光の玉 2
「ユージン!さあ『光の玉』を探しに行くわよ!」
レティシアの瞳は『光の玉』探しという新たな目標を前に興奮で爛々と輝いていた。
彼女が着ているのは、侍女頭ロザリンドが用意させた下働き用のつぎのあたった粗末なワンピースだ。着慣れないその服は、かえって不格好に見える。
その傍らで、ユージンは必死に胃の痛みに耐えていた。
彼が着せられたのは、庭師が着る古びた作業着で、土と汗のにおいが染みついたものだった。
「姫様、どうか考え直して下さい。この無許可の外出は、厳重な私の警備規律に違反しております。さらにこの服装なら……。」
「しっ!だまって!これは愛の試練なのよ。」
レティシアはユージンの腕を無邪気に掴み、辺りから生ごみの臭いがする使用人専門の小さな裏門へと彼を引っ張っていった。
ユージンはもう抵抗する気力もなかった。
姫の強烈な意思表示と、背後でこのスキャンダルを狙っているであろう侍女頭ロザリンドの策略に抗うことが出来なかったのだ。
(……私は、この任務を離れたい。)
ユージンは門の外に広がる活気ある喧騒を見据えながら、騎士としての誇り、そして胃袋の健康の双方の破壊を覚悟した。
彼の愛と規律の試練は、今まさに悪意のある変装と生ごみの臭いと共に、静かに幕を開けようとしていたのだった。
周囲の光景は、豪華な宮殿の暮らし……とはあまりにもかけ離れたのものであった。
埃と生活排水のにおい。熟れすぎたしなびた野菜と安価な肉を焼く油の煙が混ざり合った、何とも言えないにおいが充満していた。
子供たちは薄汚れた服で埃っぽい道を走り回り、屋台の横では、酔った労働者たちが、小競り合いを繰り返している。
(こんなところに、『光の玉』なんてあるものか!)
ユージンは声を大にして叫びたかったのだが、一方のレティシアは楽しそうにはしゃぎながら辺りをキョロキョロしていた。
二人は、最も賑わっている安価な屋台の前に立ち止まった。
それは、大鍋で豆と脂身の多い屑肉を煮込んだスープだった。
レティシアは一皿のスープを注文して受け取った。
「姫…いや……れ、レティ!それは衛生状態が保証されておりません。お止めください。」
彼の言葉も聞かずにレティシアは平気で口にした。
「ふーん。庶民の食べ物って、こういうものなのね。」
美味しいかと言えば、そんなはずもない代物だ。
しかしレティシアには、物珍しさが先行していた。
好奇心いっぱいで、こんな味なんだろうと納得している。
「ユージン、半分こ。」
レティシアは満面の笑顔で、スプーンを差し出した。
彼女の勧めを、ユージンは無下に断ることも出来ないのであった。
こんな下賤な格好で、不潔な屋台の傍で、絶対不可能であろう王女と同じスープを分け合うなど彼にはもう三重苦にしか他ならない。
しかしそんななかでも、レティシアの無垢で幸せそうな笑顔を見ていると、今まで感じたこのないある感情が沸き上がったのだった。
語彙力が欲しい……。




