第4話 天城悠真は甘くさせたい
体育祭の余韻がまだ残る中、次のイベントがすぐにやってきた。
球技大会。クラス対抗のドッジボールとバスケットがメインで、生徒会は審判と運営を担当する。
大会当日、生徒会室は朝から準備で慌ただしかった。
俺はバスケットの審判リストをチェックしながら、一ノ瀬に声をかけられる。
「会長、今日の審判、佐藤のクラスが出る試合だよ~。公平にね!」
佐藤がデカい体を揺らして笑う。
「俺のクラス、優勝狙ってるからな。会長のジャッジで甘くならないよう、頼むぜ」
神崎がスマホを片手に、凛の方を見てニヤリ。
「凛ちゃんはドッジボールの審判でしょ? 会長のクラスが出る試合、絶対目が優しくなるよね~」
凛がホイッスルを首にかけながら、クールに返す。
「……公平にやるわ。特別扱いはしない」
でも、視線が俺に少し絡む。
(……あいつ、俺のクラスが出る試合でどんなジャッジする気だ? 凛の審判姿、ちょっと楽しみだな)
(……天城くんのクラスが出る試合、ちゃんと見届けたい。でも、好きだからって甘くはしないわ)
互いの目が合って、軽く微笑む。
大会が始まり、俺はバスケットのコートへ。
審判をしながらも、隣のドッジボールコートにいる凛の姿が気になって仕方ない。
凛はホイッスルを吹き、動き回る。スカートが少し翻るたび、審判らしくない優雅さがある。真剣な表情が、また新しい一面で。
(……審判してる凛、かっこいいな。こんな姿も可愛い)
(……審判してる天城くん、頼もしい。好きで、目が離せない)
俺のクラスのドッジボール試合が始まった。
凛が審判だ。
ボールが飛び交う中、俺は観客席から見守る。
一ノ瀬が隣で囁く。
「副会長、会長のクラスにちょっと優しいジャッジしてる気がする~」
佐藤が大笑い。
「だな! さっきのアウト、微妙だったのにセーフにしたぜ」
神崎がスマホで録画しながら。
「凛ちゃん、会長のことチラチラ見てて可愛い~」
凛がホイッスルを吹きながら、軽く睨むけど、頰が少し赤い。
試合は俺のクラスが勝ち。
終了のホイッスルが鳴り、凛がコートから出てくる。
俺が近づくと、凛が小声で。
「……おめでとう。あなたのクラス、強かったわ」
(……勝ってくれて嬉しい。凛の審判、ちょっと甘かった? 可愛いな)
(……勝った天城くん、嬉しそう。好きで、褒めたくなっちゃう)
「ありがとう。審判、完璧だったよ」
俺が返すと、周りがまた集まってきて。
「ご褒美! ご褒美!」
一ノ瀬と佐藤が騒ぐ。
神崎が笑いながら。
「もうこの二人、付き合ってるみたいな雰囲気だよ~」
「却下」
俺と凛が同時に言って、周りが爆笑。
でも、笑いの中で凛が俺にだけ小声で。
「……少しだけ、嬉しいわ。勝ってくれて」
その言葉に、心臓が跳ねる。
(……こんなこと言われたら、ドキドキする。凛のこと、ほんとに好きだ)
(……言っちゃった。もっと近づきたくなるのに)
俺は平静を装って。
「次も勝つよ。審判、楽しみにしてる」
凛が目を細めて微笑む。
球技大会はまだ続く。
大会終了後、生徒会室で片付け。
他のメンバーが帰った後、二人きり。
「……今日も、疲れたわね」
凛が椅子に座って言う。
「ああ。でも、楽しかった」
俺が隣に座ると、凛が視線を上げる。
「天城くんは、私から言わせたいんでしょ?」
直球だ。
「……藤宮副会長こそ、俺から言わせたいんだろ?」
互いに軽く笑う。
今日も、「付き合ってください」は言わなかった。
でも、距離がまた少し縮まった。
絶対に、俺から言わない。
藤宮凛から、必ず言わせてやる。
部屋を出る時、廊下で手が軽く触れた。
二人とも、何も言わず。
でも、その温もりが、少し残った。




