舞踏会での公開処刑
その夜の王宮の大広間は、美しい宝石箱のようであった。
シャンデリアが放つ無数の美しい光は、集まった貴族たちの髪飾りやシルクのドレスを照らし、華やかな空間を演出している。
レティシア姫はこの光の中でも、最も輝いていた。彼女の為に仕立てられた金糸を織り込んだドレスは動くたびに柔らかな光を放っていた。
しかし、彼女の視線が捉えるのは、豪華な装飾品でも周りの華やかな貴族たちでもない。
彼女の傍らに控え、一歩の狂いもなくエスコートするのは、勿論騎士ユージンだ。
ユージンは濃紺のベルベットに金糸の組みひもが施された騎士の正式礼装を纏っている。それは平民出身の彼にはあまりにも格調高すぎる装いであり、周囲の貴族たちの冷たい視線が絶え間なく彼に注がれる。
「ユージン、見て!皆が私たちを見ているわ。今夜きっと上手くいくわね。」
レティシアは小声で囁き、無邪気に微笑んだ。彼女の手に触れるユージンの指先はひどく冷たかった。
彼は、レティシアの顔を見ることなく、ただ前を見据えていた。
彼の瞳には、この華やかな光は映っていない。
今夜この場で成し遂げなければならないのは『不敬』という使命だ。
(姫様、貴方のロマンスの為に私は此処にいるのではない。)
そして静かに訪れる恐怖の時間を待つ。
ユージンは立ち止まった。大広間の音楽が止み、周囲の貴族たちの囁きも遠のいてゆく。
彼はその場でゆっくりと王国の姫の前に片膝をついた。
その瞬間、大広間に集まった全ての視線が一斉に、不敬な平民騎士と無垢な姫に注がれた。
大広間の空気は張りつめ、物音は一つもしない。
誰もが目の前で片膝をついた平民出身の騎士とその前に立つレティシア姫を見つめている。
彼はこの場で、そして何を行おうとしているのか。
ユージンは真っ白なグローブをはめた手を静かに剣の柄から離して顔を上げた。その瞳はレティシアの無邪気な瞳ではなく、その背後にある皇帝陛下の玉座を鋭く見据えていた。
(騎士としての誇り、名誉、忠誠心すべて、王家の未来をつなぐためにこの『不敬の汚名』を甘んじて受け入れよう。)
彼は騎士の生命線である『誇り』を自ら断ち切る覚悟を決めた。
ユージンはその胸元から紙片を取り出した。その手は微動だにしないが、全身の筋肉は今にも断罪が下されるかのように固く緊張している。
「レティシア姫殿下……。」
ユージンの声は静かでありながら、大広間の隅々にまで響き渡った。
「私は騎士としてこの身を王家への忠誠に捧げると誓いました。…ですが、貴方の輝きは騎士の誓いよりも強く私の心を射抜きました。」
ユージンは、レティシアの目を見た。その偽りの情熱に満ちた眼差しは、レティシアを一瞬で夢中にさせた。
あなたは夜空を照らす ヴィーナス(金星)
私は ただ その光を追う 名もなき旅人
この世の如何なる地位よりも あなたの微笑みこそが
私の唯一の 宝冠
どうかこの卑しい平民の 不敬な愛を
受け入れては いただけませんか
ユージンは愛の詩を捧げ終えて、頭を下げた。
愛の詩に一日費やしました。…今まで書いたことない。(爆笑)




