15話
蒼慈、華奈恵、フレール、セリーヌの四人はフレール達の家へと“契約”について話すために集まっていた。
「私達は“異世界”から来たの」
華奈恵の家に着いてからの第一声にフレール達は驚き声も出せないでいた。
「それで、私達には特別な力があるの。蒼慈の場合はそれが“契約”だったってわけ」
フレールの家のリビングらしき部屋の中央に置かれた机を囲むように、四人は座っていた。
蒼慈と華奈恵が隣に座り、その真正面にくる形でフレール、セリーヌと座っている。
「その“契約”を蒼慈とすると、まぁ、一種の主従関係のようなものが結ばれるわ」
主従関係。
華奈恵はそう今言ったが、
…俺と華奈恵は立場が対等というか、むしろ俺がないがしろにされてる気が・・・
「つまり、あなたのお姉さんは、蒼慈の物になったのよ」
堂々とセリーヌのことを物と言う華奈恵。
そして、華奈恵はフレール達の反応を見るために、一度口を閉じた。
「も、物・・・ですか?」
おずおずとセリーヌが華奈恵に尋ねる。
「えぇ。物よ。所有物」
物ということはいわば奴隷と言ってるようなもの。
しかし、それはあながち間違いでもない。
蒼慈と契約することは、蒼慈から、つまり蒼慈達の世界からの庇護を受けさせてもらうということ。
そして、契約主である蒼慈に対し、契約者の人は逆らうことが許されない。
「蒼慈と“契約”で繋がっている限り、あなたの命は蒼慈の気分次第でどうにでもなるのよ」
「・・・それは・・・」
「つまりは、奴隷よ」
「なるほど。じゃあ、この力はなんなのですか?」
奴隷という言葉に対してショックも受けずにセリーヌは尋ねる。
「あまりショックは受けないのね」
「えぇ。まぁ、そんなことだろうとは思ってました」
「・・・そう。それでその力だけど、それは蒼慈の力の一部が渡されたと思って」
「力の一部?これが、一部なんですか?」
「えぇ。蒼慈にとっては本当にどうでもいいくらい少ない力よ」
そう言って華奈恵は蒼慈を見る。
「大体、1万分の1くらいだな」
なんとなく契約した蒼慈自身はどれほどのものか分かっていた。
「つまりあなたはこの力のさらに1万倍ということですか?」
「まぁ、そうなる・・・のか?」
自信なさげに蒼慈は華奈恵に目を向けた。
「えぇ。そういうこと。ちなみに私も契約者の一人だから」
「なるほど。だからそれほどの魔力が・・・もう一つ聞いてもいいですか?」
「えぇ。どうぞ?」
セリーヌはまだおおきな疑問を抱えていた。
「異世界から来た。というのはなんとなくわかりました・・・」
「確かに。尋常じゃない力だった。私は戦士系だから魔力はあまりわからないけど、あれだけの力があるなら異世界から渡ってきてもおかしくない」
姉の言葉が続く前にフレールが蒼慈を見ながら言った。
「・・・なんのためにこちらの世界へ来たんですか?」
『異世界から来た』と言われた時、最初に思ったことだった。
…一体何のために・・・この世界を滅ぼすために?
「“魔王”よ。“魔王”を倒しに来たの・・・」
「え?でも魔王なんて・・・」
「そうよ。この世界にはいないみたいね」
そう。華奈恵達は“魔王”を倒しに来たのだ。
倒さなければ帰れない。
しかし、肝心の“魔王”がいない。
「“魔王”を倒さないと帰れないんだけど・・・いないんだよね?」
「え、えぇ。魔王という存在自体が伝説ですので・・・」
4人の間に沈黙が流れる。
魔王を倒しに異世界から来た、と言う蒼慈と華奈恵。
しかし魔王というのはあくまで伝説でしかなく、そんなものはいないと言うフレールとセリーヌ。
「倒さないと帰れないってことは・・・もう帰れないってこと?」
フレールが蒼慈へと尋ねる。
「・・・そうなるのかな?」
華奈恵へと話を振る蒼慈。
「たぶんね。私もこんなこと聞いたことがなかったから、わからないけど」
別にこれだけの力があればこの世界も嫌いではないと蒼慈は思う。
でも、
…だからと言って、戻れないってのはな・・・
特段戻りたいわけではない、しかし戻れないのと、戻らなくてもいい、は違うのだ。
「貴方たちはこれからどうするんですか?」
蒼慈達へと疑問を投げかけるセリーヌ。
「それに気づいたのが君を治した日なんだよ・・・どしよっか?」
再び華奈恵に目線を向ける。
「なんで全部私に聞くのかしら?私は蒼慈の保護者ではないのよ?」
若干苛立ちながら華奈恵がその目を睨む。
「・・・はぁ。こっちに俺を連れてきたのは何処の誰だよ・・・魔王なんてひょっこり現われたりしないわけ?」
「さぁ?どうでしょう?私には分かりませんけど・・・」
「それこそこういう時は・・・その、アレだアレ・・・」
「アレ・・・とは?」
「えっと・・・予言だ。予言。なんかそういうのないの?」
「予言・・・ですか?王都になら預言者がいますけど・・・そんな話聞いたことありませんが」
「・・・予言で魔王が出るって出たけど、民が混乱するから言えない・・・ありえることない?」
蒼慈は腕を組んで、若干ムスっとしてる華奈恵に聞いた。
「まぁ、なくはないと思うけど・・・王都にでも行く?」
「そうだな。そうする以外やることもないし」
気づけば、家に来た時と話題が全く変わっていた。
そして、外もだいぶ暗くなっていた。




