8話
世界は、ひどく残酷だ。
しかし、強き者が弱き者を食らう。そんなことは、ごく自然のこと。
人は何故だか自らを強き者と勘違いをしている。
人は自らが弱き者にならない限り、そのことに気づきはしない。
しかし、その時になって、理不尽だのなんだのと言い出す。
人間とは醜いものだ。自分が弱いことに気づかない。
そんな弱い人間が、自らが強いと思い驕る人間が、蒼慈は、
「大嫌いなんだよっ・・・」
―――ガキン
蒼慈が振り下ろす刀を受け止めるレイピア。
「姉さ・・・ん・は・・わた・・し・が・・守るっ!」
蒼慈は弱者だった。
過去に彼はそのことに気づかずにすごし、その生活が壊れた時初めて自分は弱者なのだと気づいた。
「・・・っ」
だから、今目の前で抗っている女性が彼にはとても輝いてみえた。
あの時の自分はただ震えて隠れていただけだったから。
「・・・がはっ」
レイピアが力なく地面に落ちる。
でも、まだ意識はある。
フレールの目はいまだ戦意を失わずに蒼慈を捉えていた。
「ふ、フレール!」
咄嗟に姉と思われる女性がフレールを抱きかかえ、蒼慈の方を睨み付ける。
しかし、もう蒼慈はフレールと戦う気がなかった。
「お前は・・・強いんだな。・・・」
「・・・蒼慈?」
「癒せ。ハイヒール」
途端にフレールを光が包み込む。
5秒ほど経ったのち、その光が収まるとすでにフレールに傷はなかった。
自分の身に起こったことを理解し、信じられないという顔でフレールは蒼慈を見た。
「これで貸しが一つだな」
はははと笑いながら蒼慈は刀を一瞬で分解し、鉄屑に戻し、そのままフレールに背を向けて歩き出す。
「華奈恵。なんか色々とめんどくさそうだから、周りの奴らに、今日の出来事を広めない程度に“干渉”しといてくれるか」
「わかったわ。・・・それよりもどういうつもり?殺すかと思えば助けたりなんかして。意味がわからないわ」
蒼慈の横を歩きながら小声で華奈恵は蒼慈にそう尋ねつつ、周りに『今日の出来事は口外するべきような事ではない』と“干渉”した。
「まぁ・・・色々と心情に変化が・・・ね」
苦笑いをしながら蒼慈は思う。
…にしても、大人げなかったなぁ、俺。勝てると分かっててあそこまでやるとは・・・
フレールとその姉は目を白黒させながら蒼慈達の背中を見送っていた。
「はぁ~。なんかやる気失せたぁぁぁぁ。それに思ったけど、俺って何でもありなわけ?」
「なんでもありよ。なんでも。・・・ただ、やっぱり“世界”に背くようなことは出来ないわ」
「例えば?」
二人はあの後、野次馬から隠れるように逃げて、喫茶店らしきところに来ていた。
「人を復活させること、とかね」
「まぁ、ベタっちゃベタだな。てかさ、俺たちの前に魔王を倒した人たちって、最後はどうなったんだ?」
「私たちの世界へ戻って、その後『俺たちもう戻る気ないから』とか言って、また“異世界”へ行ったらしいわ」
「そりゃ、そうなるわな・・・こっちの方が断然楽だし」
「そう?私は元の世界の方が好きだけど」
「嘘つけー。こっち来てすぐの時に火だしながらキャッキャ騒いでたじゃん」
「・・・うっ・・・あ、あれは・・・」
顔を真っ赤にしながら華奈恵はしどろもどろになりなりだした。
「あれは・・・?」
蒼慈は華奈恵に顔をグッと近づけて更に追求する。
「・・・うぅ。あ、あの時は!・・・そ、その、アレよアレ・・・」
「ほほぅ。アレ・・・とは?」
うぅぅと顔を真っ赤にしながら華奈恵は俯いてしまった。
「ん~?隠すようなことなのか~?」
―――バシっ
景気のいい音が蒼慈の頭から鳴った。
「いてっ。何すんだよっ・・・」
実際は痛くもなんともないのだが、ついそう口から出てしまう。
「『何すんだよ』じゃない!こんなとこで女性に迫ってるあなたこそ何してんのよ」
蒼慈の頭を叩いたのはフレールだった。
さっき戦ってた時に着ていた戦闘服は汚れたのもあって着替えてきたのだろう。
今のフレールは普段着のようなものを着ていた。
「・・・なんだよ。闇討ちにでも来たのか?さっきの腹いせに。でもそんなんじゃ俺の頭は吹っ飛ばないけど?」
「別にそんなんじゃないわ。それに、あなたには今の私じゃ歯が立たないことがわかったから」
「ふ~ん。で、何か用?」
「えぇ。ただ、ここじゃなんだから私の家まで来てくれる?」
「ここじゃ話辛いことなのか?」
「えぇ」
蒼慈のどこか茶かしたような雰囲気は、フレールの纏う真剣な雰囲気によってかき消された。
「・・・わかった。行こう。・・・華奈恵、何してるんだ?いくぞ」
「・・・はっ。わ、わかってるわよっ!」
えぇ、こんなものですよ。
所詮、私の文章力はこの程度ですよOTL