22話
「おい、それは俺らが今から受けようとしてたとこなんだよ」
この瞬間蒼慈と華奈恵はデジャブに近いものを感じただろう。
「俺が今ちぎったよねこれ。こういうのって早いもの勝ちだと思うんだけど?」
「あぁ、そうだな。普通は早いもの勝ちだ。“普通”はな」
そして、男はニヤリと意地汚い笑みを浮かべる。
男は戦士なのか背中に大きな斧を背負っていた。
男の後ろには4人ほど似たい様な体格の者達がいた。
「ここは“普通”じゃないと?」
「あぁそうだ。さっきモッドの旦那がてめえ等に忠告しただろ?ここは弱肉強食だと」
さっき蒼慈に話しかけてきた男はモッドと言うらしい。
「確かに聞いたね。でも、だからと言ってこの依頼をあんた等に譲る理由にはならないだろ?」
「あぁん?俺の言ってることがわからねぇのか?」
「ここは弱肉強食。そして、今の時点で強者は・・・俺らだ」
蒼慈は睨む男を睨み返して言った。
「てめえ等が強者?はははは・・・笑わせるなよ餓鬼が」
「なら試すか?」
「くくくく。いい度胸だ。でもこの世界じゃ生きていけないなぁ」
「ふっ・・・セリーヌ」
「はい」
「リハビリついでに1発かまして来い」
「わかりました」
そんなことだろうと思っていた、とでも言う風にセリーヌは蒼慈の言葉に従いギルドの外へ出るために階段を先に下りていく。
「おいおい。女に頼りっきりか?しかも一人とは、舐めた真似してくれてんじゃねぇか」
「所詮脳筋が。あんまりがっついてるとお里が知れるぞ?」
「っ!?・・・この糞餓鬼・・・」
「セリーヌを倒せたら相手してやんよ。倒せたらな」
「はっ!後で泣いても知らねぇぞ!」
そう叫んで男も後ろに続く男達を連れて階段を下りていった。
「ちょっとソウジ!」
「ん?」
「姉さんに何かあったらどうすんのよ!」
「大丈夫だって。」
「何が大丈夫なのよ!いくら姉さんでもあの男達全員を相手にしたら勝てっこないわ!」
「大丈夫大丈夫。それに・・・」
「・・・それに?」
「この程度で負けるなら、いらねえよ」
瞬間蒼慈の周りの空気が冷える。
「っ!?」
それを感じてフレールは思った。
…もし姉さんが負けたら本当に見捨てるつもりだわ・・・
「まぁ、負けるなんてことは万が一、いや億が一にもないと思うけどねぇ~」
はははと笑いながら蒼慈も階段を下っていった。
そしてそれに無言で華奈恵が続く。
蒼慈と契約したことでセリーヌの力がかなり上がっていることはフレールも知っていた。
しかし、相手はAランク以上の熟練者。
それが5人ともなれば勝てるとは思えなかった。
「っ!!」
この戦いを止めるべくフレールも急いで外へと向かった。
フレールが1階へ降り、外へ出た時にはすでに戦いは始まっていた。
「そんな女ぶっ飛ばしちまえ!」
「ここのルールを叩き込んでやれぇ!」
野次馬の最前線まで人を掻き分けて出てきたフレールの横の野次馬達が大声を上げていた。
そして、それらの全ては姉のセリーヌに対する暴言。
そんな中フレールは余裕な顔で男たちと向き合っている姉を見た。
「あらあら。私のためにこんなにも観客が来てくれるなんて、なんか嬉しいものですね」
「えらい余裕じゃねぇか。その綺麗な顔をグチャグチャになっても知らねぇぞ」
「フフフ。いつでもいらっしゃい」
セリーヌの挑発に苛立ちを隠せない男達。
ある男は大剣を、ある男は大斧を、またある男は槍、そしてグローブをはめている者が一人、最後にメイスを盛った者が一人。
全員が全員近距離戦闘専門の武器を持つもの達。
それでいてランクがA-以上と言うことは、もちろん魔法使いを倒すことにも慣れている。
「このアマァ、舐めやがって・・・いくぞ!!」
先頭の男の叫び声と共に全員がセリーヌに向かって走り出す。
しかし、全員が固まってるわけではなく散り散りになりながら全方向からセリーヌを潰そうとしている。
魔術師の攻撃は大抵が範囲魔法や直線型魔法であることから、全方向からの攻撃が最も魔術師に対して効果的である。
やはり、この男達はかなりの熟練者であり、それなりに理にかなった戦法と言える。
「脳筋に見える割には・・・でも、遅い」
『激流よ、我が命じるままに流れよ。地下水!』
この技は普通の魔術師にとってはかなりの魔力を消耗するためそう簡単に打てる物でもないし、なによりこれほどにまで簡略化した詠唱でこれほどの威力が出ることは普通の魔術師ではありえない。
それにも関わらず、セリーヌの足元から発生した津波は全方向へ向かって流れ、男達全員を押し流していく。
この技をここまでコントロールするのなら、並みの魔術師はこの1発で気を失う可能性だってある。
それほどの技をセリーヌは意図も簡単にやってのけた。
「私をそこらへんの魔術師と一緒にして欲しくはないわね」
ニコリと笑みを気絶している男達に向けるセリーヌ。
「ね、姉さん!大丈夫なの!?」
フレールがセリーヌの身を案じて駆け寄ってくる。
本人もそれが愚問だと分かっていたが、聞かずにはいられなかった。
「大丈夫もなにも、余裕過ぎるわ」
その時のセリーヌの顔が、あの時の蒼慈に少し似ているなどとは口が裂けても言えないとフレールは思った。
「てなわけで、この依頼は俺達がやるから」
気絶している男の前にしゃがみ込み蒼慈は依頼書をヒラヒラさせながら言った。
「じゃ、受付に行きますか」
と、蒼慈はギルドの中へと向かっていった。
華奈恵もそれに続く。
「な、なんつぅ威力だよ・・・」
「あいつ何者だよ・・・」
「名前聞いたことないぞ」
野次馬はあまりにも一瞬で終わったために少しばかり固まっていたが、ポツリポツリと呟き始めた。
そして、そんな野次馬を他所にセリーヌはフレーヌを連れてギルドの中へと入っていった。
残されたのは野次馬達だけだった。
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