ロザリンド2号
夕暮れの王宮、レティシアの私室では侍女のクラリスが姫の着替えを手伝っていた。朝方脱ぎっぱなしであった泥と木の葉にまみれたレティシアのドレスを苦笑いしながら片付けている。
その横で、レティシアはふてくされたようにベッドに座りあの専属騎士からの説教の余韻に浸っていた。
「……信じられないわ。助けてくれたのはいいけれど、その後の時間の長いこと。あいつ、私が怪我をしていないか確認した瞬間に、突然鬼のような顔をして…。」
レティシアは、ユージンの稽古を木の上から覗き見し、案の定落下して彼に抱きとめられたシーンを思い出した。
「レティシア様、いい加減にしてください!」
抱き上げたまま、ユージンの怒号が飛んだ。
「大体『何とかと煙は高いところにのぼりたがる』とありますが、姫様のそのご立派な知能を総動員して出した答えがこれですか!?…重力というものをご存じですか?枝の耐荷重を計算しましたか?もし私がいなかったら今頃あなたはどうなっていたと思いますか?」
一分、二分……。止まらない正論の濁流。
あまりに細かく、理詰めな叱責に、レティシアの頭の中で何かが繋がった。
(何?…この既視感。)
「……ちょっと、ユージン。……あなた、誰かに似てるわ。」
「は?何の話をして__」
「わかったわ。ロザリンドよ!詰め寄る角度も、逃げ道をふさぐ正論も、小言の長さもそっくり!認めたくはないけれど、今のあなたは間違いなく『ロザリンド2号』だわ!」
「……それで?その後どうなったんですか?レティシア様。」
クラリスは笑いを堪え、肩を震わせている。レティシアはさらに唇を尖らせた。
「『誰が冷酷な侍女頭だ!』ってさらに倍化したわ。結局最後には『今後30センチ以上の場所に上がったら、作法の時間を倍にして頂く。』なんて、わけのわからない規則まで作られたわ。……あいつ、絶対ロザリンドの遠い親戚か何かに違いないわ。」
ついにクラリスは耐えきれず、ドレスを抱えたまま吹き出した。
「……でも、レティシア様。素敵じゃありませんか?」
「どこがよ!命の危機より耳の痛さのほうが勝ったわよ。」
「いいえ。そんなに長く、理屈をこねて怒るなんて……ユージン様は、それだけ姫様のことが『心配で心配で、どうしようもない』ってことですよ。ロザリンド様は冷たさで人を縛りますが、ユージン様の説教には……愛着が感じられますもの。」
クラリスがドレスから木の葉を払いながら、悪戯っぽく微笑む。
「……で、『ロザリンド2号』に抱きとめられたとき、姫様の心臓、少しは早くなったんじゃないですか?」
「……う、うるさいわね!それは……高いところから落ちた『物理的な衝撃』のせいよ!」
顔を赤くして枕に顔をうずめるレティシア。
クラリスは、レティシアの服を丁寧に片付けながら、今日も愉快な主従関係を見守るのだった。
怪獣8号 楽しかったな(笑)




