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リクエスト作品

死神対狼人間

作者: 風白狼

 草木のない荒野。赤茶色の岩肌が露出するその場所に、一組の男女が対峙していた。黒いコートを羽織った男性――エリックは大きな鎌を持ってにやりと笑う。

「準備はいいか、サンティ」

「もちろん。いつでもいいに」

 サンティと呼ばれた女性の方も、訛りのある口調で応じる。二人のを緊張が取り巻く。ざわりと風が砂埃を巻き上げた。



 ざっと黒が飛び出す。エリックは鎌を振り上げた。巨大な刃が勢いをつけて振るわれる。細い腕から鮮血が飛ぶ。痛みにサンティは顔をしかめた。左腕を一瞥しながらも右の拳を突き出す。エリックは鎌を盾にして受け止める。ガンッと鈍い音。勢いで足が土を滑る。踏ん張り、大鎌を横薙ぎに振るう。それをサンティはしゃがんで(かわ)した。同時に足に反撃の意思を込める。ぐっと伸び上がり、こぶしを突き上げた。その一撃はエリックの鼻先をかすめる。体勢が揺らいで後ろに崩れる。サンティはすかさず追撃の構えをとる。彼女から離れるように、エリックは体を反らした。左手を地につけ、足を振り上げて後方へ回す。着地し、一度大鎌を構え直した。サンティは拳を引いて地面を蹴る。

『爆ぜろ』

 短い詠唱。熱が収縮し、サンティの目の前で発散した。轟音と爆風が巻き起こる。熱波は大地をえぐり、吹き飛ばした。もうもうと土煙が舞い上がる。そのなかに映る影は、異形。晴れた視界に白い獣が立ち現れる。ピンと立った耳と白い毛に覆われた体。大きく裂けた口からは鋭い牙が覗いている。狼としての本性を現した姿を見て、エリックは楽しげに口の端を上げた。

「本気で来てくれるか」

 紫色の瞳は獲物を見つけた捕食者のように輝いている。ゆらりと鎌を握り直す。それに応えるように、狼姿のサンティは咆哮を上げる。

 黒い影が晴天を遮る。高く跳躍した彼は大鎌を振り下ろした。白い異形に刃が迫る。ギイッと耳障りな摩擦音。サンティは爪で振り下ろした一撃を受け止めていた。甲高い音を響かせ、力任せに振り払う。エリックの体が宙に吹き飛んだ。サンティも高く跳躍する。鋭い爪を突き出す。捉えるかに見えた一撃に、刃先が食い込む。毛皮の奥から赤が噴き出した。勢いの緩んだその体に、鎌の峰がたたきつけられる。うめき声を上げ、サンティは背中から落下した。地響きが轟き、荒野の土が舞い上がる。

 カツッとエリックは着地した。もくもくと立ち上る土霧の中、突進してくる影。鋭い金属音がこだまする。白い狼は怪我した様子もなく、鎌の柄に爪を突き立てていた。それを見て、エリックの顔がますます愉しげになる。

 両者は地を蹴った。爪と刃とが交錯する。白と黒とがぶつかる度に、金属の耳障りな悲鳴が上がる。一回、二回、また一回。得物が相手に突き刺さる。肉が切れる音がする。どちらのものとわからない、深紅が視界に彩りを添える。刃が風を切った。顔をかすめて白い毛が数本飛ぶ。爪と牙とが同時に迫る。突撃はしかし甲高い音と共に受け流される。狼は目標を失ってよろけた。容赦の無い刃が背後から振り下ろされる。一際大きな傷が毛深い背中に刻まれた。そこから噴き出した血が白も黒も染める。悲鳴が荒野に響き渡った。返り血で濡れた刃が再び振り下ろされる。白い足が回し蹴りを放つ。エリックの体が後ろに飛ぶ。踏みしめた足が地面を削った。両者は体勢を立て直す。狼は一声吠えた。威圧するかのごとく大気がびりびりと震える。ぐっと足に力が入る。

 だが蹴ろうとした刹那、地面が陥没した。力を入れ損ない、足が取られる。

『天よ轟け地よ響け 超常願う我は人 汝我が声聞きて降臨せん――』

 鎌を立ててエリックは唱える。独特な空気の振動は次第に彼の周囲を歪めていく。

『我が魔を糧に光を持て 仇なす彼の者に煌々たる輝きを放て!』

 詠唱に応えるかのごとく、サンティの周囲に異変が起こる。刹那、目も眩むような光が発せられた。それは狼の体を包み込み、爆発的に発散する。稲妻にも似た轟音が大気を震わせた。昼間よりもなお明るく、荒れた大地を照らす。やがて光は収まり、静けさが戻ってきた。白の獣はうずくまったまま動かない。

 エリックは息をつき、左手の甲で汗をぬぐった。満足したのか、彼の表情は清々しい。ザク、ザク、と土を踏みならし、エリックは彼女に歩み寄った。尖った耳がぴくりと音に反応する。人外の瞳がゆっくりと持ち上がった。

「満足したかん?」

 低く唸るような声でサンティは問う。エリックは満面の笑みを浮かべた。

「ああ。やっぱりお前は強いな。戦い甲斐がある」

 元々美形であるが故に、笑顔はどことなく色気を持っていた。それを見やり、サンティは立ち上がる。同時に茶髪の女性の姿へと戻っていく。二人の視線が重なった。パン、と革の叩く音が鳴る。お互いの手を固く握りしめた二人は、何を言うこともなくただ微笑んだ。

黒藤紫音さんリクエスト「エリックvsサンティ」でした。手合わせのような感じで、との指定のはずだったのに本気でぶつかり合わせてしまった……!

 しかし、二人が戦うなんてと新鮮な気持ちもありました。なんだかんだ楽しかったです。リクエスト、ありがとうございました!

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