自由の厳しさ
短編の予定でしたが色々と思いついたので初の連載にしてみました。
よかったらお気軽にお立ち寄り下さいませ。
お立ち寄りついでに読んで頂けたら幸いです☆
ケルータ山の麓に、のどかな牧場があった。
広大な敷地を持つ、この牧場の主はジェラルド一家である。
彼等は、昔からこの地方では悪評高い一族だ。
殺しに盗み、脅迫等を繰り返し行い、ようやく自分達の土地を手に入れたジェラルド家。
この土地に根を下ろし20年の月日が流れていた。
当主を早くに亡くした、この家では妻であったエリスが代わりを務めている。
子供4人の母親であり経営者である、エリスの評判は、すこぶる悪かった。
そんな牧場にハンナという一人の少女が使用人として住んでいた。
彼女が、この牧場に売られてきたのは、5年前。ハンナが7歳の時だ。
ハンナの待遇は、とても酷く、奴隷のような扱いであった。
家事全般は勿論のこと、牧場の仕事も日が昇る前から始まり、日が完全に沈むまで休みなく働いていた。
食事は夜に少しのパンとミルクのみ。
そしてハンナは寝床である物置小屋程度の粗末な部屋に戻され、外から鍵を掛けられるような監禁状態だった。
唯一置いてあるのは花の差していない欠けた花瓶。
そして、風の吹き抜けの良い天窓。
雨の日は壊れた屋根から雨が落ちて大変だが、ハンナは、そんな部屋でも気にいっていた。
晴れた日には穴の空いた天井から綺麗な星も見えた。
「綺麗……」
何故か星を見て綺麗だと思うと、妙に切なくなり涙がこぼれた。
発端はハンナの父親がジェラルド家に借金をし返せなくなりハンナを売った。
たがそれもジェラルド家の一方的な因縁であった事をハンナは知らない。
ジェラルド家に買われたあと、両親がジェラルド家の長男のキースに殺されてしまったこともハンナは何も知らなかった。
毎日、お腹を空かせ、寒さに震えながらもハンナは一生懸命に生きていた。
そんなある日。珍しくジェラルド一家は総出で町へ買い物に出掛けた。
家に残っているのは長年、この家に仕える中年夫婦の二人だけだ。
このロバート夫婦には心を許してはいけない事をハンナは幼い頃学んでいる。
それは、まだハンナが、この家に来て間もない頃だった。
「やあ、君がハンナかい。可愛い子だな」
「本当に。金色の髪に青く綺麗な大きな目。羨ましいわ。おばさんにわけて欲しいわ。ハハハ」
「お前には似合わないだろハハハ」
とても優しそうな夫婦だというのがハンナが感じた第一印象だった。
「ところでお腹空いてないかい。これお食べ」
そういってロバートの奥さんは四角い美味しそうなクッキーをくれた。
「ありがとう」
ハンナは嬉しくて、すぐにクッキーを一枚食べた。
その夜、エリスが鬼のような形相でハンナに詰め寄ってきた。
「あんたかい!クッキー食べたの」
「……はい」
バシ!
すぐにエリスの容赦ない平手打ちがハンナを襲った。
「ごめんなさい」
「ふん!二度と勝手な真似すんじゃないよ。全くあんなに沢山クッキー買っておいたのに一つ残らず食べてしまうなんて!なんてガキだろうね。おいロバート、こいつはちゃんとしつけるんだよ。」
「はい。奥様」
薄い笑みを浮かべている、この夫婦を見た時、ハンナは「この夫婦は信用できない」と、幼いながらに思った。
その夫婦に監視されながらハンナは働いている。
しかし暫くすると夫婦はハンナから離れ、家の中に入っていった。
ロバート夫婦はハンナの事をよく分かっていた。
ハンナにはここから逃げ出す術がないことを。
ハンナにはここから逃げ出す気など微塵もないことを。
そのどちらも正解だった。
ハンナにとって、この世界はここしかないのだと自分自身さえもそう感じていたのだ。
ロバート夫婦の監視から外れると、少し気が抜けた。
少し離れた所でガサガサと草を揺らすような音がした。
「なんだろう?」と、ハンナが草むらに近付くと、突然何かが飛び出した。
それは少し飛んで、また地面に落下した。
「鳥だわ」
それは何の鳥かは分からないが、美しい緑がかった色をした小鳥だった。
その小鳥は怪我をおっているのか上手く飛べずに何度も地面に叩きつけられた。
やがて小鳥は羽ばたくことを止め動かなくなった。
ハンナは近寄り様子をみた。
まだ息はあるようだったが、時が経てば死んでしまうだろう。
ふと空を見た。
ハンナにとって、これまで鳥は空を自由に舞い、力強く羽ばたいている、強さと自由の象徴であった。
鳥を羨ましく思っていた。
だが鳥だって、お気楽に空を飛んでいるだけではない。
生きる為に必死なのだと、思い知らされた、気がした。
ほんの僅かだが、ハンナの心に小石を投げられた水のような波紋が広がっていく――そんな気がした。
お読み頂きありがとうございました。
よければまた続きも宜しくお願いします(^-^)