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Contract ~契約~  作者: 深々
第1章 契約者
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5話

「ふあぁ~」


 太陽の光を感じて目を覚ます。

 いつもと違う天井が蒼慈の目に映る。


「あぁ・・・そうか。夢じゃないんだな」


 あらためて蒼慈は異世界へ来たことが夢ではないと思った。

 家のほどではないが、十分にフカフカで寝心地の良いベッド。

 体を起こして窓を見ると、日本とは全く違う景色が映っていた。


「はぁ・・・」


 ため息が出る。

 別に異世界というものは嫌いではないと蒼慈は思う。

 誰しもが憧れる“魔法”。今の蒼慈はソレが使える。


…魔法か・・・なんでもできるんだろうな。


 魔法があればなんでもできる。なんていうのは魔法のない世界の住人しか思わないことだ。

 この世界では魔法で全てが決まる。

 魔法によってこの世界は回っている。


…俺は、強くなれるんだろうか・・・


 元の世界では何の力もないただの高校生だった蒼慈。

 こちらの世界に来て彼は力を得た。


「はぁ・・・」


 しかし、まだどれほどの力が自分にあって、自分がどれほどの強さなのか、蒼慈はまだ知らない。


「とりあえず・・・起きるか」


 そう呟いて蒼慈はベッドを出た。




「・・・あ、おはよう蒼慈」


「ん、おはよう」


 部屋で服を整えて蒼慈は下の階へと降りたところで華奈恵と出会った。

 ちなみに服はこちらに来た時と全く同じだった。


「飯はここで食べるのか?」


 蒼慈と華奈恵がいるのは宿屋の一階の食堂のようなところだった。


「えぇ。そうみたい」


 二人はご飯を配っているところまで行き、自分達の分の朝ごはんをトレイに乗せ、席へと向かった。


「飯は・・・普通だな」


 二人のトレイの上に乗っている食べ物はほとんど同じだった。

 蒼慈は、パン2枚と飲み物。

 華奈恵は、蒼慈と同じパン1枚とサラダと飲み物だった。


「蒼慈」


 ふと華奈恵が思い出したように蒼慈に呼びかける。


「ん?」


「これ食べたら、服買いに行きましょ」


 彼らは今だ元の世界の服のまま。

 こちらの世界でこの格好はいささか目立つ。

 そして何より、毎日同じ服など着てられない。


「そうだな」


 そして、しばらくして食べ終わって空になった皿をトレイに乗せ、それを返してから二人は買い物をしに外へと出て行った。





「・・・おい」


「ん?どうしたの?」


「なんで俺が全部持ってるんだよ!」


 今蒼慈の腕の中は華奈恵が買った物の袋でいっぱいだった。


「男の子が荷物もちするのは当たり前じゃない」


 当然、とばかりに華奈恵は蒼慈に言う。


「一応、俺の方が立場的に上にあるんじゃないのか・・・?」


『“契約”したから、一応私があなたの下につくことになるから』と蒼慈に言ったのは紛れもない華奈恵だった。


「それとこれとは別よ」


「なんで別なんだよ・・・」


 はぁ、とため息をつきながら蒼慈は華奈恵の後を追いかける。

 これでは華奈恵が言った立場とは全くの逆ではないかと蒼慈は思う。


…なんで荷物もちなんか・・・



「あ!あそこのお店の服!・・・あそこ行きましょう、蒼慈!」


 珍しい店を見つけては入って服やら何やらを買う華奈恵。

 ちなみに蒼慈自身の服は最初に入った店である程度買ってしまった。


「はぁ~。いい年した大人が何はしゃいでんだよ。みっともない」


 華奈恵に聞こえないような声でボソリと蒼慈は呟く。


「蒼慈ぃ~。早く早く、これ持って!」


…買うの早いっての・・・てか、毎度毎度店員さんのその目線がどうしようもなく嫌なんだど・・・


 蒼慈にそうやって荷物を持たせてる姿は周りからみると、体よく扱われている彼氏かパシリのようにしか見えないらしく、

物を買って、それを華奈恵が蒼慈に持たせるたびに店員さんが哀れみの目線を蒼慈に送るのだ。


「もう・・・勘弁してくれ・・・」


 こちらの世界にて何故か知らないけどパワーアップしたため蒼慈は体力的には問題は全くなかったが、


「俺の精神こころがもたねぇ・・・」


「蒼慈!早く!」


 大きくため息をつきながら蒼慈は華奈恵を再び追いかけた。


「今日は買い物で終わりそうだ・・・」







「また、えらく買い込んだもんだな・・・」


 呆れた声で蒼慈は広場のベンチらしき物に座りながら華奈恵に言った。

 日は沈みかけていてあたりは赤く染まっていた。


「いいじゃないの。お金はいっぱいあるんだし」


「お金はあっても、体は一つしかないんだって・・・」


 ため息をつきながら疲れた顔の蒼慈と違って、華奈恵はだいぶ満足したような顔だった。


「こっちに来るときは何も持ってこれないから、服とかが変なのしかなかったらどうしようか、それが一番の心配だったのよ」


「ふ~ん。だからって子供じゃないんだし、はしゃぎすぎだろ・・・」


「うっ・・・い、いいの!女の子はそんなものなの!」


 まるで駄々っ子のような華奈恵の口ぶりに蒼慈は吹き出した。


「くくく・・・もう、女の子って歳でもないだろうに」


「く、くうぅぅぅ」


 恥ずかしそうに下を向く華奈恵。


「実際華奈恵って何歳なん?少なくとも俺よりは年上だと思うんだけど」


「・・・21」


「・・・ぇ?」


 そう言って蒼慈は横に座る華奈恵の全身を観察する。


「な、何よ!」


「いや、精神年齢と実年齢が一致しないから聞き間違いかと思って」


「なんですって!?どこが一致しないのよ!元の世界じゃ、街中を歩くだけでモデルの勧誘受けるしナンパもされる!待ち行く人が皆振り返るのよ!」


「自分で言ってると恥ずかしくならないか?」


「・・・っ!」


「まぁ、確かに美人だよ・・・」


「で、でしょ!」


 それだけが取り柄なのだろうか、華奈恵は安心した顔になる。


「喋らなきゃな。初めて会ったときはもっと落ち着いてたのにな」


「あ、あれは!・・・今日はたまたまよ!たまたま!偶然!」


「はいはい・・・とっと帰ろうぜ」


「ちょ、ちょっと!誤解を解かせないさい!」


「分かった。分かった。とりあえず帰ろうぜ」


「あ!その言い方は分かってないわ!・・・ちょっと!」


 喚いている華奈恵を置いて蒼慈は荷物を持って宿屋へと向かった。



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