未練の消化
短編です
俺は死んだ。事故だった。陸上部の朝錬に向かう途中、飛び出してきた車にはねられて。まだまだやりたいことも沢山あった。恋だってまだしてない。仕事だって、やってみたいものが沢山ある。叶えたい夢だって、あったのに・・・・。
そんなことを思っていたら、体が引っ張られるような感覚に襲われた。
気が付くと俺は、どこかの家の中にいた。目の前には煌々と光り続けるテレビ。映っているのはゲームだ。手にコントローラーを持っている。
ん?この体、でかいな。ってか重い。しかもものすごく臭い!なんだ!?どうなってる!?
立ち上がってみると、体がふらついた。え、この体、筋力少なすぎだろ!どうなってるんだ!?俺は確かに死んだはず・・・。
カーテンも閉め切られた部屋じゃ、良く見えない。外の光を取り込んで、部屋に置いてあった鏡を見ると、陸上部だった俺の面影は微塵もない、ただの太ったおっさんが映っていた。
「な、なんだコレ!?」
「ご飯、ココに置いておくからね・・・」
ドアの向こうから女性の声が聞こえた。
急いでドアを開けると、驚いた顔の女性と目が合った。
「・・・あ、えっと・・・」
俺を見た女性は目をまん丸くして、フラフラと階段を下りて行ってしまった。ついていくと、リビングには男性もいた。男性は、女性を見た後、俺を見て、同じように目をまん丸くした。
「あの、風呂場、どこ・・・ですか?」
目をまん丸くしたままの二人はおそらくこの体の両親だろう。あの現状を見るに、いわゆる引きこもりニートってやつだったんだな、俺は。
体を何度も洗って、自分の不潔さに驚いた。湯船に入るのはやめておこうと思うくらい、アカだらけで、擦っても擦っても出てくる。俺、風呂好きなのに・・・。
そして風呂から上がると急激な眠気に襲われた。寝ずにゲームしてやがったな!?
俺はとにかく臭い部屋で睡眠をとった。目を覚ましたらまずは部屋の換気と掃除だ!
起きてすぐ、決めたことを実行した。布団も干して、がらくたを片付ける。以前と違うのは、体の重さだ!くそ~。ダイエットも始めないと・・・。
悔しい想いを抱えつつ、俺はご両親に「働きます」と宣言した。ご両親は大層喜んだ様子で、その日の夕飯に赤飯を炊いてくれた。
翌日から、バイトの面接に片っ端から応募をかけて、受けに行った。
ひげをそって、持っていたスーツを着込んでも、たるんだからだと、染みついたクマは消えなかった。でもま、そのまま行くよりはマシだ!
「で、なんでこの数年間働いてなかったの?」
「えっと・・・」
そうだ、この体がどうして働いていなかったのか、俺は知らない。
たくさん受けた面接は、俺がニートだったってことでことごとく不採用を突き付けてきた。こんなに悔しい想いをしたのは初めてだ。
どいつもこいつも、俺を見た瞬間に「駄目な奴」「つかえなさそう」みたいな顔をしやがって。デブでニートってだけでこんな扱いを受けるのか!?何だよこの社会!
俺はその日からダイエットにいそしんだ。朝起きてまずはウォーキングだ。本当はランニングの方が必要なんだけど、この体では、10分も歩くと息切れしてしまう。慌ててはいけない。スポーツインストラクターも目指していた頃の血が騒ぐ。
早朝だけど、部活に向かうのであろう高校生とすれ違った。数人の男子たちからクスクスと笑われる。こんにゃろ・・・見てろよ!?ガキどもが!俺は今に超絶スマートになって、バイトだって仕事だって受かりまくって億万長者になってやるんだからな!!
そんで超絶美少女と結婚するんだ!!!
——新シイ物語ガ始マッタ——
うおおぉぉ!!・・・ゼェゼェ、ハァハァッ・・・くそっ・・・!




