11話
ベタです。
ベタベタな展開です。
人を助ける。
…ただ泣いてたあの時とは大違いだな、ははは
心の中で自嘲気味に笑いながら蒼慈は起きて辛そうにしているセリーヌの前に立つ。
セリーヌは蒼慈の姿を見ると途端にまゆをよせた。
「別にあなたを殺しに来たわけじゃない。むしろ、助けに来た」
蒼慈がそう言うとセリーヌは目を見開いて驚いた。
「これで助かるか、失敗したらどうなるか・・・正直、俺にもわからない。でも、今はこれ以外の方法が思い浮かばない。だから・・・」
蒼慈は最後まで言わなかった。
目線でセリーヌに問いかける。
それでもいいのか、と。
セリーヌは状況がうまく掴めていない様子だったが、数秒考えた後、黙って頷いた。
「じゃあ・・・」
あの時は全くわからなかったが、今は頭に言葉が浮かぶ。
…“契約”か・・・やっぱり俺は能力者だったんだな。
蒼慈はセリーヌの顔に自分の顔をぐっと近づけ、唇を重ねる。
重なった瞬間、セリーヌの肩がビクッとなるのを蒼慈は感じた。
蒼慈が唇を離す。
「復唱してくれ」
フレールも蒼慈の行動に驚きを隠せないでいたが、その行動を黙って見守っていた。
「『我、汝との間に契約を結ぶ』」
「・・・『我、汝との間に契約を結ぶ』」
セリーヌが擦れた声で復唱し始める。
「名前を自分ので置き換えて。『我が名は“蒼慈”。ここに契約を結ぶ者の名なり』」
「『我が名は“セリーヌ”。ここに契約を結ぶ者の名なり』」
「『盟約の血に従い、ここに契約を』」
「『盟約の血に従い、ここに契約を』」
「『契約』」
「『契約』」
途端、二人を眩い光が包み込む。
しばらくし、その光が消える。
「・・・ど、どうなったの・・・?」
フレールは期待半分、不安半分の声で蒼慈に尋ねる。
「・・・」
蒼慈は黙ってセリーヌの様子を見ていた。
セリーヌはだんだんと自分の体に変化が起き始めたことに気づいた。
「・・・黒い斑点が・・・」
セリーヌの体を覆いかけていた黒い斑点がだんだんと消えていく。
「・・・まぁ、成功か」
蒼慈は呟いた。
セリーヌとフレールは今起きたことが理解できず、互いに目を白黒させていたが、
「・・・姉さん・・・姉さん!!」
「ふ、フレール!斑点が消えていくわ!」
互いに抱きしめ合う二人。
それを視界の端に収めながら蒼慈は部屋を後にしようと扉へと向かった。
黙って出て行く蒼慈を追いかける華奈恵。
「ま、待って!待ってください!」
蒼慈達を呼び止めるフレールの声。
「お、お礼をっ!なんでもする・・・って言ったから」
「別にお礼なんていらないよ。成功するかどうかもわからない、いわば俺も実験させてもらったんだし」
「で、でもっ!・・・・」
「じゃあ、例のビッグボアだっけ?あれは俺達がやらせてもらう、ってのでどう?」
フレールがビッグボアを倒そうとしたのは、あくまで姉の病気が治るかもしれない薬の材料を得るため。
そして、もうその病気も治ったため、もうビッグボアを倒す必要もない。
「そ、そんなんじゃお礼になってない!」
「ちゃんとお礼をさせてください!」
フレールの後に言ったのは姉のセリーヌだ。
「お礼って言われてもな・・・」
困ったような顔で蒼慈は華奈恵を見た。
「このままじゃ埒が明かないわ。何でもいいから向こうの気の済むようにさせたら?」
「・・・まぁ、それがベストなんだろうけど」
…自分の強さが分かった以上、金を稼ぐのも容易いし、特に今は何かが必要ってわけでもないし、あえていうなら“魔王”の情報くらいか。
「じゃあ、聞きたいことがあるんだけど」
「な、なんでもどうぞっ!」
若干、声がひっくり返りながらフレールが答える。
「“魔王”って知ってる?」
「魔王・・・?」
「あぁ。知ってるの?」
「ちょっとだけなら・・・でも、それがどういう?」
「俺達旅をしてるんだけど、その目的が“魔王”でね。その情報が欲しいんだよ」
少し記憶を探るようなそぶりを見せながらフレールは話し始めた。
「魔王は、王国ヴァルテールの北にある、血の森にいたと言われています」
「『いたと言われて』る?どういうことだ?」
「どういうこと、と言われても・・・」
蒼慈と華奈恵は互いに顔を見合わせる。
「今“魔王”が何処にいるか分からないかしら?」
華奈恵がフレールへと問いかける。
「『今』ですか?」
何を言っているんだ?とでもいうような顔でフレールは華奈恵の質問を聞き返した。
「え、えぇ。今よ」
「流石にもういないと思うけど・・・」
「いない!?どういうことだ?」
「え?え?だって・・・ね、姉さん」
フレールは困ったように姉のセリーヌの顔を見る。
セリーヌもフレールと同じように不思議そうな顔をしていた。
「えっと・・・」
フレールの視線に応えるようにセリーヌが言う。
「魔王はあくまで伝説ですし、それこそ夢物語で・・・」
「・・・伝説?」
「え、えぇ。魔王がいたのは今から5000年前とされていて、それを伝説の勇者が倒したといわれています」
「・・・つまり、今現在この世界に“魔王”は・・・?」
「えっと・・・いません」