7話
ピクリ、とわずかにドラゴンが動く。
≪な、何!?≫
思わず声を上げてしまうほどに。
「どうだ?」
蒼慈はドラゴンの額に手のひらをくっつけながら言う。
≪なんだ・・・こんな量の魔力、神龍ですらありえん≫
その言葉を聞き驚くセリーヌとフレール。
ただ、華奈恵だけはそれを苦虫をつぶしたような顔で聞いていた。
「それで?」
≪これほどの魔力があれば、四大龍皆を従えてもおつりが来るな≫
「・・・それほどか」
自分のことだが、どこか他人事のような反応を蒼慈は示す。
「ならその4大龍とやらを全部手に入れるのもありだな」
ドラゴンから手を離し、その手を閉じたり開いたりしながら、まるで自分の力を確かめるように蒼慈は言った。
≪お主なら可能だろう≫
「・・・そうか」
蒼慈はフッと見た目に似合わない大人びた顔で笑みを零した。
「とりあえず、今は足が欲しいからな。契約させてもらおうか」
そう言ってドラゴンにさらに近づいていく。
≪元よりそのつもりだ≫
ドラゴンはその瞳を閉じ、契約の時を待つ。
その様子を何処か、別世界の事のような顔で華奈恵意外の二人は見ていた。
「華奈恵。ドラゴンと人との場合で契約の仕方に違いはあるのか?」
蒼慈は華奈恵の方を見ることもなく尋ねる。
「ドラゴンの場合は名を与えることで契約がなされるわ」
華奈恵は答える。
「そうか・・・名か・・・」
≪・・・≫
ドラゴンは何も言わずにジッと蒼慈の言葉を待つ。
そして、その名を得ることが彼の夢であり、全てだった。
「・・・ファイってのはどうだ?火龍なんだろ?」
火を英語読みしてファイヤ、それからとってファイ。
少し、安直過ぎる名前かもしれないが。
≪ファイ、か・・・悪くない。ここに“契約”を≫
途端、ドラゴンから眩い光が出て、それが蒼慈を包み込む。
数秒経ったのち、その光が収束していく。
≪力が漲るとはこのことか・・・≫
「・・・ほぅ。今までとは違ってお前となにかしら繋がりを感じるな」
蒼慈は何処か関心するような声出した。
実際、人と“契約”した場合でも魔力的な繋がりはあるのだが、蒼慈の力が強大なためその繋がりが些細な物に思え、魔力に慣れてない蒼慈には気付きにくいことだった。
しかし、より強大な力を持つドラゴンと“契約”すると、その繋がりも顕著に現れるため蒼慈でも認識ができたのだ。
「!?」
「えっ!?」
突然後ろで見ていたフレール達も驚いた声を上げる。
蒼慈自身も驚いた顔をしていた。
唯一人、華奈恵だけは以前と変わらぬ表情だったが。
≪・・・フム≫
ファイの体に蒼慈の魔力が行き渡ったのか、蒼慈によってつけられた傷が癒えていく。
「・・・すごい」
回復魔法が得意であるセリーヌには、蒼慈によってつけられた傷の深さからしてそう簡単に治るものではないことを知っていた。
もちろん蒼慈自身が直接治しにかかれば、治ってしまうのかもしれないとは思っていたが。
まさか“契約”の副産物で治るとは思ってもいなかったのだろう。
「姉さんの時と同じ・・・」
ポツリとフレールが零す。
その光景は蒼慈がセリーヌの“契約”して、セリーヌの病気を治した時と酷似していた。
≪これで我は念願の“契約者の友”になった≫
グルグルと笑っているのだろうか。そんな感じの音を口元からファイは発する。
「まぁ、これで足も手に入れたことだし。いろんなとこに楽に行けるな」
うんうんと笑みを浮かべながら蒼慈は頷いていた。
「こいつが暴れてた理由もわかったことだし。戻りますかー」
結局は一人ですべて治めてしまった蒼慈は、グッと伸びをしながら後ろにいる皆に言う。
「そうね。姉さんの傷も大丈夫だとは思うけど、少し心配だし」
「大丈夫よ、これくらい」
ファイを見ながら、目をキラキラさせている普段からはあまり見られない蒼慈の顔を見ながらセリーヌは口元に微笑を浮かべながら言った。
「・・・そうしましょうか」
沈んだ感じを隠せないまま華奈恵も二人に同意する。
「じゃあ、早速乗って帰りますか!」
嬉々としてファイの頭をペシペシ叩く。
そして、皆が何か言う前に一人先にファイに飛び乗る。
「ほらほら。乗った乗った」
どこかの商人のような蒼慈の言い方に苦笑しながら皆もファイへと続く。
ドラゴンに乗るのは恐れ多いが、それよりもやはり乗ってみたいという気持ちの方が勝ったらしい。
「ファイ行けるか?」
≪もちろんだ主殿≫
うなずくとファイは折りたたんでいた翼を大きく広げる。
そして足の方へと重心を落としたかと思うと、一気に上空へと飛ぶ。
「キャッ」
セリーヌが思わず悲鳴を上げる。
その横後ろで妹のフレールは今だにドラゴンに乗っているという事実に驚いたままの表情で固まっていた。
「ははっ。やっぱ空はイイね!」
ファイの首の付け根辺りに跨っている蒼慈は両手を大きく広げて叫ぶ。
「これぞ男のロマンだぁ!」
まるでジェットコースターに初めてのった少年のようなはしゃぎっぷりだ。
彼の後ろには、周りの雲を見ながら楽しげなセリーヌが乗っている。
そしてその後ろには華奈恵が少し青い顔をしながら口元を押さえている。
そのまた後ろの最後尾にファイの翼や鱗をガン見しているフレールが乗っている。
≪主殿≫
「ん?」
安定した飛行に入ってすぐファイが蒼慈に話しかける。
≪何処へ向かえばいいのだ?≫
「・・・あー。とりあえず、あっちらへん」
ファイに聞かれて敵等に指を指す蒼慈。
「ソウジ・・・そっちは王都とは真逆です」
若干の呆れと、子供が楽しんでいるのを見守る母親のような表情でセリーヌは後ろから蒼慈に告げる。
セリーヌに言われて、自分が指した方向と逆方向を蒼慈は指差す。
それにしたがってファイも旋回しながらそちらへと向かった。