神話の降臨 あるいは 最高に不愉快な一日
議場を埋め尽くす二百人の貴族と震える傭兵たちの目にはもはや「人間」は映っていない。
白煙の中から現れたのは、歴史書のページを破って飛び出してきた「軍神の厄災」そのものだ。
(ああ__見てくれ、あの黄金の四本爪の鷹の紋章(刺青)を。__間違いない、ゼノス様だ。われらを見捨てた神が、審判を下しに戻られたのだ。)
ある侯爵は祈るように膝をつき、ある傭兵は剣を捨てて頭を垂れた。剝きだしの半裸の肉体はどんな鎧よりも冷徹な殺気を放ち左の漆黒の『棺』は、今まさに自分たちを閉じ込める墓穴に見えている。彼らにとって、ユージンの一歩は『死へのカウントダウン』であり、その沈黙は『滅びの宣告』であった。
皇帝オーギュストは、その凄まじい威圧感にこれまでにない「救い」を感じた。
(これだ!権謀術数も、裏切りも、血塗られた王冠もすべてを無にかえす圧倒的な力!ユージン、お前こそが、私の汚れた人生を終わらせ帝国を真の秩序へ導く『神の代理人』だ。)
オーギュストは、ユージンが発する怒りの波動を『古き世界を焼き払う神聖な光』だと確信し、陶酔していた。
だがその嵐の中心にいるユージンの頭の中は、全く別の怒りでパンク寸前だった。
(__くそっ!あーもう!なんだよ、これ?……マジ痒いんだけど⁈__この変な紋章(刺青)ドクドクして、すっげぇ気持ちワリィし、熱いし、何なんだよっ!!)
ユージンは自分の身体に浮かび上がった『軍神の印』を『呪い』どころか、たちの悪い蕁麻疹かなにかのように、いらだたしく感じていた。
(それにこの黒くて馬鹿でっかい板(盾)!! 漆黒だか何だか知らねえけど、めちゃくちゃ重いんだよっ!! これ持ってきたせいで左肩が凝って仕方がねえ。服はビリビリだし、ブーツの中には砂利がいっぱいだし。ロザリンドとかいうババァは床に転がっててジャマだし……。ああ__もう全部ムカつく)
彼が床を叩きつけた衝撃は『神の審判』ではない。
「重いッ!痒いッ!帰りたいっ!」という二十歳の若者むき出しのストレスがたまたま軍神の力を持って爆発しただけのものだった。
「__新王よ!その剣で不浄を__」
オーギュストが、『神話』の幕を上げようとした瞬間、ユージンの『最高に個人的ないらだち』が爆発した。
「うるせえんだよ!おっさん!!」
神の託宣を待っていた議場に叩きつけられたのは、あまりにも泥臭く巻き込まれた被害者のブチ切れだった。
「お前が自分で盗った国だろがっ!……俺は知らん。お前がやれ!このバカ親子っ!」
ユージンは、吐き捨てると向けた刃を翻し音をたてて鞘に収めた。
それから彼は一度も振り返ることなく静まり返った議場を堂々たる歩みで去っていった。
後に残されたのは、かつてない敗北感に打ちひしがれた皇帝とそのあまりに鮮烈な『不敬』に震える帝国の中枢だった。
笑いながら、楽しく書けました(笑)




