3章~夢島ニュアル~
あっという間の土日であった。何があったかさえも覚えていない。
そんなわけで今日からまた新しい1週間が始まる。
「んー、今日も嫌な1日だ、はぁ。」
起きるたびに先週学校をサボってしまった自分に殺意を覚えてしまう。そして今日からはさらに身の危険も感じて生活をしなくてはならない。世の中、いや俺の回りの環境だけ殺伐としすぎだろう。
「ダメだダメだ、余計な考えは持たないようにしよう。」
顔を振り、邪念を飛ばす。今日から女の子と同じクラスになるわけだし、いい方向に考えよう。考えるたび、フォークまみれになっている自分に追い討ちのようにナイフが飛んでくる自分を想像してしまう。
俺が飛ばすのはボールのはずだ。そう、そうだ!!部活、部活だ!俺の最後の生きる望み、部活だ。ナイフ女のことなんか忘れて野球のことを考えよう。
よし、いい方向に考えよう。……………………………無理だった。インパクトがでかすぎる。
いい方向に考えられない自分の想像力にうんざりしながらも、学校へと足を運ぶ。
さっそくだが校門付近に人だかりができていた。近づいてみてみると、大の大人相手に無差別に投てき(ナイフ)を行っている女性が一名。
いわずもがな、夢島であった。
「あら、木田くんじゃない。あのね、この先生たちがナイフを投げちゃダメだって言うのよ。バタフライナイフってちょうちょのように舞うナイフってことでしょ。飛ばしてあげなきゃかわいそうじゃない。あ、バタフライナイフがあるならビーナイフもないと蝶のように舞ったあと蜂のように刺せないわね。」
朝から飛ばすなーほんと、いや、いろんな意味で。というかその以前に
「んなもんねーよ。それだったらバタフライは投げずに舞うだけにしてくれよ。」
「あ、そうだ木田くん、あたしの教室ってどこ?」
聞いといてスルーデスカ???
「…旧校舎のはずれだよ。同じクラスだからついてこい。」
「わかったわ。」
夢島は返事と一緒にナイフをなげる。
「だから投げるなって!」
「ごめんごめん、つい…ね♪」
ね♪で刺されてはたまったもんじゃないがな。
その後も教室にたどり着くまで幾度となく刺されそうになりながらたどり着く。
「まだだれも来てないのね。はぁ~、あたし学校生活にブランクがあるからクラスになじめるかどうか心配なのよ。」
「いや、それについては問題ないだろう。…このクラスに限りだけどな。(ボソッ」
「えっ?どういうこと?」
「まぁ…なんだ、このクラスにはまず机がない。」
「んーそれ以前に角材しかないわね。」
「それは今から机になる可能性を秘めた貴重な材料だよ。」
と言ってる間に次々と夢島は角材を的にナイフを刺していく。
「おい、やめろよ、黒髭じゃないんだから、角材脆くなっちゃうだろ。ついでにボロボロの机になっちゃうだろ!!!」
「だってーナイフを投げないとストレスが溜まっちゃって、なにか切り刻みたくなっちゃうんだもん。」
だもんっていう語尾は可愛く甘えるときにいう台詞であって、今のは…ちがう!いや逆に考えろ、ストレスが溜まらなければあいつは角材にナイフを投げるだけで普通の女子高生じゃないか、角材さえきらさなければ俺はモラルポイントを溜めることに集中できる。よし、いける!なーんだ、簡単じゃないか。あいつの取り扱いなんて。
「なぁ夢島お前は角ざ…」
ヒュン
俺の前を高速の何かが通り抜けた。とっさに振り向くと掲示物を張り付ける壁にナイフが突き刺さっていた。
「ふぅ…」
少しでもずれていたら、いやいや考えるなそんなこと。
「ごめんごめん、てが滑っちゃったよ。てへっ♪で、何か言った?」
取り扱いにおける注意事項その1
『流れナイフには気を付けろ、だ』
そうこうしているうちにガラガラと扉があく
「おはよう!今日もいいあ…
ヒュン
佐伯の頬を高速で通過するナイフ。
「おはようございます。」
「俺はナイフを投げながら挨拶をする国なんて知らなんだ。」
佐伯は震えに耐えながら言う。
「おい、佐伯といえど仮にも先生にナイフはまずいだろ!」
「そうなの?フォークのが良かった?」
「そういう問題じゃない。とりあえず今は何も投げるな。」
とりあえずこいつは思考回路が破綻してる。
「ん、まぁストレスも解消できたし、いいわ。投げるのやめましょう。」
「えー、(ゴホンッ」
佐伯は咳払いをひとついれ、話を続ける。
「夢島、とりあえず一通りわからないことは木田に聞け。このクラスの先輩として頼むぞ木田!以上朝のホームルーム終了!」
こいつ、逃げた!
「では休み時間、一時間目は道徳だ。教室で行う予定だ。」
というと佐伯は教室を出ていく。
「一時間目道徳って、あたし教科書とか時間割表とかもらってないんだけど。」
「夢島、残念なお知らせがあるんだ。実は一時間目も何もこのクラスの授業は道徳しかないんだ…」
「ん?どういうこと?」
俺はこのクラスの概要を話した。
途中リアクションとともに何らかの刃物が飛んできたが、多少の切り傷を負ったのみで大したことはなかった。
「大まかに話はわかったわ、要はそのモラルポイントってのを獲得して、上位クラスにクラスチェンジすればいいのね。」
「まぁお前も俺もすでに絶望的なんだけどな。」
「えー、なんでよ。私なんてモラルの塊みたいなものじゃない。」
「いや、知らんけどな。」
ストレスが溜まると何かを切り刻みたくなる人のモラルってなんだろうね。せいぜい『"何か"の大半をヒトじゃなくモノにしてるよ』くらいのモラルだろうよ。
ガラガラと勢いよく扉があく。
「そういえば高校って普通授業ごとに先生って代わるもんじゃないの?」
「正確に言えば教科ごとだ。そしてこのクラスには道徳しかない。そして俺は道徳教師。この意味が分かるか。」
「わかりたくもないけどな。」
「それともうひとついいですか、佐伯先生。」
「なんだ?」
「道徳だけやってても大学入れなくない?」
「高校に行く気さえなかったお前が何を言う。」
「なにこれ急に両方正論過ぎ・・・。」
「いいことを教えてやろう。本気で大学を目指すなら塾へ通え。」
「それが教師の言うことかよ。」
「え~、塾とかめんどくさいしやっぱ大学とかいいや。」
「はなから行く気ねーだろ!」
「くだらない話はその辺にして授業始めるぞ。」
「いやいや、最も真面目話だったし・・・。で、今日は何すんの?」
「今日も校外学習だ。」
「へ~楽しそうね。」
「頼むからナイフでジャグリングしながら楽しそうとか言わないでくれ。」
「さっそくいくぞ。」
そして3人そろって町へ繰り出す。はぁ・・・夢島を連れて無事に帰ってこれる気がしない。とにかく早くこいつの取扱説明書を作らなくては命がいくつあっても足りないし。
「で、今日はどこまで行くんすか?」
「おい木田、モラルがなさそうなところってどこだと思う?」
「スラム・・・とか?」
「ばかやろう、マジなとこ行ったら殺されるわ!」
なんのための図体だよ。
「じゃあどこなんですか。」
「ここだ!」
「ここ、デパートですよね。あたしもここよく母にここで買ってきてもらうんです。」
ひきこもりと言えど女の子だし、やっぱりおしゃれには気を使うのかな?
「ここ服とかけっこ・・・」
「ここナイフの品ぞろえ豊富なんですよ。」
やっぱそっちかーい!!!
「そ、そうなんだ。」
「そうなんですよ、なかでも私の一番のナイフはですね~」
「そ、それより!!!なんでデパート・・・って何逃げてるんですか!汚ねーっすよ。」
佐伯はナイフの話が出た瞬間、柱の後ろに隠れていた。
「で、なんでモラルのない場所がデパートなんだよ。」
「確かに、何故ですか?」
「お前らバーゲンセールに群がる女性たちを見たことないのかよ。俺は彼女たちに、モラルがあるとは思えない。」
「で、ここですか?」
「だいたいの話は見えてきたのですが、それであたしたちはここで何をすればそのモラルポイントってのがもらえるの?」
「ずばり、バーゲンセールに群がる女性を秩序ある女性たちにすることが今回の授業だ。」
「ずばってないずばってない。それをどうするか聞いているんだよ。」
「何でも大人に聞いていては柔軟な脳みそにならいないぞ。まぁどうしてもというなら、モラルポイントマイナス100万と交換してやっても構わんが。」
「さすが大人汚い。」
「だったら手段はあたしたちに任せてもらってもい・・」
「ただし条件はある。まず殺生は禁止だ。当たり前だが。」
たしかにこいつには条件が必要だ。放っておいたら何をやらかすかわかったもんじゃないしな。
「しないわよそんなこと。」
「それはどうだろう・・・」
「ちょっと、先生も木田君もあたしをなんだと思っているのよ。」
「鬼・・・」
俺がその言葉を口にした瞬間彼女の頭から角が生え始め、体がどんどんごつくなり、どこから持ってきたんだと思うほど大きな棍棒が出てきたかのような、そんなイメージで彼女?いやすでに妖怪である。そんなイメージで俺を睨んできた。
「・・・イメージ。までがながいよ!まるであたしが本当に鬼になったような・・・」
やつは鬼にも関わらず突っ込みをした。
「心の声うるさいよ、あたしのセリフにかぶせないでよ。」
「イメージ。」
「もういいよ。」
夢島はしゅんとなった。
夢島取扱説明書
断続的な攻めには弱い。
身の危険を感じたら言葉攻めしかないな。
「って何逃げてるんですか先生。」
「逃げてなどいない。」
佐伯はそういうと咳払いを一つしたあと、今回の授業の細かい説明を始めた。