籠の鳥と秘密の騎士
姫の住む宮殿の一室は、相変わらず退屈で、そして不自然にきらびやかであった。
末娘のレティシア王女にとっての世界とは、書庫にある古びた絵本の中にあり、侍女頭ロザリンドが時折語る、悪意に満ちた作られた噂話だけが、真実であった。
ロザリンドは姫のこの並外れた世間知らずを、陰でこっそり楽しんでいた。表面上はしっかりと身の周りの世話をしているが、裏では彼女の失態を喜んでいるのである。
結局は籠の鳥のレティシア。最近の楽しみは、ロザリンドが話す『勇気ある騎士の物語』であった。
ロザリンドは皇帝からレティシアに専属騎士を付けるという話を聞いていた。
彼女は当然のごとく、レティシアに事実とはかけ離れた捻じ曲げた話をする。
専属騎士とは、レティシアにとっての『秘密の王子様』であり、黄金の鎧を身にまとい、愛と勇気の詩を傍らで囁いてくれる人だと説明した。
ユージンの胃の不調は、ロザリンドの責任でもあったのだ。
レティシアの期待とは裏腹に謁見の間に現れたのは、レティシアの壮大な妄想とかけ離れた人物だった。そこにいたのは何の変哲もない、鋼の鎧を身に着け何の表情も示すことのない長身の青年。にこりともしない。しかし目つきは鋭く、凛とした風をしていた。
青年はレティシアより二歳年下であるにもかかわらず、その疲労と警戒に満ちた目もとで幾分か彼女より年上に見える。
彼は一切の感情を排した声で、事務的に告げた。
「本日より皇女レティシア様の生命維持と安全確保の為に着任しました。騎士ユージンと申します。護衛の規約に関しましては後ほど……。」
あまりにも堅苦しくロマンスの欠片もないその言葉に、レティシアは一瞬で期待を裏切られたことに激しく失望した。
だが、レティシアのお花畑の頭は、すぐに自分の物語を修正した。
(そうよ、そうだわ!彼は私の『秘密の王子様』だもの。これは、この振る舞いは身分を隠す演技よ演技。……それによく見ると全体的に調和のとれた顔立ちをしてるし。……まあ、合格ってとこね。)
レティシアは目を輝かせてユージンを見つめた。そして、彼の鋼の下の首元からチラリと覗く金属の輪を見つけた。
(ロザリンドが話していた『秘密の王子様』って本当に存在したんだわ。そうよ!そして彼は絶妙な演技で私への愛の誓いを隠しているのよ。)
ユージンは、気づいていた。
(……姫のこちらに向けるまなざしが……おかしい。)
ただえさえ陛下の御前、緊張と不安で胃のあたりが……。
こうしてユージンの胃痛はロザリンドの悪だくみによって始まったのだった。
しまった。話をストックしとくんだった、笑。




