17話
「なんもないな・・・」
「えぇ。思った以上に面白くないわ」
「そうですね。景色も、もう飽きちゃいましたし」
「普通は御者が何か面白いことをしてくれるんじゃないのか?」
「せめて景色が変わるように走ることはできないのかしら」
「流石につまらないですね」
蒼慈と華奈恵とセリーヌはしばらく走った後、口々に文句を言い出した。
「もうっ!普通はこんなもんなの!私のせいじゃないんだから!」
旅はしたことはないが、目的地まで1日ほとかかるところへ馬車で行ったことがフレールには多々あった。
そして、そういう時は大抵同じような風景が続いているようなものなのだ。
「仕方ない。ここは俺のトークで盛り上げるしか・・・」
「ねぇ、蒼慈」
「・・・待て。今、考えてるとこだから」
「誰もトークの事を言ってるわけじゃないわ」
「・・・?」
「思ったんだけど、蒼慈、龍とか召還したら帝都まで一瞬じゃないの?」
「・・・」
「・・・」
蒼慈とセリーヌは固まる。
「確かに・・・」
「龍を召還・・・?」
華奈恵のナイスアイディアに驚く蒼慈。
軽々と龍を召還などと華奈恵が言ったことに唖然とするセリーヌ。
「4人を乗せれる龍くらいなら簡単に召還できそうだな・・・」
蒼慈の言葉にさらにギョッとするセリーヌ。
「え?りゅ、龍!?いくらなんでもそれは無理なんじゃ?」
御者台の方からフレールが振り返り言う。
「大丈夫だよ。てか、召還ってのはそんなに難しいのか?」
「あ、当たり前です!」
セリーヌは昔、元気だった頃はフレールと一緒に戦う時に魔法をメインで使っていたらしい。
そのため、そういった魔法への知識も豊富だった。
「召還魔法、錬金術、飛行・転送魔法、亜空間魔法などというものは、この国、いえ世界でもほんの一握りの人間しか使うことはできません。そのうえ、魔法を行使するために多大な対価、つまり何人もの優秀な魔術師を集めなければなりません。そのなかでも異次元への扉を開き召還をするのは魔力をかなり消費するんです」
セリーヌの魔法の知識は目を見張るものがある。彼女はベッドから出れない時は大抵魔法の本を読んでいたらしい。
「低レベルのモンスターなら、才能があれば個人で召還することも可能ではあります。しかし、龍ほどのモンスターを召還するのは不可能です。そもそも何人集まろうとも龍の魔力に合うだけの魔力を人間が出せるはずがありません」
「そうなのか・・・まぁ、そう言うセリーヌも龍なら頑張れば召還できると思うけど」
サラッとそんなことを言う蒼慈。
「私が・・・ですか?」
「うん。大体どれくらいの魔力がセリーヌに今あるのかわかるし、それぐらいあれば龍の1,2体ならなんとかいけそうな気がするんだけど」
龍はこの世界ではほぼ最強の生命体だ。
国には竜騎士と言って、龍を使役っする騎士がいるが彼らが扱う龍は最も知能の低い龍でランクもそれほど高くない。ランクにしてだいたいCランク。
ちなみに依然蒼慈が倒した岩龍はBランク
しかし、蒼慈は4人を乗せる龍と言った。4人が乗ろうとするならそれは、
「最低でもAランクですよ。そんな龍は」
「?モンスターにもランクとかあるの?」
「えぇ。冒険者のように細かい+や-はありませんが、大まかにならランクづけがされています」
「へ~」
「下からG~A、S、SS、SSSランクとなっていて・・・」
Gランク。最も弱いモンスターで人間に対して害がほとんどない。
Fランク。1匹ではそれほど強くはないが集まるとやっかいなモンスター。
Eランク。冒険者に討伐が依頼されるレベル。そして、個人が召還んできる最高レベル。
Dランク。Bランク以下の冒険者がパーティーで挑むレベル。
Cランク。龍族の最低レベルで、大勢のBランク以下の冒険者が集まって倒すレベル。
Bランク。ボスクラスモンスター。人間が太刀打ちできる限界レベル。Aランク以上の冒険者がパーティーで挑むレベル。
Aランク。Sランク以上の冒険者、つまりは大隊長レベルの人間が何人も集まり倒せるかどうかのレベル。
Sランク以上。これはもはや神などと崇められたりするレベル。
というのがセリーヌの説明だった。
「ふ~ん。前に倒した岩龍はランクいくらなの?」
「Bランクですよ。というかアレを倒すなんて、もはや人外です」
「うわ、人外だってさ、華奈恵。ドンマイっす」
華奈恵は平然とした顔をしていたが青筋が一瞬立ったのを蒼慈は見逃さなかった。
「それで、4人くらい乗れるのはランクBくらい?」
「だからAランクです。そんなのを召還して帝都に行ったら、完全に化物扱いですよ」
「あらま。ちなみにセリーヌはランクBくらいなら1,2体は召還できるよ。ランクAは流石に無理だけど」
「『Bランクくらい』なんて言わないで下さい。十分異常なんですよそれでも」
「ふ~ん。それじゃあ仕方ないか。華奈恵・・・華奈恵の案はボツだってさ。ドンマイ」
華奈恵の顔に青筋が立つ
「ドンマイドンマイ、うるさいわね。言われなくてもちゃんと聞こえてたわよ。私が間違ってました。何か問題でも?」
「別に問題なんてないよ。ただ華奈恵があまりにも得意気にしてたから」
ニヤニヤと顔に笑みを浮かべながら蒼慈は華奈恵の方を見る。
「・・・何よ?ニヤニヤして、そんなに私が間違ったのが面白いわけ?」
怒りモードに入りかけている華奈恵。
「そんなことないよ。セリーヌが言うたびに一瞬シュンとした華奈恵が可愛くてね」
もちろん蒼慈はそんなことは思っていない。
しかし、わかってしまえば華奈恵の扱い方なんて簡単なのだ。
「な、何言ってるのかしら。別にシュンとなんてしてないしっ!」
落ち着きがなくなり、顔を真っ赤にする華奈恵。
何日か過ごしていてすぐに分かったことだが、華奈恵は慣れてないのだ。
元の世界で美人だと周りから思われていたのは事実だが、実際に面と向かって、可愛いだのなんだの言われるのには極端に弱い。
言ってしまえば華奈恵は初心だった。
「あらら。顔真っ赤にしちゃってさ。かっわいー」
さらに追い討ちをかける蒼慈。
早くも華奈恵の性格に気付いたセリーヌは、蒼慈の言葉でさら真っ赤になって慌てる華奈恵に畳み掛ける。
「本当に可愛いです。美人でスタイルも良いのに、そのうえこんなに可愛かったら男なんてイチコロですね」
プシューという音を立てて華奈恵の顔から湯気が昇り、華奈恵は下を向いて固まってしまった。