの架空アイドルの方がリアルよりも人気が出る……と言う事になるのは時間の問題かもしれない】


【投資家ファンやブラックファンが存在するリアルアイドルの時代は終わりを告げている、と言う事かもしれない】


【炎上まとめサイト等の規制法案も時間の問題だな】


 更に一方では、今回のイベント中止には超有名アイドルのブランドイメージを守る為という理由があるのではないかと言う説も浮上していた。


 この理由に関して「理由づけが弱い」と反論するファンもいた。


 しかし、「一部の投資家ファンが言う事を真に受けるな」と言う発言の影響もあって、ブランドイメージ説が今の時間帯では有力となっている。


【どの世界でも超有名アイドルは投資家のビジネス材料に利用されている。そして、株価が下がるとあっさりと切り捨てる】


【超有名アイドルだけがビジネス材料とは限らない。コンテンツビジネス自体が、色々な意味でも考え直さなければいけない分岐点に立たされているのだろう】


【超有名アイドルのやり方だけがピックアップされた結果、日本のコンテンツビジネスはブラックであるという風潮が海外に植え付けられようとしている】


【それを阻止しなければ、今回の事件もアルビオン事件と同様に歴史の闇に消えてしまうだろう】


【アルビオン事件の真相、それは超有名アイドルの暴走が生み出したコンテンツビジネスを守る為の戦いだったのか】


 そして、つぶやきサイトのタイムライン上にはアルビオン事件の真相と思われる発言が浮上、これが多数のユーザーによって拡散された事で、形勢逆転とも言える展開が生み出されるとは、この地点では誰も知らなかった。



 午後4時17分、2体のアルビオンは互角と言う状態だった。


 武器の方は銃火器類が弾切れとなり、お互いにビームサーベルとビームブレードでチャンバラを繰り広げている。


「アカシックレコードは予言書ではない! そこからのメッセージを読み取り、技術を応用して超有名アイドルに対抗する為の手段。別の世界で生み出された特許の様なものよ!」


 龍鳳沙耶りゅうほう・さやがウェポンコンテナを呼び出し、そこから取り出したのはパワードアームと斬艦刀という超大型のビームエッジ、スピードがダウンするのは百も承知で背中にパワードバックパックを装着し、斬艦刀を握る。


「超有名アイドルに対抗するだと? 地球でもリアルチートと呼ばれる部類の超有名アイドルに対抗できる手段は、この世には存在しない!」


 斬艦刀を握る前に突撃してきたのはサタン・ブレイド、彼は懐に飛び込んでしまえば刀を振り回すのは不可能と考えて突撃したのだが――。


 サタンは目の前の光景を信じたくはなかった。彼の乗っていたアルビオンパンツアーの右腕が切り落とされて消滅、それも斬艦刀の一文字斬りだけで―。


「そんな、馬鹿な事があるというのか!!」


 サタンは激怒し、残った左腕のビームサーベルでアナザーオブアルビオンの斬艦刀を弾き飛ばそうとする。


 しかし、次の瞬間には左腕もパワードアームで握りつぶされ、こちらも消滅していた。


 サタンは激怒した事で周囲の確認を怠り、その結果として……。


「超有名アイドルは日本経済を救った英雄だぞ! その英雄に刃を向けると言うのか――!」


 その後、サタンは何を言おうとしていたのかは龍鳳には分からない。ただ、分かった事が一つだけある。


「いつから、超有名アイドルは日本で一番売れているアイドルから、日本経済を救ったアイドルと言われるようになったのか」


 龍鳳は少し息を切らしながらも、周囲を見回してサタンの気配がないかどうかを確認する。


「日本政府に踊らされ、与党と手を組んだ結果が、この惨劇を生んだ。超有名アイドルも、所詮は神ではなかった――」


 周囲の確認が終わった龍鳳は、機体のモードをホバーボードへと変更し、ある場所へと向かった。


 その場所とは、駅の近くにある超有名アイドルの劇場。



 午後4時18分、何とか脱出には成功したサタンは秋葉原駅から少し離れたビル街へと逃げ込む。


 そこにはある勢力の使者が待っているという話を駅に向かう前に聞いたからだ。


「ここまで逃げれば――」


 サタンの方は息切れが若干激しい。しかし、フルマラソンを走り終えた位の息切れではなく、若干軽い方である。


「サタン・ブレイド、ようやく見つけた」


 ビル街に現れた人物、それは時雨藍伊しぐれ・あおいのコスチュームと酷似している。違う部分は、ARゲーム用バイザーで顔を隠している部分だ。


 これは一体、どういう事なのか? サタンの方は披露的な意味でも状況判断能力が鈍っていた。


「まさか、時雨藍伊だと言うのか?」


 サタンは驚きのあまり、ARウェポンのブレードを時雨と思われる人物に突きつける。しかし、向こうは動じる事は全くない。


「今頃、時雨は田端の方へ向かっているはず。つまり、超有名アイドルファンの完全敗北と言う事だ」


 バイザーを解除すると、そこから見せた素顔は時雨とは全く違っていた。


 そして、サタンは思わず彼の顔を見て武者ぶるいを感じた。震えのあまり、言葉を失うほどには。


「吉川ハヤト――夕立だと?」


「その通り。忍者型のアルビオンには気付いていただろう? その地点で何かあると考えるべきだった」


 夕立ゆうだちがスマートフォンに映った画像をサタンに見せる。


 そこには、既に警察へ身柄を拘束されていた本来遭遇するはずだった使者の姿が映っていた。


「全てお見通しだったのか? 何時から気付いていた!」


 サタンはブレードを振り回し、夕立のスマートフォンを斬り落そうと考えた。彼の斬撃はスマートフォンを捉えていた。


「スマートフォンに――傷が付いていない!?」


 しかし、スマートフォンには傷一つつかない。この状況にサタンは絶望するのだが、これが自滅だった事は夕立にしか分からなかった。


「ARウェポンの基本設定を忘れているな。ARウェポンで斬り落とせるのはARウェポン、あるいはARで生み出されたクリーチャー等に限定される。まさか、虚構と現実の区別もつかなくなったのか?」


 夕立はARウェポンのトンファーでサタンの顔面に向かって一撃を浴びせようとする。


 ただし、攻撃は顔面に接触する寸前で止めた。仮に命中したとしてもビームで展開された部分は顔面をすり抜けるだろう。


「何処から気付いていたと言うと、時雨と戦ったのが影武者であると分かってからだ。その後にある人物からメールを受け取り、真の敵がいる事も分かった。それがお前ではない事は分かっているが――」


 サタンには夕立の言っている事が途中から理解できなかった。


 影武者という地点で分からないというのが正解と言う可能性もある。


「影武者ってどういう事だ? アルビオンパンツアーがサブカード登録禁止なのはお前も知っているだろう」


 サタンが思わず夕立の話に割り込む。


 そして、しばらくして夕立はスマートフォンを操作して、あるサイトを表示――そのサイトをサタンに見せる。


「こういう事だ。名前の被りに関しては相当なケースをのぞいては制限される事はない。それを逆手に利用した結果、無数のサタン・ブレイドがエントリーされていた。別タイプで登録すれば同一プレイヤーとは判定されない事も、こうした状況を生み出した理由だろう」


 その後、サタンはハンターに引き渡された。引き渡し後に夕立は武蔵むさしあずさに連絡を入れる。


『他でも目撃例があったダミープレイヤーとは連絡が取れたみたい。事実を知らないで名前だけ同じにしていたプレイヤーもいたらしいから、確信犯の影武者以外は不問にしたみたいね』


「これで超有名アイドル勢力は一掃できた……と考えるのは早すぎるか」


 他にも夕立は今後の流れをあずさと相談し、電話は2分ほど続いた。



 午後4時25分、色々とあって田端への到着が遅れた時雨だが、まだ時間的には間に合うと考えていた。


「先客? 一体、どういう事だ」


 時雨の目の前に現れたのは、何とアルビオンパンツアーだった。


 しかも、こちらは運営によって正式に認められた物ではなく、違法改造されたバージョンである。


 これだけの数を揃えられる勢力は、指折り数える程度である。つまり――黒幕だ。


「時雨藍伊、お前をここから先へ通す訳にはいかない!」


「我々アイドルグループとしても、彼らの存在は必要不可欠」


 アルビオンパンツアーに乗っているのは新人のアイドルらしい。


 彼女達としては応援してくれているファンを助けなければいけない――という心情のようだ。


 おそらく、超有名アイドルの真相は知らない物と思われる。


「時間がない以上、超特急で決めさせてもらう!」


 そして、時雨は時間ギリギリになろうとも目的の場所へ到達しようと考えているようだ。


 呼び出したパンジャンドラムもロボット形態ではなく、トライク形態で目的地へと向かう事を最優先にする。


「逃げるのか?」


「アルビオンランカーが逃げる――卑怯よ!」


 何を言われても動じない時雨だが、さすがに卑怯と言う言葉にはカチンと来たようだ。


 そして、時雨はパンジャンドラムをいったん止めて、ARウェポンを展開する。


 そのARウェポンは武器と言う形状ではなく、もはや小型ロボットと言っても過言ではない。


「お前達の相手は、このハイペリオンだ!」


 全長30センチにも満たないロボット、それが自分達の相手と知ってアイドル側も我慢ならないと増援を呼び出す。


 形状はARガジェット等にも通じる物があるが、武装を含めて違う個所も存在している。


「こちらとしても、お前達に時間を割く訳にはいかない!」


 相手のARガジェットは20近く。それを全てハイペリオンに任せ、時雨は目的地へと向かう事にした。


 時雨の去った後、アイドル側はハイペリオンに攻撃を仕掛けようとするが、サイズ差もあって攻撃を当てられない状態が続く。


 攻撃が命中したと思っても、アルビオンパンツアーとARウェポンでは規格が違う為に武器はハイペリオンをすり抜けてしまう。


「これこそ卑怯よ!」


「アルビオンパンツアーに対して、ARウェポンで対抗するなんて――?」


 しばらくして機体の方に異常な反応が起こった。


 どうやら、違法パーツを使った事でアルビオンパンツアーが強制停止をしたらしい。


 その原因は分からないが、ハイペリオンと接触した事が直接の理由という可能性だけは分かった。


「これ、どういう事なの?」


「ファンからもらったものなのに――」


「これって、どうなっているの?」


 強制停止した機体を再起動する手段をアイドル達は知らない。


 おそらくは、マニュアルの類も渡さずに操縦させて捨て駒にしようという考えもあったと思われる。



 午後4時30分、気が付いてみると全ての異星人を秋葉原駅から一掃し、ここに異星人と超有名アイドル勢力の連合軍は敗北した。


 ただし、フジョシ勢やBL勢を含めた戦力は姿を消したため、小競り合いは展開されると思われる。


【我々の作戦も見破られたらしい。向こうにも頭のきれる人物がいたという事か】


【我々の刺客も逮捕され、そこから情報が警察に渡る可能性も出てきた。これでは組織は終焉を迎えるだろう】


【しかし、他の超有名アイドル勢力が暴走を始めたのが気になる。他作品の評判を下げる為に、安易な転売やネット炎上を考える勢力が出始めたらしい】


【所詮、彼らはブラックファンにすぎない。我々が求めるような崇高な考えに同調出来るような人物は最初からいなかったのだ】


【ブラックファンか。言い得て妙だな――】


【○○厨という表現よりは、悪の存在と言う事がアピールできるだろう。これから行うのは、超有名アイドルによるアイドルファンの選別だ】


【ファンの選別とは、穏やかではありませんね】


【!?】


【これは、チャットメンバーの一部が乗っ取られたとでもいうのか?】


【海外の凄腕ハッカーやクラッカーでも沈黙できなかった、このチャットを乗っ取ったとでもいうのか?】


【貴様、一体何者だ!?】


 組織の会議でも作戦の失敗などは報告されたが、それ以上に衝撃だったのは部外者のログインだった。


 このチャットは事前にログイン認証されている人物しか扱えず、部外者対策もパスワードなどで万全と言う物。


【まずは、チャットの乗っ取り関して説明しましょう。最初から乗っ取りではなく、潜り込んでいたのです――】


 そのメッセージを打ち込んだ後、時雨は田端にあるソーラー発電の会社に突入する。


 そして、そこにいた社員に事情を聞きだそうとしたのだが、その間に割り込んだのは自警団だった。


「我々は秋葉原から派遣されたアキバガーディアン、ここは私達に任せていただきたい」


 その後、アキバガーディアンの指示を聞く形で時雨は会社から出て行き、それと入れ替わりでアキバガーディアンが突入を開始する。


 重装甲のパワードアーマーで身を包んだ彼らは、時雨から見れば同業他社にも見えた。



 午後4時31分、時雨の手元にハイペリオンが戻ってきた。


 どうやら、ARウェポンでも特殊な部類と言うメカのようだ。彼の手元に戻ったのと同時にハイペリオンは特殊なビームライフルに変形し、ベルトに装着される。


「どうやら、あのアルビオンパンツアーの出回ったルートを探す必要性があるか」


 組織の方はアキバガーディアンに一任し、時雨は田端から自宅のある北千住へと戻る事にした。



 午後4時32分、秋葉原駅から若干離れた所にある超有名アイドルの劇場。


 そこへ足を踏み入れようとした龍鳳だったが、目の前に姿を見せたのは超有名アイドルの芸能事務所社長であり、この劇場の支配人だった。


「龍鳳沙耶、アルビオン事件の亡霊――お前が現れなければ!」


 背広姿の支配人が姿を見せたと思った次の瞬間、そこに現れたのはアルビオンパンツアーとはシステムが似ている巨大ロボットだった。


 そのサイズは10メートルに近い。丁度、アナザーオブアルビオンの2倍の全長を誇る。


「一体、何がどうなっているの?」


 支配人の言っている事には矛盾が存在する。アルビオン事件当時、龍鳳はアルビオンパンツアーを未プレイだった。


 その当時に存在したのは違うタイトルのゲームかもしれないが……。


「超有名アイドルコンテンツを崩壊させようという存在は、すべて消去する――」


 言葉使いもだんだんカタゴトになって行く。さすがの龍鳳も、これには何かおかしいと思い始めていた。


 もしかすると、マインドコントロールの可能性があるかもしれない。


「どうやら、これが最後の戦いと言う事になるかも――!」


 アナザーオブアルビオンもロボット形態へと変形し、巨大ロボットに対抗しようとする。


 しかし、機体のダメージは深刻な物であり、武器の弾薬等が補給されたとしても厳しい物がある。


「こういう所は別のゲームシステムを採用しているのね。ARウェポンであれば、別の装備に切り替えれば全回復まで待てるけど、これはさすがに無理か」


 機体ダメージの回復、それは使用している機体によっても違うが、アナザーオブアルビオンは損傷度合いによって回復のスピードは異なる。


 今回の場合は深刻なダメージと言う事もあって、すぐには回復出来ない物だった。


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