12話
連続で・・・更新です。
「・・・おい、華奈恵」
「何かしら?」
「俺達・・・帰れんの?」
「・・・」
「・・・おい」
蒼慈は目の前が真っ暗になったような気がした。
蒼慈はあの後すぐ華奈恵を連れてフレールの家を出た。
フレールが引き止めてきたがそれを聞くつもりもなく蒼慈達はそのまま宿屋へと戻った。
そして、そのまま会話もせずに二人は自分の部屋へと戻っていった。
「華奈恵。どうすんだよこれから」
翌朝、二人はギルドに来ていた。
「別にいいじゃない。蒼慈、そんなに帰りたいようには見えなかったんだけど」
疲れていたわけではないが、なんとなく昨日はそのことについて追求する元気もなく寝てしまったため、次の日になって蒼慈は華奈恵に昨日のことを問い詰めていた。
「そういう問題じゃねーよ。最終的に帰れるとわかってたからだよ。華奈恵は帰りたくないのか?」
「・・・あんまり」
「元の世界の方が良いとか言ってたのは何処の誰だよ・・・」
「・・・そ、そんなことより!今晩の宿代のために何か依頼をこなしましょう!」
話題を急に変えて華奈恵はボードのほうへと歩いていく。
「ドラゴンの鱗売った金あるから別に大丈夫だろ、てか元の世界が滅びるんじゃねーのかよ・・・」
「・・・ぁ」
「・・・何その反応」
「まぁ・・・元の世界の住人はご愁傷様ってことで」
「待て待て。そんな簡単に世界をまるごと見捨てるってどうよ?」
「嘘だって。なんか考えとくわよ。それよりなんか討伐任務しましょ」
華奈恵はボードに貼ってある依頼書を見定めていく。
「ビッグボアでいいだろ・・・」
「あんなんじゃ物足りないわ」
「ストレス解消のためかよ・・・」
ため息を蒼慈がついていた時、不意にギルドの入り口からこの場に似合わない女の子の声がした。
「お願いします。助けてください!」
蒼慈が目を向けた先には、10歳に達するかどうかくらいの少女が机で話している冒険者たちに何かをお願いしている姿だった。
「お父さんを助けてください!」
必死に冒険者一人一人に頭を下げていく女の子。
「お嬢ちゃん、御免よ。流石に報酬がそれだけなのに、そんな無茶な依頼は受けれないんだわ」
「で、でも!・・・」
「それにな、岩龍はなモンスターとしてはBランクなんだよ。Aランク以上の冒険者が何人も集まらなきゃ倒せないんだよ、今、このギルドにAランク以上の冒険者は2人ほどしかいないんだ」
「お、お願いします・・・お父さんが・・・」
「悪いな、俺にはそんな危険を冒す余裕はねぇんだわ。他をあたってくれ」
男は少女の頼みを断り、再び冒険者の輪の中へと戻っていく。
ギルド内のすべての冒険者に依頼を断られた少女は泣きそうになりながらも涙を堪え俯いてその場に棒立ちになる。
「・・・蒼慈。聞いてるの?」
「え?あぁ、なんだ?」
「この依頼はどうかって・・・何?あんな少女が趣味なの?」
華奈恵はいまだあの場から動かない少女を指さして言う。
「・・・」
「聞いてるの?」
またもや蒼慈に無視された華奈恵は若干怒りを含みながら言う。
しかし、蒼慈はそれには反応せず、少女の方へと歩いていった。
「ちょっ・・・まさか本当にロリコン・・・?」
蒼慈は少女の元へと歩いていき、少女の目の前で止まった。
俯いていた少女は蒼慈の気配に気づき顔を上げる。
「どうしたんだい?何か困ったことでも?」
「あ、あの・・・」
「やめときな兄ちゃん。いくら『閃光の戦姫』を倒したからって、岩龍は無理ってもんだ」
少女が蒼慈に何か言う前にさっきまで話していた男が口をはさむ。
少女はそれを聞いて再び俯いた。
「ねぇ、君、名前はなんていうの?」
しかし蒼慈はその男の言葉を無視し、少女の目線の高さに合わせるようにしゃがんで言った。
「・・・メル・・・です」
今度は不思議そうな顔をして少女は蒼慈を見る。
「そっか。メルちゃんか。どうしたの?お兄さんに出来ることなら助けるよ」
ニコリと笑みを浮かべ蒼慈はメルに言った。
「おいおい・・・兄ちゃん・・・」
男は飽きれて蒼慈にはもう何も言わなかった。
「あのね・・・お父さんがね・・・山に行ったきり戻ってこなくて、それで・・・」
少女は涙を我慢するように唇をかみ締め俯く。
蒼慈はそれを咎めることもせず、ただじっとメルが喋り出すのを待つ。
「・・・ろっくどらごんっていうのがあそこにはいるから、きっと食べられちゃったんだろう、って・・・」
「誰がそんなことを言ったんだい?」
「周りのみんな・・・となりのおばちゃんも、そう言ってた」
「なるほど。それで、お父さんを助けるためにギルドへ依頼しに来たんだね?」
蒼慈が尋ねるとメルは違う、という風に首を横に振った。
「お金がないから・・・お願いしにきたの」
…なるほど。さっきの冒険者が言うには、岩龍てのは相当強いわけか。
「じゃあ、そのお願いをお兄さんが聞いてあげるよ」
再び少女に笑顔を向ける蒼慈。
「ほんとに?・・・お父さんを助けてくれるの?」
「あぁ。もちろん」
「でも・・・わたし、お金ない・・・」
「気にしないで。俺は、お金で動く人間じゃないから」
そう言ってまたメルに笑顔を向ける蒼慈。
そんな蒼慈の言った言葉の意味がわからないのかメルは不思議そうな顔をした。
「・・・?お金なくてもいいの?」
「うん。大丈夫だよ」
蒼慈は笑顔をのままメルの頭を撫でる。
途端にメルの顔が崩れていき、蒼慈に抱きついた。
「ふ、ふぇぇぇぇぇぇん」
蒼慈に抱きしめながらメルは泣き続けた。
まだ、父親が助かったわけでもない。
でも助かるかもしれない、というだけで緊張の糸が切れたのだ。
ストックが切れ・・・・ガクッOTZ