26話
「遅かったねぇ~」
「き、貴様、フレア様に傷一つでも付けててみろ、殺すぞ!」
「あらあら、殺すだなんて物騒だなぁ。せっかく指を切らないでいてあげたのに」
蒼慈達の所へはさっきの護衛と思われた兵2人と、預言者らしき人物、そして小隊一つだった。
「貴様の言うことなど信じれるものか!いくぞ!」
フレアの護衛をしていた剣を持った女が叫ぶと同時に傍にいた小隊の者が動いた。
魔法使い達は1歩下がり詠唱を唱えだす。
そして、騎士達は蒼慈の方へと突っ込んできた。
その時、
「やめなさい!」
凛とした声がその場に響く。
その声に反応して、蒼慈達を攻撃しようとしていた者達が固まる。
声の主は小隊の者達の後ろから歩いてきていた。
「ほぅ、あなたが預言者か?」
「貴様、ユクネイル様に向かってなんて口の聞き方を!」
騎士の1人が言った。
「いいのです・・・私に用があるらしいですね」
預言者らしき人物は手で騎士を制して蒼慈に尋ねた。
「まぁね、単刀直入に言うけどいい?」
「私はなんせ病の身ですから、あまりここに長居はしたくないのでそちらの方が嬉しいですね」
「そっか、なら言わせてもらおう。“魔王”は何処だ?」
「・・・」
蒼慈の言葉に預言者が固まった。
流石に予想してもいなかったのだろう。
周りの兵士達は預言者とは違い、何がなんだかわからないという表情だった。
預言者は白髪で歳も40後半くらいのように見える。
そして顔色も悪い。病の身というのは嘘ではないのだろう。
「何故そのようなことをお聞きなさるので?」
静かな声で、そして拒絶の意もこめて彼女は言った。
「俺は“魔王”を倒しにこの“世界”に来た」
蒼慈の言葉に周りの兵士達は呆れた顔をする。
彼らの心情としては“こいつ頭がおかしいんだな”と言ったところだ。
「・・・」
預言者は無言。
数秒、彼女にとっては数時間に感じたかもしれないが彼女は口を開いた。
「あなたはもしかして・・・“契約者”ですか?」
「当ったり~♪」
蒼慈が肯定すると預言者の顔が目に見えて変わる。
「ユクネイル様、この賊はどうやら頭がおかしいようです。我々にこいつを討伐する命令を・・・ユクネイル様?」
「エレナ・・・至急王に報告しなさい」
「は?ど、どうしたのです?」
「王に伝えなさい。“契約者が現われた”と」
「契約者?」
「いいから行きなさい!そして、クレイ」
ユクネイルに言われエレナは1人で城の方へと戻っていった。
「はっ!」
クレイと呼ばれた魔法使いが反応した。
「この者達を客人として城に連れ行きなさい」
「きゃ、客人として、ですか?」
「客人としてです。どんな小さなことでも粗相のないように」
「は、はい!了解しました!」
そういうとクレイは蒼慈達の方に走ってきた。
そして、ユクネイルはそのまま数人の者達と一緒に城へと戻っていった。
「ユクネイル様のご好意に感謝しろ。今からお前達を客人として城に案内する」
そうクレイは言うだけ言って、フレアの元へと駆け寄った。
「大丈夫ですか!?フレア様!」
「えぇ、大丈夫です」
「あいつらに何かされなかったのですか!?」
「特に・・・何も」
「本当ですか!?」
「ちょっと、いくらなんでも心配し過ぎじゃないかしら?」
華奈恵が、フレアが無事かしきりに確認するクレイに言った。
「貴様等が指を切るなどと言ったせいだろ!」
「私は言ってないわよ」
「っ・・・屁理屈を・・・」
「それに私達はお話してただけだしね、ねぇフレア?」
「貴様っ、フレア様になんて口の利き方を!」
「いいのよ、この人達には何を言っても無駄だから」
「おぉ、流石フレアっち。わかってるじゃん」
「誰がフレアっちよ!」
そんな蒼慈達とフレアの会話にクレイは訳がわからない、というような顔をしていた。
「そんなことより、あそこに倒れてる、正確には俺が倒したんだが、あの人ほっといていいの?」
蒼慈がそう指差しながら言うとクレイはその指の指す方向を見て、
「り、リンセス!・・・やべ、忘れた!」
「まぁ、影薄そうだもんね」
「そうなんだよ・・・って、貴様には関係ないことだ!」
微妙にノリツッコミしながらクレイはリンセスと呼んだ男に走りよっていった。
「じゃ、そろそろ俺達も移動したいんだけど・・・」
チラリと兵士の方へと目を向ける。
すると兵士から殺意の篭った視線だけが帰ってきた。
「ありゃ?嫌われちゃった?」
「当たり前でしょ、使えてる主人にあんなことされて嫌わない方がおかしいじゃない」
さっきまで黙っていたフレールが言った。
「そりゃそうか」
「そんなことよりソウジさん」
「ん?」
セリーヌが呼んだので蒼慈はそちらへと顔を向ける。
「“契約者”ってなんですか?」
「さぁ?詳しいことは華奈恵に聞いて。俺は自分が“契約者”って知ってるけど、それがどういうことなのかは知らない」
「そうですか、じゃあ一つだけ聞かせてください。あなたはこうなることがわかってたんですか?」
「いや、全然。全く持って予想外だけど?」
その言葉にセリーヌ達は固まる。
「そ、そうですか・・・」
「ま、それよりも城へ行こう。なんか知らんけど客人扱いだし、“魔王”のこと聞けてないし」
そう言って蒼慈はフレアとクレイ達を置いて城があるだろうと思われる方向へと足を向けた。
それに華奈恵達も続く。