18話
いつもより頑張って長めに・・・
「てかさ、王都までどれくらいかかる?」
「4日ほどかな」
「・・・かかり過ぎだろ」
「そんなもんなの!」
「・・・はっ!今名案が浮かんだ」
「龍はなしだからね」
「大丈夫。そこらへんは心得たつもりさ。・・・てなわけで、体力強化!筋力強化!」
蒼慈は馬2頭に補助魔法を掛けた。
「今の補助まほ・・・うわあああああああ」
途端フレールの絶叫がこだまする。
ボーっと外を見ていた華奈恵とセリーヌは驚いてフレールの方へと顔を向けるが、
「「きゃあああああああ」」
彼女らが状況を把握する前に絶叫が再び。
馬車はもの凄い速度で走っていた。
「これなら間に合うかな?」
「し、死ぬ!止めて止めて!」
「ちゃんと手綱握っといてくれよ、フレール。・・・それと硬度強化。これでよし、と」
壊れないように馬車全体にも強化魔法をかける。
「よ、よくない!!止めてぇぇええええ!」
フレールの絶叫がこだまする中、先に落ち着きを取り戻したのは華奈恵だった。
「全く、ちゃんと馬は王都に向けて走ってるのかしら?」
「大丈夫だって。方向はあってると思うし」
「て、適当ですね・・・」
若干青ざめながらセリーヌが言った。
「まぁ、なんとかなるさ。流石にこのまま4日なんて耐えられないし」
「それは一理あるわね」
「確かに、旅ってこんなにつまらないものだなんて思ってもいなかったですし、こっちの方がいいですね」
「よくないいいいいい!!!」
一人だけ否定の声を上げるフレール。
「ま、これなら1日とかからないだろ」
普通にスルー。
「ちょ、私が死ぬから!こ、これ死ぬって!ちょ、ほんとにっ、グフッ!」
木の枝が顔面に当たったようだ。
「・・・ドマイ」
「言うことはそれだけかああああ!!誰か止めてええええ!」
一行はそのまま高速で走り続けていた。
「も、もぅ・・・無理」
フレールが力尽きた。
「え?マジで?ちょ、フレール」
馬はあらぬ方向へと走りだす。
「フレール!起きて起きて!」
気絶しているフレールに呼びかける蒼慈。
「・・・」
あらぬ方向へと走っていってしばらく経った後、蒼慈が無理やり御者台に座り馬を止まらせた。
「蒼慈、馬扱えたのね」
驚いた声を華奈恵が上げた。
「適当だよ・・・流石に死ぬかと思ったっての」
「それはこっちのセリ・・・うっぷ」
木陰でフレールがうずくまっていた。
「大丈夫?」
セリーヌが彼女の背中をさすりながら優しく声をかける。
「あ、ありがと、姉さん・・・気持ちは悪いし、顔は痛いし、もう散々」
「それよりここは何処なんだよ・・・フレールが手綱を放したりなんてするから・・・」
「仕方ないでしょっ!だって・・・うっぷ」
「・・・はぁ~。まぁ、なんとかなるかな・・・」
―――ガサガサ
「ん?」
ふと茂みの方へと目をやる蒼慈。
あたりはそれなりに暗くなっていたため、蒼慈は目を凝らしてそれを見ようとする。
その時、茂みから何かが飛び出して来た。
「動くなっ!」
飛び出して来た何かが、蒼慈らに向かって声を上げる。
「山賊!?」
瞬時に立ち上がり剣を抜いて構えるフレール。
まだ、顔色はよくないが、鋭い目つきに変わっていた。
山賊と思われる人影は全員がフードを被っていた。
「あぁ、そうだ。悪いけど痛い目を見たくなければその馬車を渡してもらおうか」
「女?」
山賊は5人いた。
その先頭に立って蒼慈達を脅している者はどうやら女性のようだった。
「だったら何だ?どの道ここで死ぬような人間には関係ない話だろ?」
先頭に立つ女山賊が蒼慈にそう言う。
「穏便に話し合おうじゃないか」
なんて言ってみる蒼慈。
目の前に立つ山賊は蒼慈と同じくらいの背丈だった。
「はっ!死にたいのか?とっととその馬車を置いて消えてもらおうか」
「・・・華奈恵」
蒼慈はその状況を見守っていた華奈恵に声を掛けた。
その蒼慈の声に華奈恵はコクリと頷き、魔力を集める。
「っ!?・・・お前、魔術師か!」
先頭にいる山賊のすぐ横に経っている長身の山賊が驚いた声をあげた。
そしてすぐさま懐の剣を抜き放ち華奈恵に迫る。
―――キンッ
甲高い金属音が鳴る。
山賊の剣をフレールが受け止めていた。
「・・・ほぅ。私の剣を止めるとは・・・」
声からしてその山賊も女のようだった。
「一人じゃそれくらいが限界だろっ!」
その山賊の後ろから大きな影が二つほどフレールへと迫る。
「吹っ飛びなさい、ウィンドスライサ!」
その時、華奈恵の魔法が発動した。
華奈恵の目の前から発生した風の刃が二つの影へと迫る。
「ぐっ!早いっ!」
影の一人が呻きながら、その風の刃を剣で受け止める。
「っ!?」
暗くてよくは分からないが、華奈恵が驚いたのが分かった。
「・・・魔法を受け止めるなんて、なかなかやりますね。ですが、こっちにも魔術師はいますよ!」
セリーヌが叫ぶ。
『激流よ、目の前の敵を飲み込め。地下水!』
突如、二人の山賊の足元から水が噴出す。
「何!?」
その水はそのまま二人の山賊を飲み込み、後ろの方へと流して行った。
「ちっ」
フレールと剣を交えていた山賊が舌打ちをした。
そして、そのままフレールからバックステップで離れる。
その時。
『光よ、荒野に降り注げ。光の雨!』
途端、眩い光がその場を包み込み、次の瞬間にはまるで槍の様に光の魔法の塊が当たりに降り注いだ。
「まさに光の雨だな・・・守れ、ダークネスバリア」
光と相反する闇の魔法が蒼慈達の頭上にドーム型のバリアとなって現われる。
「なっ!闇魔法!?」
レイレインを放った山賊の長的な女性が驚いた声を上げた。
驚くのも当たり前である。闇と光の魔法はどちらも上級魔法であり、この世界で使える者はだいぶ限られている。
上級魔法を使う者であれば大抵名を知られている者のはず。
しかし、
「お前達・・・一体何者だ?」
山賊のリーダーが蒼慈達に問いかける。
彼女の横には流された2人以外の残りの2人が両脇に控えるように立っている。
「さぁ?何者なんでしょうね」
「とぼけるな!殺されたいのか!?」
「はははっ。さっきの光魔法は結構な大技だったと思うんだけど・・・大したことなかったね」
「っ!?」
蒼慈の言葉に山賊は動揺を隠せないでいた。
そう、さっきの魔法はかなりの魔力を消費した、彼女の最大の魔法だった。
それを目の前にいる男はいとも軽くあしらって見せた。
「図星か・・・セリーヌ」
「はい。なんでしょう」
蒼慈はいつの間にか横に立っているセリーヌに話しかける。
「光魔法ってのは誰でも使えるの?」
「いえ、上級魔法なのでそう誰でもというわけにはいかないはずです」
「・・・なるほど。あんたこそ一体何者?ただの山賊には見えないんだけど」
「貴様らには関係のないことだ!」
「・・・そう。隠す気?その横に立つ人もそうだけど、明らかに訓練されたような動き、そして貴方自身もどこか気品さが見られる」
蒼慈は無言のままの山賊3人にそう言って言葉を続ける。
「どこかの貴族の者か?」
ビクッと山賊のうちの今まで何もしていなかった者が震えたのがわかった。
「当たりか・・・場合によってはこの馬車をくれてやってもいい」
「なっ!?蒼慈!?」
「本当か!?」
華奈恵と山賊のリーダーらしき女性が同時に反応した。
「大丈夫だ、華奈恵。そんなに急いでるわけでもないだろ?」
「・・・まぁ、そうだけど・・・」
「と言うわけだ。あんたが何者なのか教えてくれれば、この馬車はやるよ」
「・・・」
山賊のリーダーらしき女性はしばし考えるように下を向く。
彼女の横にいる2人はしきりに彼女に耳打ちをしていた。
「わかった。その話、乗った」
「!?」
山賊の両脇に立つ2人が驚くが、すぐに呆れたような感じでため息をついた。
「これから言うことは他言無用。言えば殺す等という脅しが通用しない、だからこれはあんた等の良心に掛けるしかないが・・・」
「あぁ。信用してくれ。・・・とは言っても信用できないだろうけど、信じてくれとしか言い様がない」
「・・・この取引をしてあんた等には何の得もない」
「あぁ・・・まぁ、そこは好奇心が満たされるってことで」
ヘラヘラと笑いながら蒼慈は山賊のリーダーのような女性に言う。
「私達は・・・スパイなんだ」
そう彼女が言うといつの間にか起き上がってきた山賊を含む全員がフードを脱いだ。