モランの店【トキノカケラ】
下町の骨董屋【トキノカケラ】
此処に来る時のユージンの足取りは重かった。
彼はアルベール(義父)からそのホルダーについて口が酸っぱくなるほど言い聞かされていたのだ。
「いいか、ユージン。これは人に見せびらかしていい物ではない。肌身離さずに持っていろ。」
すすけたガラス戸を潜るとそこは、異様な空間だった。天井から吊るされた壊れた時計、錆びた歯車、出所の分からない古びた地図など歴史を思わせる物が無造作に置かれている。
店内の薄暗い奥から、眼鏡をかけた男、モランが現れた。
「__ああ、ユージンか。アルベールに頼まれた研ぎ石を取りに来たのか?」
モランは、ユージンの顔をチラッと見てから、後ろにいるレティシアに笑みを浮かべた。
「おや、そっちの可愛らしいお嬢さんは誰だい?」
ユージンは一瞬困った顔をしたが、小声で話した。
「……この国の姫さんが、下町を見たいっていうから、護衛に付いてんだよ。あんまり失礼なことを言うな。」
「ほう……。」
モランは優しい、しかし意味ありげな笑みをレティシアに向けた。
「__おじいさん、これを見て。あなた『カケラ』を鑑定するプロなんでしょ?これが何なのか本当のことを教えて。」
レティシアが渋るユージンの襟元からホルダーを強引に引き出して、カウンターに突き出した。
「おい、やめろって。」
ユージンは抵抗したが、姫には逆らえるはずもない。
モランは差し出された『四本爪』を一目見た瞬間、凍り付いた。
(アルベール、お前こいつを持たせたまま、ユージンを王宮に入れたのか。)
モランの手が小刻みに震えていたのをレティシアは見逃さなかった。
「__ふん、お嬢さん。期待はずれで悪いが……。」
モランはワザとらしく鼻で笑いレティシアを見据えた。
「こいつはな、二十数年前にあった混乱期に、食い詰めた職人が作った『迷子札のレプリカ』だな。…おそらく三本爪の紋章を真似しようとして失敗したのだろう。当時ロドニアの戦災孤児にはこれを持たせていたから、アルベールがユージンに持たせているのは、拾った時の目印だからだろうな。拾った時のな。」
「拾った拾ったって、そこを強調するなっ!このクソジジィ!」
「おい、口の利き方に注意しろ!姫の御前だぞ?」
「姫じゃないっ!あんたに言ってんだっ!」
二人の楽しい?口喧嘩をよそに、レティシアはやっぱり納得がいかなかった。
「__え?迷子札?…それだけなの?」
レティシアは食い下がったが、それ以上はモランは口を閉ざし、何も語らなかった。
一方のユージンはその言葉を聞いてモランに悪態を吐きながらも安堵していた。
(義父が離すなと言ったのは、俺が拾い子だという証拠を無くさない為だったんだな。ロドニアの戦災孤児として。)
モランの店からの帰り道、レティシアはユージンに謝った。
「ごめんなさい…ごめんなさい。…『迷子札』だなんて…。」
レティシアはあの立派な彫り物が、まさか只の『迷子札』だとは思ってもみなかったのだ。
ユージンは、姫に笑いかける。
「なんだ?__俺が可哀そうな戦災孤児だって憐れんでんの?」
いいえとレティシアは首を横に振る。
「見せてやるよ。俺がその哀れな戦争孤児かどうか。」
彼が次にレティシアを連れて行ったのは、…そう、城下町にあるアルベール邸(ユージンの実家)だった。




