軍神の蹂躙(じゅうりん)
その音は、絶望に沈んでいた二階回廊の静寂を物理的な質量でぶち破った。
__ドォォォォォォンッ!!!
議場の巨大な正門が内側へ向けて爆ぜる。蝶番はねじ切れ、彫刻の施された巨木がまるで紙屑のように通路へ吹き飛んだ。入り口を固めていたロザリンド配下の傭兵たちの悲鳴は、瓦礫が床を叩く轟音にかき消された。
「な、何事……⁉」
二階の回廊、ロザリンドの私兵に囲まれ、事実上の幽閉状態にあったオーギュストが、欄干を掴んで身を乗り出した。その隣で、不安に震えていたレティシアもまた、階下から立ち上る白煙に目を凝らす。
沈黙。
傭兵たちが武器を構え、喉を鳴らす音が聞こえるほどの静寂の中、白煙の奥から聞こえてきたのは、ズ、……ズ、……と、巨大な重量物が地面を這うような、胃の奥を直接揺さぶる重低音だった。
白煙を割り姿を現したのは、黄金の魔力(刺青)にシャツを内側から引き裂かれたユージンだった。
露わになった上半身、脈打つ黄金の紋章。
右腕には何も持たず、ただ岩のように固く握られている。左腕には『死者の盾』。彼が歩むたび、盾の縁が飲み込んだ光を排泄するように鈍い銀色を放っている。そして左腰には、かつてゼノスが帯びたという黄金色の剣が、静かに鞘に収まったまま揺れていた。
騎士の鎧が立てるような、軽薄な鉄音は一切しない。聞こえるのは、ユージンが一歩踏み出すたびに、地面がその重圧に耐えかねて「メキメキ」と悲鳴を上げる音だけだ。
通路をふさぐ百人ほどの傭兵たちが、本能的な恐怖でじりじりと後退する。
半裸の狂戦士。その「静かな歩み」が、何十人分もの軍勢の足音よりも重く、議場を震わせている。
ユージンは、正面の敵を一度も見ない。ただ無造作に、空いている右手を左腕の盾に添えた__。
ドォォォォォォンッ!!!
盾が床を打った瞬間、目に見える『波』が議場を走った。通路を塞いでいた十数人の重装歩兵たちは悲鳴を上げる暇さえなかった。彼らの全身を目に見えぬ巨人の掌が横薙ぎに払い、鎧を着たままの肉体が羽毛のように宙を舞う。
バキバキと人体が耐えうる限界を超えた音が響く。吹き飛ばされた傭兵たちは二十メートル後方の貴族席まで到達し、逃げ遅れた貴族ごと椅子を粉砕してようやく止まった。
「あ……が……。」
かろうじて踏みとどまった者たちも次の瞬間には膝をついた。盾の打ち付けが引き起こした凄まじい『音圧』が議場の空気を一瞬で希薄に変え、彼らの肺から酸素を脳から平衡感覚を奪ったのだ。
ユージンが歩む先にはもはや『障害物』は存在しなかった。
それが彼がたった一打で作り出した『軍神のランウェイ』だった。
書いてて怖いよな(笑)




