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Contract ~契約~  作者: 深々
第1章 契約者
37/45

30話

 目の前には王がいる。

 この国の国民であるから王の前では忠誠の意として膝を折る。

 仮にもこの国の国民でなかったとしても、これほどのオーラを持った人物が目の前にいれば少なからず気後れしてしまうだろう。

 なのに、


「小僧か・・・何か勘違いしてるようだけど、貴様らは・・・俺達と対等な関係が持てるとでも思っているのか?」


 こんな発言を王にしたのは彼が初めてではないだろうかと思う。

 彼が部屋に入った時、王自らが先に挨拶をなさった。

 つまりは、王自身が彼らよりも自ら謙る相手と判断したということ。

 しかし、それはあくまで形の上でのみ。

 “勇者”“契約者”そう呼ばれる者は、この国にとっては“救世主”なのだ。

 それ故に敬意と期待を込めてこのような行動を取る。


「ほぅ・・・」


「俺がその気になれば国1つ潰すことなんて、造作もない・・・ちなみに俺の親の顔が見たいならこの場で殺してやるよ」


 目の前に堂々と座っている青年、いやまだ少年だろう。

 さっき16歳だと言っていた。

 そして、まだ幼さが残る顔つきをしている。

 しゃべらずにただ座っているだけなら、どちらかというと大人しそうな雰囲気がある。

 そんな見た目から思わせる弱気な態度ではなく、彼は王に対して一歩も引かず、むしろ確実に圧倒する態度をとっている。


「・・・魔王の居場所だったか?」


 彼らの間に訪れた沈黙を破ったのは王だった。

 彼は王の“魔王”に対する姿勢に少しばかり苛立ちを感じるような素振りをする。


「そのわりには余裕だな」


 王に対して見下したような態度だ。


「焦っても仕方のないことだ。時が来ればわかるだろう」


 目線を彼から離し、彼に付いてきた3人の女性に目を向ける。

 どの女性も誰もが美人と認めるような顔をしている。

 その中のカナエと名乗った一番年長であろう女性は自らを“導き手”と名乗っていた。

 自らの役目をきっちりと理解しているからだろうか、彼女の態度は堂々としているものがあった。

 さらに横に目を向けるとそこには姉妹である二人の女性がいた。

 彼女達はこの国の者だろう。王を見て跪いたのが何よりの証拠。

 姉の方は無表情を保とうとしているが、緊張しているのが見て取れた。

 時折、少年の方を不安気味にチラチラと見ている。

 そして、妹の方だが、王を前にして緊張しすぎたのだろうか、完全に固まっていた。


「時が来る、ねぇ・・・明日にでも“魔王”が出てきてもおかしくないってのに」


 考え事をしている内に彼らの会話は進んでいく。


「それこそ神のみが知ることだ」


 わが国には国家宗教という物が存在しているわけではないが、この国にも宗教は存在する。

 王自体は形の上だけだが、私はある宗教に属している。

 紛いなりにも神を信仰している。


「神か、そんないもしない物を一国の王が信じてるとは、この国のお先は真っ暗だな」


 まるで王を、いやこの国全体を馬鹿にしたような態度で目の前の少年は言った。

 おそらくこの少年は神を信仰いないのだろう。

 そういう人もいる。それは普通のことだ。

 しかし、だからといって他人が信じているであろう神を侮辱するのは果たして人間としてどうなのだろうか。

 伝承に伝え聞く“契約者”は、他を尊重する人柄だと聞いていた。

 それなのにこの少年はそれとは全く違う、むしろ真逆だと言える。

 王の前ということもあったし、何より“契約者”に対してあまり失礼な態度を取るべきでないのはわかっている。

 しかし、このような人を本当に信じてもいいのだろうか。

 いくら力を持っているからといって、無敵ではないはず。


「果たしてあなたは神の存在を冒涜するほどの力をお持ちになっているのですか?」


 暫くは自重していたが、やはり我慢ならなかった。

 私が一歩出て、言葉を発したことに周りの重鎮達は驚きを隠せないようだった。

 それと比べ、目の前の少年は驚いたというよりは興味が沸いた、みたいな表情をしている。


「代々言い伝えられている伝承では、“契約者”には国一つ滅ぼすほどの力はないと心得ておりますが?」


 ギスギスした雰囲気だが、仮にも私はこの国のナンバー2。

 堂々と言い放ってみせる。


「へぇ、そうなんだ。あんた名前は?」


 王とは違った言葉遣いで私に対して話しかける少年。


「これは失礼。私はレイノール・クロート。宰相を務めさせていただいております」


 言葉遣いで少し苛立っているのがバレているかもしれないが、少年はそんなことは事は気にした風もなく軽い調子だ。


「宰相か・・・レイノールとか言ったね」


 少年が王と向き合っていた体勢から完全にこちらに体を向ける。


「はい」


「今、伝承とか言ったけどソレ、聞かせてもらえるかな?」


 さっきまでの王に対していた態度はどこへ行ったのか、かなり柔らかい物言いだった。

 そのことにいささか疑問を感じる。


「私でよければ話させてもらいましょう」


 そう言いながら王に対して自分が話してもいいのか、という意を込めて目線を送る。

 そして、それを受けて王が頷いたのを確認してから私は話した。



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