小さなしっぽ
エレナが入れたハーブティーの湯気に包まれながら、レティシアは彼女に尋ねた。
「__ねえ、エレナさん、ユージンって昔からあんなに不愛想で剣のことばかりなの?」
エレナは懐かしそうに目を細め、庭でアルベールと話しているユージンの背中を窓越しに眺めた。
「ふふ。いいえ、あの子小さい頃は、本当に泣き虫で、父親の後ろをずっとしっぽみたいについて回る子だったのよ。」
「え?ユージンが泣き虫__?」
想像もつかない言葉に、レティシアは目を丸くする。
「ええ。あのこが七つぐらいだったかしら。アルベールさんが少し厳しい稽古をつけたら、あの子、わあわあ泣きながら台所に逃げこんできてね、『父ちゃんが怖い。僕は騎士になんてならない。』って鼻水たらしながら訴えていたわ。」
「__ふふ、あのユージンがね。」
「そう。でもね、あの子こうも言っていたの。『僕が強くならなきゃ。__父ちゃんも母ちゃんも守らなきゃ。』ってね。」
エレナは少しだけ、声を落として慈しむようにつづけた。
「__あの子が剣を取ったのは、英雄になりたかったからじゃない。…ただ、朝起きたら大好きな人たちが隣にいる__そういう当たり前の日常を自分の手で守りたいだけなのよ。」
「__だからあいつ、あんなに必死なのね。」
(王宮での手柄なんてどうでもよくって、ただ此処へ帰ってくるためなんだ。)
「ええ。だからレティシア様、あの子がもし王宮での言葉遣いを間違えたり、不敬な態度をとったりしても__どうか許してあげて。あの子にとって、貴女を守ることは、私達を守ることと同じ意味を持っているはずだから。」
レティシアは自分の胸に手を当てた。
王女として『利用』されることばかりだった自分が、ユージンにとっては『守るべき日常』の一部として数えられているのかもしれない。その事実に胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。




