遊夢民
実際に私が見た夢をそのまま物語風にしてみました。
興味のある方はどうぞ。
夢の中に住む人達がいる。
彼等の名前は『遊夢民』。
夢の中で会う人達のほとんどが遊夢民で、人の夢を渡り歩いて生活している。
彼等いわく、人は眠りに就く時に必ずと言って良いほど夢を見るという。
多くの人は夢の内容なんて覚えていないと言うかもしれない。
それでも人は、一日の約半分に近い時間を夢の中で過ごし、彼等と毎日会っているのだ。
私が記憶する限りの、彼等と共に過ごした時間を、夢物語としてここに紹介しよう。
まず私が初めて遊夢民の存在を知ったのは、私の夢に現れた遊夢民から直接教えてもらったからだ。
私は夢の中で、小さな喫茶店に入っていた。
窓から差し込む光だけで店内を充分明るく照らせるほどの広さしかなく、木製のテーブルも三つあるか無いかだ。
白いシャツとチョッキの似合うマスターが一人で営んでいるようで、入ってきた私に微笑みかけた。
その喫茶店を営むマスターこそ遊夢民であり、私に様々なことを教えてくれた。
「私達は、あなた達から記憶を頂いて生活しております。どんな姿で、どんな声でいたかなど、私達の存在を肯定するものが最も価値のあるものなのです。」
そう話ながらマスターが淹れてくれたコーヒーはとても美味しかったはずなのに、起きた今では味を覚えていない。
おそらく、コーヒーのお代として味の記憶を取られたからだろう。
「夢の中で会った人が遊夢民かそうでないかの見分け方を教えてあげましょう。まず、相手の顔を見てください。そしてあなたが起きた後、相手の顔を思い出せなくなっていたら、その人は遊夢民です。」
マスターの言う通り、私はマスターの顔を覚えていない。
ただ、楽しそうに話してくれていたことを覚えている。
「最低限でも私達の顔だけは記憶から頂く必要があるのです。あなた達の記憶は私達の糧ですから、どうしても必要なのです」
そう聞いた私はマスターに質問しようとしたが、先読みしたのかマスターは聞かれる前に答えた。
「心配することはありません。あなた達が私達を忘れようと、困ることは無いはずなのです。これは夢だからで全てが済むのが夢ですから。私達はあなた達のことを永遠に覚えています。だから、ずっとお待ちしております。それでは、またのご来店を…」
ここで私の夢は覚めてしまった。
マスターがどうして私にそんなことを教えてくれたのか、結局理由を聞けないままだった。
それ以来、私は小さな喫茶店のマスターに会うことは叶わなかった。
しかし、いくら時が経とうと忘れない遊夢民との記憶はきっと何かの意味があると、今でも私は信じている。
私は今夜も眠りに就く。
いつか見た、あの喫茶店へ行けることを願って…。