6話
火龍の“契約者”に会いたいという願いは果たされた。
龍種のどれもが思いもよらぬ結果をもたらしながら。
≪83代目だ・・・≫
「・・・過去に82人も“契約者”がいたのか」
≪そういうわけではない≫
「・・・」
蒼慈はさっさと続きを言えと、目で促す。
≪火龍の族長として83代目ということだ≫
「・・・」
蒼慈はいまだに無言で、ドラゴンに続きを促す。
華奈恵とフレール、そして治療をある程度終え、既に目を覚ましているセリーヌ達が固唾を呑んで見守っている。
≪“契約者の友”に我がなれば、火龍としては2代目になる≫
「火龍として、か・・・他にいるような口ぶりだな」
蒼慈は“契約者”についてほとんど知識を持っていない。
≪あぁ。火龍、水龍、風龍、地龍。これらの四大龍と呼ばれる存在が“契約者の友”となる資格を持つ≫
ドラゴンは抵抗するのを完全に諦めたのか、蒼慈の知りたいことを先読みして答えていく。
「俺は“契約者”としては何代目なんだ?」
蒼慈の質問にドラゴンは少し驚く。
≪・・・4代目だ≫
「過去に3人“契約者”がいた、ということか・・・」
≪そうなる。聞かされていないのか?≫
蒼慈がドラゴンとの会話で何かを考えている時、それを見ている華奈恵は内心冷や汗が止まらなかった。
彼女は“導き手”。つまりは蒼慈を導く者なのだ。
本来ならば、彼に全ての知識を与えるべきなのだが、
「・・・華奈恵」
いつもとは違う、感情のこもってない声で、首だけを回して蒼慈は華奈恵を見る。
「っ!?」
呼ばれた華奈恵はビクッと肩を揺らす。
「何故言わなかった」
「・・・」
言える筈がなかった。
彼、蒼慈は“契約者”としてはあまりに異常で、“勇者”“救世主”としてはあまりに異端であった。
「何故黙っている」
本来の力とは真逆の力を持つ蒼慈。
そんな蒼慈をちゃんとした道に導くために、彼に知識を与えるわけにはいかなかった。
「・・・わ、私達“導き手”も全てを知ってるわけじゃないのよ」
≪前代、いや前々代だが、その者はちゃんと理解していたが?≫
ドラゴンの言葉に悪態を付きたいのを必死に我慢しながら、華奈恵は答える。
「代々受け継がれるなかで、資料を完璧に保ち続けるのは不可能なのよ」
言われれば納得しえる理由だった。
しかし、それはあくまで一般人におけること。
彼女のように代々“導き手”の巫女を務めるような一族においてそんなミスはしない。
「そうか・・・わかった」
追求することなく蒼慈はドラゴンの方に向きなおす。
華奈恵はそのことで、さっきのことを信じてもらえたとホッと胸を撫で下ろした。
「華奈恵」
だから、不意打ちだった蒼慈の言葉に華奈恵は再び、ビクッと肩を揺らす。
「な、何かしら?」
「・・・本当だな?」
蒼慈の言葉を聞き、華奈恵に襲い掛かる後悔と恐怖。
彼は気付いてる。
蒼慈の声に含まれる、怒りの感情を少し感じ取りながら華奈恵はそう思った。
「え、えぇ」
おもわずそう答えてしまった。
そして、その後すぐに途方もない後悔の念に追われる。
今ので華奈恵は蒼慈からの信頼を全て失ったと言っても過言ではないのだ。
「火龍とやら。少し話が逸れたな、それでまだ返答をもらってないのだが」
先の事で顔を青ざめさせてる華奈恵を他所に蒼慈は会話を続けていた。
≪我が従うか、否か、か?≫
「あぁ」
≪我に拒否権はあるのか?≫
ドラゴンの言うことはもっともなことだった。
脅し、脅迫のような形でドラゴンに答えを求めるあたりもはや交渉などではなかった。
「別に断っても構わない・・・ここで死んでもいいならな」
蒼慈は冷たい声でそう言い放つ。
≪・・・従おう。元よりそのつもりだった。屈服された屈辱よりも、“契約者の友”となることの名誉の方が勝る≫
「賢い判断だな」
ドラゴンの返事を聞いて蒼慈は頷く。
「ついでに聞いておきたいんだが、何故暴れてたんだ?」
≪目立つためだ≫
「・・・」
一瞬ドラゴンの返答に驚かされ固まってしまい、若干の狼狽を隠せぬまま蒼慈は答える。
「何故目立つ必要があった?」
≪そなたに見つけてもらうためだ≫
「・・・他に方法はなかったのか?」
≪あったかもしれんが、我は思いつかなかった≫
はぁ、と蒼慈は大きなため息をついた。
「もし俺が来なかったらどうしたんだ?」
≪来るまで暴れた≫
(ドラゴンとは賢い生き物だと王は言ってなかったか?これじゃまるで、)
「バカだろ」
≪仕方なかろう!“契約者の友”は一体しかなれんのだ。我先と思うのは自然のこと≫
「一匹だけ?何故一匹だけなんだ?」
疑問に思い首を傾げる蒼慈。
そしてそのまま後ろを振り返り華奈恵の方に顔だけ向ける。
「知ってるか?」
ドラゴンが答える前に先に華奈恵にその疑問をぶつける。
蒼慈に話しかけられたことで、またビクッと反応しながら華奈恵は答えた。
「え、えぇ。確か“契約者”の力がドラゴン一体が限界だから、だったはず・・・」
華奈恵にとってはちゃんと確立した知識なのだが、蒼慈に聞かれると、さっきの自分の言葉の影響もあるためかどこか確信がないかのような言葉になってしまう。
本来“契約者”が行く世界は何種類かあり、それを順番に回っていくことになっている。
だから、歴代にどれだけ“契約者”がいようとも、同じ世界に来る人数は少なくなり、その分資料も減ってしまう。
しかし、それでもその資料が昔から一切欠けることなく伝え継げるのが“導き手”だからこそなのだろう。
「ふ~ん」
ニヤリと笑みを浮かべ蒼慈はドラゴンを見やる。
≪・・・≫
「ドラゴンよ・・・俺は一体、何体のドラゴンと契約出来る?」
そう言って蒼慈は、その言葉の意味を理解できないドラゴンの方へと手を伸ばした。