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一撃のリストバンド

作者: マリオ

学校の国語のショートショートで提出した作品です。


 彼方にそびえる純白の入道雲は、真っ青な空と強烈なコントラストを放っている。梅雨が明け、セミも鳴き出した七月の中旬の午後。とある中学校のグラウンドは、サッカーの総体に熱くなる中学生の応援の声で溢れていた。

 残り時間は10秒を切った。スコアは2対2の同点。僕は先輩のキャプテンから絶妙で最良なパスを受け取った。位置はゴール直前。周りに敵チームのディフェンスは一人もいない。僕はゴールキーパーと相対し、シュートの態勢に入る。グラウンドは一気に緊張の空気に支配され、僕は流れのままに足元のサッカーボールを蹴り飛ばした――――

 

 今日ははあいにくの雨だ。僕は部屋のベッドに寝っ転がって、雨音と扇風機と時計の針の音だけを聞いていた。強くも弱くもないしとしとと降る中途半端な雨は、僕のいつまでたっても割り切れない弱くて中途半端な心情を写しているかのようだった。あれから一年も経つっていうのに、ましてや来週僕の世代の最後の総体だっていうのに、僕は試合で一度もシュートを決めることができていない。シュートを撃つ時に、不安と大きなプレッシャーを感じてしまい、僕の右足はまともにボールを捉えることすら出来なくなっているのだった。


 「はぁ………」とため息をつくと、ほぼ同じタイミングで僕の部屋にコンコンと軽快な音が鳴った。おそらく母親だろうなと予想をしながら、返事をすると、ゆっくりとドアが開いた。予想通りノックしたのは母親で、右手には何か箱のようなものを持っているのが見えた。

「お前、来週最後の総体だろ?」

「うん」「これ、わかる?」

 母親はおもむろに右手の白い箱から青いリストバンドを取り出した。

「お前の大好きな日本一のシューターがつけてたリストバンドだよ」

 リストバンドを受け取って、試しにつけてみると、使い込まれているようで、とてもゴワゴワとしていたが、不思議と腕に馴染むようだった。

「そのリストをつけてると必ずシュートが入るんだ、彼がそうだったようにね」

 母は少し笑いながら、ゆったりとした足取りで部屋から出ていった。

 

 彼方にそびえる純白の入道雲は、真っ青な空と強烈なコントラストを放っている。セミがやかましくわめき散らすこの季節は、つい去年の僕の心に強い後悔と自責の念を植えつけた。

 少し気後れするが、これが最後の大会だ。しまっていこう。

 僕は自分を奮い立たせ、右手を握り締めると、試合開始の音が鳴り響いた。

 残り時間は10秒を切った。スコアは2対2の同点。僕は同学年のキャプテンから絶妙で最良なパスを受け取った。位置はゴール直前。周りに敵チームのディフェンスは一人もいない。僕はゴールキーパーと相対し、シュートの態勢に入る。グラウンドは一気に緊張の空気に支配された。僕の右腕にはリストバンドがある。日本一のシューターがついてる!そう思うとなぜか自信が湧いて、僕はしっかりと体の軸を固めて足元のサッカーボールを蹴り飛ばした。ボールは凄まじい威力で一直線の軌道を描き、ゴール右上を穿つ。僕は興奮に身を震わせ、右腕を握り締めると、試合終了の音が鳴り響いた。


 大会は残念ながら二回戦負けだったが、自分の力を思う存分出せた最高の二試合だったと思う。帰路に着き、家のドアを開ける。そこにはいつもの風景が広がっていて、何一つ変わったものはない。そしていつも通り風呂に入り、あがると夕食が用意されている。そんないつも通りの日々に幸せを感じながら母にあのリストバンドの話をすると、母は笑いながらこういった。


「あれはふっつーのリストバンドだよ」


スポーツデポに売ってたらしい。

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