24話
「さぁ、どうする?どうする?」
ニヤニヤと笑みが絶えない蒼慈。
「貴様・・・何が目的だ?」
「こいつの命」
「なっ!?」
「冗談だ」
「っ!!」
女は蒼慈にからかわれたことに怒りを覚え、蒼慈に殺気をより放つ。
「そんなに怒るなよ。美人な顔が台無しだぞ?」
「・・・ナメているのか?」
「どうだろうね。それよりそこの魔術師さん、変な動きしたらこいつ殺すよ?」
その言葉に無詠唱魔法を放とうとしていた男がビクリと反応した。
…こ、こいつ一体何者なんだ!?普通無詠唱魔法には気付かないだろ、気付かれない自信もあったのに・・・
「それに、俺にはまだ仲間がいるんだぜ?」
そう言って蒼慈は目線を華奈恵達の方へと向ける。
その目線の先を追って、女はさらに顔を歪める。
「何が目的だ」
女はもう一度同じセリフを蒼慈に言った。
「俺の目的は一つ。この王都にいる預言者の身柄だ」
「!?・・・理由を言え」
「・・・」
「理由を言え!」
「お前さ、一応この状況わかる?」
「分かっている!だから聞いているのだ!」
「・・・はぁ~。お前が俺の機嫌を損ねれば、この女を殺すとは考えないのか?」
「っ!?」
女は蒼慈の言葉に固まった。
「『言え』じゃないだろ?『教えてください、お願いします』だろ?」
「っ・・・お、教えてください、お願い・・・します」
目線で蒼慈を殺すかの如く女は蒼慈を睨み付ける。
「嫌っぷ~」
「・・・き、貴様!!!」
女は真っ赤になって怒鳴る。
「はいはい。動くなっての、こいつ殺すよ?」
「くっ・・・」
「理由を言ってそれでそっちが納得する内容なら、こんなことしないってば」
「・・・今代の預言者は今、床に伏せっておられる」
「だから?」
「だから、だと!?ここに連れて来れば死ぬかもしれないんだぞ!」
「んなもん知らん。用が済めば死のうとどうなろうと俺には関係ない」
「何処までも卑劣な奴め!」
「口調には気をつけろよ?こいつの首が飛ぶぞ。それとも俺が傷つけないとでも思ってるのか?指を一本づつ切り落としてやろうか?」
「っ!」
「とっととここにつれて来い。こいつとどちらの命が大切なんだ?」
「き、貴様・・・」
「まずは小指からかな?」
「ま、待て!あ、いや、待って・・・ください」
尻すぼみになり、最後の方は声が小さくなっていて聞こえづらい。
「聞こえない」
「・・・待ってください。お願いします」
「自分の立場を理解するのが遅いな。こんな奴が王女を守っているとは、この国も終わりだな」
「くっ・・・」
女は何も言い返せない。
下手に言い返せば蒼慈の機嫌を損ねることが分かっているのだ。
「今から10分だけ待ってやるよ、預言者をとっとと連れて来い」
「じゅ、10分!?それはいくらんでも無理だ!早くてもここから王城まで30分は掛かる!」
さっきまで黙っていた魔術師の男の方が蒼慈に向かって言った。
「そうか、なら10分おきにこの女の指を一本づつ切り落としていこうか」
「なっ!?」
「足も合わせて合計10本。1時間40分も時間があるじゃないか」
「ま、待ってくれ!それは流石に無理と言うものがっ」
「黙れ。早く行け、今から・・・スタート!」
「え、ちょ、待ってくれ!」
「もう始まっているぞ?右手の小指がなくなるまで後9分53秒」
「「っ!?」」
そう蒼慈が言うのを聞くと男と女は同時に王城の方へと走っていった。
「いやはや、早いねぇ~」
ははは、とこの場に似合わない笑みを浮かべる蒼慈。
「じゃあ、ここで待ちますかぁ」
そう言って蒼慈は抱えていた女を離した。
その瞬間、その女が走り出すが、
「あぅ!」
何もないところからゴンという音がして、走り出した女が額を抑えてしゃがみ込む。
「あ、言うの忘れてた。結界張ってあるから」
「くぅ~」
女は蒼慈を睨み付ける。
「そんなに痛かったか?」
そう言って蒼慈は女の方へと近寄る。
「蒼慈。もうやめといたら?その子相当ビビってるわよ?」
「流石にやりすぎなんじゃない?」
華奈恵とフレールが蒼慈に言った。
その横で蒼慈に冷ややかな目線を送るセリーヌがいた。
「どうせならちゃんと相談してもらえませんか?」
「あの時思いついたんだもん、仕方ないっしょ?」
その言葉に蒼慈と座り込む女以外の皆がため息をついた。
「それに、こんなことしたらこの国にいられなくなるわよ?」
「そのための『馬車』だよ」
華奈恵の非難を込めた言葉に蒼慈がそう返す。
それを聞いて皆が一瞬固まり、次の瞬間ため息をついた。
「それに、“魔王”倒せば俺は元の世界に帰るし、この国関係ないじゃん?」
“元の世界”という言葉に座り込んでいる女がピクリと反応したが、誰もそのことには気付かなかった。
「残された私達はどうなるんです?」
セリーヌが蒼慈に問う。
「一緒にこっち来る?」
軽い調子で蒼慈が答える。
その言葉にさらにため息を皆がつく。
「なんか・・・ねぇ」
「はぁ~・・・ねぇ」
「確かに・・・ねぇ」
華奈恵達は互いに何か納得したようだった。
「まさかこの国に喧嘩売るとは思わなかった~」
そう言ってフレールはドサリと地面に座る。
「国に喧嘩売るような奴にフレールは喧嘩を売ったんだよ」
はははと笑いながら蒼慈はフレールに言った。
その言葉にフレールは少し顔を歪める。
「あれは悪かったわよ。まさかアレでキレるとは思わなくて」
「俺はアレでしかキレないけどな」
「今度から気をつけるわよ。次は無さそうだし」
「賢明な判断だな」
蒼慈はまた、はははと笑ながら答える。
そんな蒼慈達をありえない物でも見るかのような目で女は見ていた。
「何?そんな目でこっち見てさ・・・」
蒼慈かそう問いかけると女はビクッと怯えたような反応をした。
「あぁ、なるほど。そうか・・・」
蒼慈はニヤリと笑みを浮かべる。
その顔を見て華奈恵達は額を押さえながらため息をついた。
「もう10分経ったのか」