14話
「メル!!」
「お父さん!!」
蒼慈達の目の前でメルと父親が抱きしめ合っていた。
「メル・・・心配かけてゴメンよ」
そう言って父親はメルを強く抱き寄せる。
二人は岩龍を見つけた時点で、父親は死んだとばかり思っていた。
しかし、二人の予想に反して、父親は生きていた。
「いやぁ、本当にありがとうございます。まさか岩龍が来るとは思わなくて焦って逃げたら、まさか町とは逆方向に逃げるとは、我ながら情けない」
彼は岩龍が飛んでくるのを見つけ、見つかる前に必死で逃げ出していた。
しかし、運悪く町とは逆方面に逃げてしまい、かといって町の方へ行こうにも岩龍がいたため立ち往生していたという。
「貴方達が着てくれて本当に助かりました。あそこはあの道しかなかったので、あのまま餓死するかと思いましたよ」
彼は蒼慈達に何度も頭を下げた。
蒼慈達にとっては、あそこに道なんてあったかどうかすら分からなかったが、彼が町へ帰るには岩龍のいるところを通るしかなかったらしい。
「なんてお礼をしたらいいか・・・」
彼は蒼慈達に再び頭を下げる。
「あいつら、本当に岩龍を倒しやがったのか?立った二人でか?」
「あぁ。そうみたいだな。さっき岩龍からしか取れない、岩龍石をギルドで換金してたからな」
「ほ、本当かよ・・・一体何者だよ、あいつら・・・」
蒼慈達の後ろの方で冒険者達が数名で話していた。
「別にお礼なんていいですよ」
はははと笑いながら蒼慈は言う。
「どうせなら彼女に言ってください。岩龍を倒したのは彼女ですし」
蒼慈は華奈恵を指差す。
「そ、そうなんですか?すいません、勘違いをしてしまって、何か私達にできることがあれば、何でも言ってください」
「え?・・・あ、その」
いきなり話を振られ慌てふためく華奈恵。
蒼慈はそれを見ながらニヤニヤしていた。
そんな蒼慈を横目で睨みながら、
「お礼なんて、かまいませんよ。これは私達が善意でやったことですし・・・」
「し、しかし・・・」
互いに遠慮し合っている二人を見ながら蒼慈はふと視線を感じて振り返る。
「今度は岩龍か・・・あんた、やっぱり凄いね」
フレールだった。
隣には姉のセリーヌ。
「町にいないと思ったら、また人助けなんかしてたの?」
「まぁ・・・な」
「にしても、そこの父親の足にへばり付いている女の子、メルちゃんだっけ?あの子にはずいぶん優しかったみたいだね」
どうやらギルドで彼女の依頼を受けたことが広まっていたらしい。
「誰かさんと違って、いきなり喧嘩なんて売ってこないしな」
その言葉に苦虫を噛み潰したような顔をするフレール。
「あ、あれは・・・その、ごめんなさい」
挑発気味に話しかけてきたフレールが今はシュンと小さくなってた。
「嘘嘘。別に気にしてない。あの時はこっちも悪かったよ、ごめん」
苦笑いしながら蒼慈はフレールとセリーヌに謝罪する。
「い、いえ!別にあなたは悪くないので謝る必要は・・・その上私のことまで治してもらっちゃって・・・」
こちらもまた、申し訳なさそうに言うセリーヌ。
「あ、あのさ・・・その、ちゃんとお礼・・・したいんだけど」
小さな声でフレールが蒼慈へと言う。
あの程度の情報ではお礼にはなっていなと彼女達は思っていた。
「だから別にいいって・・・」
「蒼慈ぃぃいい」
気がつけば例の親子はすでに帰っており、華奈恵が怒りの形相で蒼慈を睨んでいた。
「私が困っていた時にあんたは女の子とイチャイチャしてさ・・・」
「あ~はいはい。悪かったよ。で、どうなったんだ?」
「あそこ鍛冶屋さんらしくて、なんか困った時に助けてもらうってことで話は終わったわ。それとメルちゃんがありがとうだって」
「ふ~ん。直接言えばいいのに・・・」
「あんたが女の人と話しているのを見て、邪魔するのも悪いとか言って帰ったのよ!」
「あ、そうなんだ。別にたいしたことでもないのに・・・」
「あ、あの・・・」
二人の会話にフレールが割り込んできた。
「え、えっと・・・その、喧嘩はよくないです・・・よ?」
「お前が言うか?」
笑いながら蒼慈はフレールに言う。
「う、うぐ・・・それを言わないで・・・」
さらに小さくなるフレールだった。
「え、えっと、カナエさん・・・ですよね?貴方にもお礼を・・・」
セリーヌがフレールの言葉を継ぐ。
「私は別にいいわよ。治したのは蒼慈だし」
「で、でも・・・」
「それに、お礼はあの時もらったじゃない」
「あ、あれは誰でも知ってるお伽話であって、そんな大層なものじゃ・・・」
「いいのよ、もう。別にいらないって言ってるんだから。それより、あなたセリーヌだっけ?体の方はもういいの?」
「あ、そうなんですよ!調子が良いっていうか、良すぎるっていう感じで」
セリーヌはあの後しばらくして、自分の魔力の量がとんでもない量になっている事に気がついた。
その上、体も軽くなり、治療してもらってから何かと力が増していた。
「“契約”のせいね」
「契約?」
「そう。蒼慈と“契約”すると、かなり力が増えるわ。それも並の強さじゃなく、まさに英雄ってレベルにまで・・・ね」
たしかにセリーヌの力は増えすぎていた。
しかし、まさか英雄レベルにまでとは彼女も考えていなかった。
「ど、どういうこと!?姉さんが強くなったのはわかったけど、それがあの・・・その、えっと、アレのせいだったの?」
若干顔を途中から赤らめながらフレールが華奈恵に尋ねる。
「まぁ・・・“契約”したんだし、いいか。ちょっと話があるから家まで行ってもいい?」
華奈恵は蒼慈に目線で許可を取ると二人に言った。
「え?えぇ、もちろん構いませんが・・・」
「“契約”のことはその時に話すわ。ここじゃ人が多すぎる」
そうじて四人はフレール達の家へと向かった。