咆哮の中の継承 血の共鳴
視界を埋め尽くす黄金の飛沫が、ユージンの全身を焼き焦がしてゆく。
『目の前の亡霊』は数えきれないほどの刃を突き立てられたまま地獄の底から這いあがってきた獣のような咆哮を上げ続けている。
その不敵な笑みがじわりじわりとユージンに近づく。ゼノスの瞳__燃え盛るような黄金の双瞼が逃げ場のないほど至近距離でユージンに迫った。
(死ぬ、この男の『格』に魂が焼き切られるかもしれない。)
地下牢の冷気が一気に沸騰を始めた。
牢屋の石畳みの下、二十年もの間、人知れず封印されていた『黄金の遺恨』が直系の孫であるユージンの存在に呼応し、地鳴りをあげて震え始めた。そこで、ユージンは意識を取り戻した。
(__ああ、そうか。俺が地下牢に連れてこられたのは偶然じゃなかったんだな。)
光の届かない暗闇の中で『それ』は不敵に笑っている。
【黒き闇の王__ゼノス=アステリオン】
数千人の戦士者の無念を黒い外套のように纏い黄金の瞳で孫を見据える伝説の亡霊。二人の血が見えない鎖となって繋がった瞬間、逃れようのない『共鳴が始まった』
「__っ、ぐあぁぁぁぁぁぁ‼」
ユージンの血管が内側から灼熱の溶岩を流しこまれたように膨れ上がる。皮膚を突き破らんばかりの勢いで、黄金の紋様__アステリオンの刺青が、指先から首筋へ_そして背中へと狂ったようにのたうちまわりながら刻まれてゆく。
それは「授与」ではない。明らかに「浸食」だった。ゼノスが背負っていた絶望、王家の呪い、そして神をも奢る武威が濁流となって、ユージンの精神に流れ込む。
(飲まれるな……俺は……俺だ。俺は__ユージン=アストゥールだっ‼)
意識が白濁し、自分がもう誰の子供であるかさえ忘れかけるほどの衝撃。
だが、その時だった。胸元のリングホルダーが焼けるような皮膚を冷たく叩いた。
アルベールの厳しい声……エレナの温かな手のひら……ガストンと競り合った稽古の日々……。
その「日常」の記憶が、濁流の中に一筋の杭を打ち込んだ。
爆ぜたのは、その瞬間だった。
ドオォォォォォォンッ‼
地下牢の金棒が巨大な鐘を叩いたような衝撃派に包まれた。鉄扉は飴細工のようにグニャリとゆがんで吹き飛び、石造りの壁には蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
土煙の中から現れたのは、もはや『騎士養成所の青年』ではなかった。
右手に握られたのは、収穫を待つ小麦のように黄金に輝く直剣。
左手には掲げられたのは、無数の死者の嘆きを集め、あらゆる絶望を跳ね返す漆黒の盾。
全身を走る黄金色の刺青が闇の中で生き物のように脈打ち、周囲の空気を物理的に押し広げている。
ユージンはゆっくりと顔を上げた。その瞳は黄金の炎を湛えながら、驚くほど冷徹に現実を見据えていた。
「__待たせたな。オーギュストとレティシア。……覚えていろよ__清算の時間だ。」
あれ?敵はロザリンドじゃなかったっけ?(笑)




