プロローグ~残念な幕開け~
ピピピピ、ピピピピ
爽やかな朝、いつものように目覚ましがなる。新たな1日が始まる。
4月7日水曜日、今年俺は中学を卒業し、そして今日まさに高校生としてデビューを果たす。
せめて今日からは自分で起きよう。そう決心したときはすでに目覚まし時計は力尽き、お得意の目覚まし音を鳴らすことを諦めていた。いや、結果から言うと単純に電池が切れただけなのだが。
まだ肌寒く、冬の名残があり、なかなか布団から出られない。
春眠暁を覚えず…やはりまだ自分では起きられないか、本当に時間が迫ったら母親が起こしに来てくれるだろう。それまではこのぬくぬくを楽しむとしよう。
中学を卒業すると同時に俺は野球推薦という形で遠く離れた学校に通うことになった。もちろんこの学校では野球部で甲子園を目指そうと思ってる。いくら名門とはいえ、スタメンとして出るくらいの自信はある。そんな俺はいつのまにかエースで4番で活躍する夢を見ていた。
…ずいぶん気持ちのいい夢だったなぁ。サイコーの気分である。
あれ、いくらなんでも起こしにくるのが遅くないだろうか…。時計は…っと力尽きていた。
そんなわけでケータイを見る。
時刻は7時50分を示していた。
始業は9時なのでそろそろ起きないと不味いか、朝ご飯も少し冷めはじめている頃だろうか。
今になって知り合いもいない離れた学校で友達が出来るだろうかという不安が出始める。
いやいや、考えても始まらない。今日から1人で頑張らないと!あ…今日から独り暮らしということをすっかり忘れていた。
とりあえずカーテンを開けてみる。
すでに夜だった。
HAHAHAこんなの漫画じゃよくあることSA!
今さらじたばたしても仕方ないので俺は夢の続きを見ることにした。
そうして夜が更けていく…
ジリリリリという目覚まし時計の音につられ、俺は起きた。
昨日のような無様なことを繰り返さない為にも、OKIRUNDA!
そう自分に言い聞かせ、布団から這い出る。
入学式早々欠席してしまったこともあり、もはや小さいながらもグループが出来上がってるのではないかと心配になる。ここでの選択肢は3つだ。
1、意を決してグループに飛び込む。
2、ひとりでふさぎこみ、ぼっちで過ごす。
3、一匹狼的な不良生徒になる。
高校デビューを果たす俺としては2は論外だ。残すは1と3なんだが…。
1は一番正統派なんだが、あの渦の中に飛び込むってのは苦手なんだよな~、昔溺れたことあるし。ということで答えは3だ!
というわけで、まずは身だしなみからだ。
一匹狼を目指すわけだ、それなりに威圧感と恐怖を与える容姿でなくてはならない。
が、残念ながら中学時代は不良など全くいない度田舎の善良な学校で育ってしまい、テレビでは見たことあるが、実物に未だ遭遇したことがないため、実際の不良がわからない。
テレビ等でみるイメージとしては成人式で暴れる、紋付き袴の男だ。しかし、当然のことながらうちに紋付き袴などない。
「くそっ、去年の誕生日に紋付き袴をねだっとくんだった!」
まぁ今更そんなことを考えていても仕方ない。
ないものは当然!「作るしかない!」
要はそれっぽく形だけみえればいいわけだ。ここは費用面、労力面を考え、紙で作るのが妥当だ(高校生として)。そう判断した俺は早速和紙を買いに行き、作成に取りかかった。
「出来た!」
中々満足のいく出来に仕上がった。装甲はもちろん紙なわなけだが、まぁこんなものはファーストインパクトが与えられれば良いわけで、見た目がそれっぽければいいはずだ。不良なんてそんなもんのはず。
それよりも今問題なのは今が夜だということだ。
ぬうぐぅあ"あ"あ"あぁぁ
またも欠席してしまった。確かにひとつのことに集中すると周りが見えなくなってしまうところがあるのだが、学校を二日間忘れるのは異常だ。ここは精密検査を受けた方がいいだろうか。
まぁそれはともかく明日は金曜日、明日行かなくては休みに入ってしまう。
そして不登校児へ…
そんな展開がないとも言い切れない。自分のことなんだけれど。
明日こそは、明日こそは!心に誓って眠りに着いた。
ジリリリリ…ガシッ!
今日は最高の目覚めだ。
絶好の学校日和だな。
俺は通常の制服の上に昨日作った紙で出来た紋付き袴を装備し、買いたしておいた朝飯のパンをくわえ、学校へ向かった。
よく都会の人は他人に興味が無いだとか、誰かが倒れていても気にもしないような話を聞く。
だが、この周辺の都会人は違うようだ。
俺のことを凝視したり、指を指してこちらを見たり、二度見したり、誰しも必ずちらっとは俺の顔を見てくる。
人に興味があるようだ。俺は田舎を思い出しなんか少しホッとしていた。
学校に着くと、門の前にはあいさつ運動なる運動を行っている教師が立っていた。不良は先生に捕まると聞く。そして怒られるとも聞く。だが、めげずにつっぱるものだとも聞く。
「やってやるぜ!」
俺の高校デビューまであとわずか。俺はズカズカと校門を突破しようとした…が、当然のことながら眼鏡をかけた細身の男性教師に捕まった。
「おい、そこのお前!」
自分のことが、呼ばれたのはわかった。なのでセオリー通り教師の腹に無言でつっぱりをいれた。
「せいっ!!」
「かはっ…」
教師はお腹を抱えその場にうずくまると、
「佐伯先生!佐伯先生!問題児の撃退をお願いします。」と大声で叫んだ。
すると昇降口の方から身長2メートルはあろうかという迫力満点のガタイを有するおじさんが100メートルを9秒フラットで走れるんじゃないかと思うほどのスピードでこちらに向かってきた。
「大丈夫ですか矢野先生!」
佐伯と呼ばれた男はうずくまった矢野という男を左腕一本で抱き抱えると、もう一本の腕で俺の頭を掴み、顔の前まで引き上げ、
「おい、お前、何年何組のだれだ!」
と俺に告げた。
もちろんつっぱりなどしても意味がないことはわかっていたので、素直にかつ不良として尖ることも忘れずに目をつり上げたまま答えることにした。
「一年、何組かは初登校なのでわからない。名前は木田孝夫だ。」
「ほう、今年のこの学校に初登校から不良を全面に出して来るとはな…、しかも今日は入学式からすでに2日経っている。この態度はなかなかの度胸だということは認めてやる。」
「佐伯先生、ということはこの子は我が校初の…」
「そうだ、記念すべき初のKクラス行きの生徒だ!喜べ木田!」
「はい…?」
何故か上機嫌な佐伯という男はKクラス等とわけのわからないことを言い、頭を掴んだまま校舎の中へ連れ込んだ。その間出来る限りのことをして抵抗したが、この男はびくともしなかった。
そうこうしてるうちに
1-Kと書かれた扉の前に来た。おかしい…1-1から1-5までは確認できた。が、アルファベットのクラスなど1つもなかった。何なんだここは…?俺は佐伯に降ろされた。
「今日からここがお前のクラスだ。で、担任はこの俺、佐伯勝だ。ホームルームを始めるからさっさと教室に入れ!」
この男には何も効かないということがよくわかった俺は、従うしかなく、ドアを開けた。するとそこには教卓以外何もなかった。なんだここは、殺風景すぎる。まずは担任にこの状況に最も相応しい当然の質問をした。
「えっと…誰もいないし、その前に机がないんだけど…。」
「当然だ、Kクラス初の生徒なんだからこのクラスに他に生徒なんかいるわけがない。それと、机だぁ!?贅沢言ってんじゃねぇよお前。と言いたいところだが…折角の俺の初の生徒だ、少しはサービスしてやらんこともないか。ちょっと待ってろ。」
そういうと佐伯は教室から出ていった。なんだなんだ?初の生徒ってどういうことなんだ?意味がわからん。それになんでここには何もないんだよ。机が贅沢とか意味わからん。普通常設されてるものじゃないのか?それとも都会は違うのか?俺の頭は【はてな】だらけだった。
「にしても新入生を放ってあいつはどこいったんだ?」と呟くと窓からガラスを突き破り何かがこっちに飛んできた。視界では捉えられたが避けることはできず、頭に当たり俺は気を失った。