光の玉を手に入れろ!
レティシアのロマンス小説の知識によれば、『光の玉』すなわち真実の愛の証は、最も熱く最も過酷な試練を経て、生まれるものである。
やがて、遠くからハンマーが鉄を打つ甲高く規則的な音が聞こえてきた。
「そうだわ!鍛冶屋よ! 熱い炎の洗礼を受けた場所はあそこじゃないかしら?」
レティシアの思い込みは、侍女頭ロザリンドの壮大な作り話と見事に一致したのである。
そして二人は、完成前の砲弾が積まれた城下町の大きな鍛冶屋の前にたどり着いた。
「姫様!ここは軍の請負も引き受けている大きな鍜治場です。長居は危険です!」
ユージンの声は、疲れと胃の痛みでかすれている。
レティシアは彼の声が聞こえていないのか、目を輝かせながらうきうきと中に入っていった。
店のおくで、巨大なハンマーを操っていたのは、煤と汗にまみれた、筋骨隆々の親方バルカスだった。
「こんにちは。私たちは此処に『光の玉』を探しにまいりました。」
親方バルカスは、巨大なハンマーを振り下ろすのをやめて、ユージンとレティシアの奇妙な二人組を見た。特に場違いな下女の服を着たレティシアの無垢すぎる視線を怪訝な顔で一瞥した。
「ああん?なんだい、嬢ちゃんたち。うちは大砲の部品やら馬の蹄鉄しかつくらねぇよ。おめえさんのいう『光の玉』なんざどこにもねえよ。帰んな。」
「いいえ!あなたの打ち出す『炎の魂』は尊いものなの。貴方の仕事場には『武骨な魂』を宿した『光の玉』があるわ。丸くて力強い『鉄の塊』のことよ!」
レティシアは店の隅に積まれた不良品の砲弾を指さした。
「ああ、あれか?あれは軍の検査落ちになったただの不合格の鉄くずだぜ?また溶かして再利用すんだ。あぶねえから近寄るな。」
「不合格?ああ、試練というものは、厳しいものなのね。」
自分の言葉に酔うレティシアを尻目に、ユージンはバルカスにこっそり耳打ちした。
「すみません。彼女は実は精神を……病んでおりまして……。どうか彼女の言う通り口裏を合わせてその鉄くずを分けていただけませんか?すぐに代金はお支払いいたします。」
何度断っても執拗に頼み込むレティシア、彼女のゆるぎない真剣な瞳と困り果てるユージンを交互に見つめていたバルカスは、やがてフッを口元を緩めた。
「へえ。『愛の為』にあんな不合格の鉄くずを欲しがるのか…。そこまで熱い目をした嬢ちゃんの熱意にあてられちまったぜ。よし!『愛の塊を』鉄くずの中に見い出せるなら持っていきな!」
バルカスは隅の山から最も大きな不合格の砲弾を指さした。
「そこの一番大きなので良ければ、『祝い』としてくれてやるぜ!」
レティシアは目を潤ませる。
「ああ、愛の試練の象徴『光でできた玉』。武骨で力強く最高の『愛の証』だわ。
ユージンは『光の玉』の正体が、危険な不合格の砲弾であること、そして兄弟子の騎士団長ガストンからたびたびレティシアの素行不良による警告をうけていたその直後に、不審物を城内に持ち込もうとする絶望的な現実にめまいを覚えた。
バルカスはユージンの背中を『バンッ!』と叩き豪快に笑う。
「おい!そこの旦那。あんたの彼女は相当な頑固者だ!まあ…仲良くやりな!」
ユージンは神に祈っていた。
(神様、早くこの状況から解放されることを願います・)
短編のつもりが……終わらない。(笑)




