舞踏会での公開処刑(前日にて)
「……何ですか?これは?」
ユージンはレティシアの部屋で、深い絶望に陥っていた。
レティシアは上機嫌でペンをとり、完成させたばかりの『一連の詩』をユージンに突き付けた。
それは平民騎士が、皇女に宛てた『愛の告白』を主題にして、書き上げた情熱なロマンスの詩であった。
「ユージン!見て!これが明日の舞踏会で貴方が詠みあげる『愛の告白』よ。私が考えた最高の詩だと思うわ。」
ユージンは凍り付いた。平民とはいえ騎士としての教養や一般常識を身につけている彼にとって、「身分不相応なものが皇族に公然と愛を捧げる」なんていうことは、宮廷の常識において『不敬罪』のあたるものだった。
「……姫様。その……誠に申し上げにくいのですが、そのことにつきましてはお受け出来かねます。何卒ご容赦くださいませ。」
ユージンは優しく言葉を選んだ。
「ユージン!ロマンスとは試練を乗り越えてこそ、真実の愛になると私は思うのよ。」
ユージンは混乱している。
(どうして私が?自分で書いたものでもないこのような恥ずかしい言葉を公で詠まなければならないんだ?)
平民の騎士が皇女である姫様に『愛の告白』をすれば、直ちに私は『不敬罪』となり、姫様には『王室の恥』となる。
レティシアには宮廷の常識が皆無なのだ。彼女はロマンス小説の美学を信じ、『身分さのある恋こそ至高』だと疑っておらず、現実の政治的な危険性については、全く理解していなかったのだ。
ユージンは子供に諭すように話した。
「姫様!どうか正気に戻ってください。私は護衛騎士です。貴方の王子様ではありません。一介の平民騎士が姫に公然と『愛を告白』するなど、これは『国家反逆罪』です!」
ユージンは必死に規律を盾に抵抗する。
「もしも……どうしても告白をお望みなら、今ここ、この部屋で二人きりなら何とかご希望に添えるよう努力いたします。私が此処で……。」
レティシアは顔を曇らせた。
「ええ~。それはダメよ。それはロマンスじゃないわ。只の密会よ密会!…愛とは誰もが羨む舞台で公然と宣言されてこそ真実の愛なの。」
ユージンの訴えは、彼女のお花畑思考には完全に届かない。
断れば、この姫はヒステリーをおこして周りに騒ぎ立てるかもしれないという最悪のシナリオが頭をよぎる。
ユージンは、痛む胃を押さえながら、姫の前で、『姫が書いた詩』を詠む練習をさせられたのであった。
なんだか可哀そうになってきた。




