4章~2人が挑む校外学習その1~
「前提条件として流血沙汰は出さないこと。」
「え~。」
「いやいや、そこでの'え~'はおかしいだろ。」
やはり彼女は・・・お
「木田君、心の声漏れてるよ!だから冗談だって。あと先生はすぐに逃げすぎです。」
気づくと先生はこれから始まるであろうタイムセール用のワゴンの後ろにいた。
「逃げているわけじゃない。これから戦場と化すこの舞台の下見だ!下見。」
佐伯は夢島のせいでどんどん威厳が失われているような気がする。
「そういうことにしておきます。」
佐伯は再度咳払いすると説明を続けた。
「そもそも流血沙汰にならないようにというのはお前らが起こすんじゃなくて、お客さん同士の喧嘩を防げという意味だ。とにかく秩序を持たせ、皆が等しく買い物を楽しめるよう、決してケツのでかいおばさんが得をするようなバーゲンにしないこと。これが今回の授業内容だ。俺ができていると感じた場合モラルポイントを1000ポイント与える。2人で対決して1000ポイントを奪い合うでもよし、2人で協力し500ポイントずつ山分けするでもよし。」
「ダブルアップチャンスで2000ポイントにするでもよし。」
「よくねーよ。誰が言ったとかト書きがないからって好きかって言ってんじゃねーよ。」
チッ・・・
「チッ・・・。じゃねーよ。」
「ツッ・・・」
「木田、お前ふざけてると0ポイントにするぞ。」
「まぁ今更1000ポイントなんて雀の涙だし。」
「じゃあ涙はおあずけな。」
「じゃああたしが1000ポイント無条件でゲットってことね。ちょろいちょろい。」
「クリアできなければ、お前にもあげないよ。」
「ケチ。」
「お前も0ポイントにするぞ。」
「やります!!!」
「木田、お前はやるのか。」
「当然!」
現在の時刻は13:55分、14:00からのタイムセールまではあと5分。さてどうしたものか。
中央にある長方形のワゴンには洋服が無造作かつ大量に入れてある。
そしてワゴンの周りにはフライング起きないようにポールが置いてある。
あのポールを店員がとったらスタートってことか。
「夢島、対決か協力か選べ。」
「もちろん協力を選ぶわ。」
「意外だな。」
「だって考えるの面倒なんだもん。いわば他力本願ってやつね。」
「それ協力って言わねーよ。」
「細かいことは気にしないの。」
「先のとがったものをちらつかせながらいうのやめてくれない。てかそんなものばっか持っててよく補導されないな。」
「あ、これ実はナイフじゃないの。シルバーに塗った矢じり。」
「矢じりって・・・教科書以外で聞いたことないわ。」
「これでね、狩るの。」
「何をだよ。」
「稲。」
「字がちげーよ!」
くだらない話をしている間に時間が過ぎていく。
残り3分を切った。
「言い忘れてたんだが、俺も客になるから。」
佐伯はふととんでもないことを言った。
「ちょっと先生、授業にかこつけて、まさかバーゲンを楽しむ気ですか!」
「何言ってんだお前。授業だぞ、教師が率先して楽しむなんてダメだろ。なぁ夢島。」
「当然ですよ!もちろん先生は協力してくれるんですよね?」
「もちろん、煽る。」
「期待を裏切らず最低だ。」
ってこうしている間に2分を切っていた。ふと周りを見渡すとところどころに獲物を狙う狩人のような眼をした奥様達がワゴンを見つめ、すでに臨戦態勢に入っていた。
「夢島、こんなアホ教師はほっといてまずは何とかして並ばせるぞ。」
「でもどうやって?」
「開始と同時に俺がおばさんたちを何とかしてひきつける。そのうちに、夢島が大まかに同じサイズの服、そして色で服を分けろ。」
「それで?」
「ひも、持ってるか?」
「ナイフを振り回す用のなら持ってるわ。」
「はい?」
「ほら、やたら投げるとすぐどっかにいっちゃってなくしちゃうでしょ。ナイフ代だってばかにならないし。だからね、ナイフにひもつけてるの。」
「まぁ所持の理由には突っ込みたいがひとまずやめておこうか。でだ、さっきの矢じりに紐をつけ、矢じりをワゴンのパイプにひっかけそこから外に向かって真っすぐひもを伸ばせ。それを種類に分けた服の数+1つだけつくり、ひもで道を作れ。」
「要するに服の種類別にひもで道を作って並ばせるのね。」
「早い話がそういうことだ。日本人はついつい道があるとそこに並んでしまう習性があるからね。さて、残り30秒。用意はいいか?」
「いつでも大丈夫!」
「3,2,1!」
そして校外学習という名の今日のミッションが始まった。