新しい協力者(クラリス)
ユージンがいつものようにレティシア姫の部屋の前で、見張りをしている時のことだ。
侍女クラリスが、姫の部屋の掃除をしようと入ってきた。
そこに侍女頭のロザリンドが鋭い目つきで、クラリスを待っていたかのように、大声をあげた。
「クラリス!みなさい、このテーブルクロスに大きなシミが残っているわ!こんな汚いクロスをレティシア様に使わせる気?あなた、心をどこかに忘れてきたようね!」
青くなり今にも泣きだしそうになるクラリス。
「ごめんなさい。ロザリンド様、すぐに新しいものとお取替え……。」
「取り替える時間なんてあげないわ。今から反省室で『侍女失格』だという事を反省なさい。」
勿論、染みつきのテーブルクロスはロザリンドが用意したものだ。ユージンに聞こえるようにガミガミとクラリスに叱責している。もうはっきり言ってロザリンドは、ユージンに対しての嫌がらせをしているのが明らかだ。
(私に歯向かうと、どうなるか見せつけてやる。)
クラリスは恐怖で泣きながら、ロザリンドは勝ち誇ったように彼女を引きずっていく。
レティシアの部屋のドアを開けて、廊下に出たその一瞬、『この決定的な一瞬』をユージンは見逃さなかった。
ロザリンドがクラリスを連れて、廊下を数メートル移動した時だった。彼女の後ろから穏やかな、しかし冷徹な声がした。
「お待ちください!ロザリンド侍女頭!」
ロザリンドはその耳障りな声の主のほうに、最悪な顔で振り向いた。
いつもならにこりともしないユージンが、謎めいた微笑みを浮かべていた。
「なんだ?私は忙しいんだ!」
「いえ…姫の部屋のテーブルクロスがどうだとか…声が聞こえましたので、何か、不都合でも?」
「不都合も何も、お前も見ただろう?この大きな……。」
ロザリンドが慌てて部屋に戻ると、
「……え?」
(し…シミが消えている?…そんな…馬鹿な。)
ロザリンドは自分の目に映る真っ白な布に言葉を失った。
ユージンは普段はあまり笑わない騎士だが、このときロザリンドに対して嫌味と勝利を込めた笑顔を浮かべた。
「ロザリンド様も、もうお年なんですね。そのような清潔な布まで、見間違えてしまうとは。ひとつ、老眼鏡でもおつくりになられたら、よろしいかと?」
ロザリンドは怒りで真っ赤になった。目の前で証拠が消え、自分が侮辱されたことに再び言葉を失い、クラリスをつかんでいた手を離した。
クラリスは慌ててユージンの後ろに隠れた。
ロザリンドは威厳を失ったまま廊下を逃げるように後にした。
「有難うございます。私の不注意で……。」
クラリスの感謝にユージンは目を合わせなかった。
「……あなたに礼を言われる筋合いはありません。」
「えっ?」
「これは私の仕事です。姫付きの騎士として、姫の安全と王家の品位を守ることですから。」
クラリスは再度深々と頭を下げた。
(ユージン様は、私を守ってくれた。)
そしてクラリスは気づいたのであった。
(あの重いテーブルクロスは、しわにならないように侍女が一人で交換するには、相当時間をかけなければ難しいのに。)
クラリスは、ユージンが噂のような『愛に溺れただけの馬鹿騎士』とは到底思えないのだった。




