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鉄の牛車、消え失せること

黒き神境、禁断の果実めきし印浮かべたまま、しばらく光り続けけり。


 佐藤健一、両手にて抱え込み。


「頼む……起動してくれ……」


 と、小声にて祈りける。


 一方。


 御池貴光、少し離れた場所より、その様子じっと眺めけり。


「……完全に呪術師なり」


「違ぇよ」


 やがて黒き神境、元の画面へ戻りける。


 佐藤、深き安堵の息吐きける。


「よかったぁ……」


「蘇生したり?」


「アップデート終わっただけ」


「あっぷでえと?」


「強くなるやつ」


 貴光、少し感心した顔しける。


「妖具にも鍛錬あるなりか」


「もうそれでいいよ……」


 佐藤、疲れ切りし顔にて座り込みける。


 空、高く。


 日差し、いと強し。


 草原には影少なく、熱気むんむんと立ち込めけり。


「暑っ……」


 佐藤、額の汗拭ひける。


「だから軽トラの中やばかったんだよ……」


 一方、貴光。


 鉄の牛車の側面へ手触れつつ、しみじみ頷きける。


「風通し悪き牛車なり」


「まだ牛車扱いなんだ……」


 その時なり。


 ぐぅぅぅ。


 再び佐藤の腹鳴りける。


「……腹減った」


「芋菓子食ふなり」


「毎日ポテチだけなんだよ俺は!!」


 佐藤、叫びける。


「うす塩味しか出ねぇんだぞ!? 三年間!!」


「三年」


「そうだよ!!」


 佐藤、草の上へ大の字になりける。


「はぁ……せめて日陰欲しい……」


 貴光、空見上げける。


「確かに暑きなり」


 そして鉄の牛車へ触れ。


「しばし隠れ――」


 その瞬間なり。


 鉄の牛車、突如として掻き消えける。


「……………………」


「……………………」


 風のみ吹きたり。


 佐藤、ゆっくり起き上がりける。


「……は?」


 先ほどまで巨大なる鉄の塊ありし場所。


 されど今や、草のみ揺れたり。


「え?」


 貴光、しばし固まりける。


「……………………」


「……………………」


「……消えたり」


「見りゃ分かるよ!!」


 佐藤、慌てて立ち上がりける。


「どこ行った!?」


「知らぬなり」


「お前のだろ!?」


 貴光、周囲きょろきょろ見回しける。


「妖異めきし現象なり」


「お前が起こしたんだろ絶対!!」


 その時。


 貴光、ふと己の手見つめける。


「……隠れよ、と申したなり」


「え?」


「すると消えたり」


 佐藤、しばし沈黙し。


「……試してみろ」


 貴光、こほんと咳払いし。


「出でよ」


 次の瞬間。


 どん!!


 轟音と共に、鉄の牛車再び現れけり。


「うおっ!?」


 佐藤、慌てて飛び退きける。


「マジでインベントリじゃねぇか!!」


「いんべんとり?」


「収納能力だよ!! 異空間とかそういうやつ!!」


 貴光、少し考え込みける。


「なるほど」


 そして静かに頷きける。


「便利なり」


「そこは便利なんだ……」


 佐藤、複雑そうな顔しける。


 その時なり。


 黒牛、鉄の牛車見つめ。


 そして静かに、逆方向へ歩き始めける。


「あっ」


「逃げるなり」


 貴光、追いかけける。


「戻れ牛よー!」


 佐藤、その背中見つめつつ、小さく呟きける。


「気持ちは分かる……」

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