1話
やっとですね。
やっと本題です。
序章が長くて本当に申し訳ないです。
「ふふふ。じゃあ、ヨロシクね。“契約”の能力者さん」
「“契約”?それが俺の能力だと?」
今にも噴出しそうだった。まさか本当に蒼慈にも能力があるなんて華奈恵が思っているなんて。
「そうよ。自分ではわかってないみたいね」
「当たり前です。俺にはそんな力はないし」
「ふふ。まぁいいわ。とりあえず私と“契約”してもらえる?」
「いや、そもそもそんな能力、俺にはないから。そもそもあったとしても使いか・・・」
ふふふ、と口元に微笑を浮かべたまま華奈恵はみを乗り出し蒼慈へと近づいた。
そして、蒼慈がそれ以上何か言う前に迷わず唇を重ねる。
蒼慈は自分の唇に当たるやわらかいもの感じた。
「んんんっ!?」
時間としては10sほどだろうか。蒼慈が必死で顔を離そうとしても華奈恵はビクともしなかった。
そして、華奈恵が顔を離した。
「・・・ちょ、一体なんのつも・・・」
蒼慈が何か言おうとするが、華奈恵の指がその唇を押さえる。
「今から言うことを復唱して。“男に二言はない”はずよね?」
そういわれてしまうと、蒼慈は華奈恵に従うしかなかった。
「復唱してね。『我、汝との間に契約を結ぶ』」
「・・・『我、汝との間に契約を結ぶ』」
「名前を自分のに変えて。『我が名は“華奈恵”。ここに契約を結ぶ者の名なり』」
「・・・『我が名は“蒼慈”。ここに契約を結ぶ者の名なり』」
「『盟約の血に従い、ここに契約を』」
「・・・『盟約の血に従い、ここに契約を』」
「『契約』」
「『契約』」
その瞬間、突然光が二人を包み込み、瞬時に消えた。
「・・・なんだ今の光は。手品かなんかですか?」
「ふふ。そんなこと言っちゃって。分かってるくせに。わかるでしょ?私達の間に生まれた“契約”が」
「・・・知りませんよそんなもの。そんなことよりちゃんと説明して・・・」
華奈恵の指が蒼慈の唇を押さえる。
「先に“異世界”へ行ってもいい?あなた、そうでもしなきゃ信じなさそうだし。それと、行ったら結構な時間戻れないから、色々覚悟してね」
「・・・別に心残りなんてないし、行けるはずない。本当に行けるというなら、今すぐ連れて行ってみせてくださいよ、“魔法使い”さん」
どこが挑発するような蒼慈の口調。
しかし、華奈恵はそんなのものを気にした様子はない。
「『魔術師“華奈恵”の名において命ずる。“異世界”への扉よ、今ここに開きたまえ。我は“巫女”なり。我が命に従え。開け、“扉!”』」
その瞬間、目の前が真っ白になった。
…いわゆる回想終了というやつだ。
蒼慈はありえないくらいの高さから地面に落ちた。
常人なら即死間違いなしだ。なのに、何故か蒼慈は生きている。
「・・・なんでだ?」
「簡単に言うとパワーアップしたからよ」
横にふわりと華奈恵が降り立つ。
「・・・パワーアップ?意味不明だ。それより、なんで助けてくれなかったんですか?」
「助けるよりこうしたほうが早いし。」
「俺が死んだらどうするんですか・・・」
怒る気力すら沸いて来ない。
「死なないわよ。てかあなたが死んだら、私戻れなくなるし、そんなことさせないわよ」
「これ・・・映画の撮影かなんかですか?」
そう言って蒼慈は周り見渡した。
木が回りに生い茂っている。かといって森というわけではなく、すぐ向こうには町へと続くと思われる道がある。
こんな場所、少なくとも学校近辺にはなかった。
そうやって蒼慈が考え込んでいる時。
「うわぁ!すごい!すごい!すっごいよコレ!」
いきなり横でうれしそうな声が聞こえた。
「・・・どうしたんですか?いきなり・・」
蒼慈は目の前の光景が信じられなかった。
華奈恵の手から火が生まれていたのだ。
「どうなってるんです、ソレ?意味がわからないんですけど」
「ふふふ。ここが“異世界”ってことよ!」
まるでそれ以外の答えなんてありはしないというように華奈恵は言い切る。
「元の世界で魔法使いと呼ばれていた、まぁ自称だったけど。その人たちは元々かなりの魔力を持っているのよ。でも、元の世界は元々魔法の存在がない世界だったから、その魔法の中で最も強い魔法が、能力となってほんの少しだけ使える、という状況だったわけ」
「・・・それで?」
異世界に来た。ということいをいまだに蒼慈は認められないでいた。
「こちらの魔法がある世界に来たから、私の魔法はかなりパワーアップしたってこと。まぁ、言ってしまえば、向こうで能力が使える人間がこちらにきたら、こちらの魔法使いの上から数えて100人に入れるレベルよ。しかも、私はあなたと“契約”したから多分、ほぼ最強の分類に入るんじゃないかしら」
…意味がわからん。そもそもここはどこなんだ?さっきのはドッキリか企画かなんかだろう。じゃなきゃアノ高さから落ちて死なないはずがない。
「ほら。実際に“こっち”に来たんだから、そろそろ信じたら?」
「信じられるわけないでしょ・・・こんな非現実的なこと」
「でも、これからはこれが現実になるのよ。とりあえず町にでも行って、魔王の情報を聞きまわりましょう」
「ちょっと待てぃ。俺の能力?とやらも説明してもら・・・・」
蒼慈はまたもや最後まで言うことはできなかった。
なぜなら、すぐ近くに、
---ドォン!という音と共に巨大な物体が降ってきたからだ。
「・・・は?何コレ・・・ドラゴン??」
そう。蒼慈達に背を向けて降ってきたものは紛れもないドラゴンだった。
ドラゴン。龍。
そんなものは、あくまでゲームやお話の中でしか存在しない。
ソレが今、目の前にあった。