23話
「この依頼受けたいんですけど、いいですか?」
蒼慈が受付の女性に依頼書を見せている。
「この依頼はランクが最低A-必要ですが、どなたかその条件を満たしている方はいますか?」
「フレール」
蒼慈は後ろに立っているフレールを呼ぶ。
しかし、
「フンッ」
さっきセリーヌを戦わせたことを怒っているのか、フレールは目に見えて不機嫌だった。
「フンッ、て子供じゃないんだからさ」
「・・・」
「せっかくセリーヌが頑張ってこの依頼を受けれるようになったのに」
「ヌヌヌ・・・」
「それに元はと言えばフレールがこの依頼やりたいって言ったのに」
「くぅ・・・」
「仕方ないか・・・諦めるか、せっかくセリーヌ頑張ったのに、元は自分のせいだって言うのに、あ~あ。仕方ないか・・・」
「分かったわよ!ほらっ!」
勢い良くフレーるがギルドカードを受付の人に見せた。
「は、はい。確認しました。では後で依頼人のところへ行ってそこで詳細を聞いてください」
「怪しいな」
「怪しいわね」
「怪しいですね」
「怪しい」
上から順に蒼慈、華奈恵、セリーヌ、フレール。
「なんで依頼人がいる場所が森の中なんだ?これは普通なの?」
「んなわけないでしょ」
蒼慈の問いにフレールが答えた。
蒼慈達は依頼人の元へ行くため依頼書に記載されていた宿屋へと向かったが、そこの主人に、
『あぁ、依頼を受けたのか。その人たちから伝言を預かっていてな。この町の東の門から出た先にある森の中で待っていると伝えてくれと言われたんだ』
それを聞いてさっそく森へとやってきたわけだった。
「にしてもなんで森の中なんだよ・・・ありえなくねー?」
「なにかしら理由があるのでしょうか?」
「こういう時は大抵が身分を隠さなければいけない貴族とかが多いわね」
「ほぅ。それはそれは、だからこの報酬か。にしても依頼書に書いてあった火山までの護衛ってさ、そんなに危険なわけ?」
蒼慈達が受けた依頼の内容は、
護衛任務
ヘルドール火山まで我々を護衛してもらいたい。
道中は危険なため、腕に自信がある者に限る。
という物だった。
「あまり聞いたことないけど、宿屋の主人曰く、盗賊とかランクがD~Cランクのモンスターがよく出るらしいわ」
「それはまぁ・・・て、結構簡単じゃないか?」
「ランクCのモンスターを簡単に倒せるのはあんた等ぐらいよ」
若干呆れ顔でフレールは蒼慈と華奈恵を見た。
「ふぅん」
何を思ったのか蒼慈は一人うんうんと頷いていた。
「あ、あそこに人がいますよ!」
セリーヌは森の奥を指差して言った。
「お、ほんとだ。お~い」
その人影に手を振りながら蒼慈は奥へと進んでいった。
「あなた達が依頼人?」
「えぇ、そうです。それにしても・・・腕には本当に自信があるので?」
依頼人は全員で4人いた。
その中の一番長身の者が蒼慈達の声に反応してきた。
「もちろん」
「失礼ですがランクの方は?」
「E-」
「E-よ」
「Cです」
「A-」
言わずとも分かるが、上から蒼慈、華奈恵、セリーヌ、フレール。
「・・・実力があるのは貴方だけですか」
そう言って男はフレールの方を見る。
「失礼ですが、今回の依頼はなかったことにしてもらえませんでしょうか」
男は呆れたような顔でそう言った。
「どういうことかしら?ちゃんとギルドの承認は得ているわよ?」
男に華奈恵が言い返す。
「今回の火山へ我々が行く目的は貴方達には理解できないほど重要なことなのです。ですから、失敗は許されませんん」
「なるほど。俺達だと失敗すると?」
「はい」
蒼慈が尋ねるとなんの躊躇もなく男は言った。
「なるほどなるほど。そんなにも重要なの?」
「はい」
男は答える。
「ランクSの護衛。ここでは下のランクの者は上位のランクの依頼を“見る”ことすらできない。そしてこの報酬の額。その上、商人とは思えないのに商人の格好をしている依頼人」
ニヤリと笑いながら蒼慈は言う。
その言葉に男の眉がピクリと反応した。
「これはただの護衛ではないな。あんたの後ろにいる杖を持った男と剣を持ってる女、相当な腕だ。それこそ護衛がいらないほどにな」
「・・・」
男は無言。
「最近噂で聞いたんだがな」
蒼慈は宿を探したり、買い物をしているついでに色々と町の人間と話すことがあった。
そこで気になる噂を聞いたのだ。
「冒険者の中から王女の近衛兵を決める、とな」
すると途端に男の後ろにいる物の雰囲気が変わった。
「貴様・・・何者だ?誰にこのことを聞いた?」
「噂を聞いただけだ。後は俺の推測。まさか本当だったとは」
そこでまたニヤリと蒼慈は笑みを浮かべた。
「生きて帰れると思うなよ?」
そう言うと女は剣を抜いた。
それに合わせるように横にいた杖を持った男も臨戦態勢に入る。そして、さっきまで話していた長身の男は残りの小柄な女性を抱いて後ろへと下がった。
「図星だったか、となるとそいつが王女か、まぁ多少は変装してるんだろうけど」
「だったらなんだ!」
そう言うと女は蒼慈に剣を振り被って迫った。
「だったらこうだ」
女が剣を振り下ろした先に蒼慈はいない。
「なっ!?」
女の攻撃はかなりの早さだった。
同じ剣士としてそれを見ていたフレールは思った。
…早いなんてもんじゃない。これはSランクレベルか、それ以上・・・
女は目線を上げて辺りを見渡し、驚愕に目を見開く。
そこには倒れる長身の男と蒼慈によってナイフを首に突きつけられている小柄の女性がいた。
「き、貴様っ!!」
「動くな、動けばこいつを殺すぞ?」
どこの悪役だと内心思いながらもその行動を見守るセリーヌと華奈恵。
「その方がどなたか分かっているのか!」
女は蒼慈に向かって叫んだ。
「さぁ?んなもん知らんし、興味もない」
「な、なんだと!?」
「さぁ、どうする?」
「っ!・・・どうする、だと?貴様は自分が何をしているのかわかっているのか!」
「もちろん。どっかの国の王女様を人質に身代金の要求している」
「それが分かっていて、無礼だとは思わんのか!」
女は目線で蒼慈を殺すかの如く睨みつけるが、蒼慈はそれを気にもせずさらりと流す。
「・・・これが終わったら貴様の命はないぞ」
女はドスの効いた声を出す。
「これが無事に終わればな」
「っ!」
今にも蒼慈に走りだそうとしている女に蒼慈はニヤニヤと笑みを浮かべる。